後ろ向きに階段を降りるとなぜ楽になるのか?運動学的に説明できますか?

人工膝関節全置換術
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 後ろ向き階段降段動作時における下肢の運動学的分析 

膝痛を有する方は階段昇降が困難となる場合が少なくありません.

特に降段動作は昇段動作に比較してもより大きな膝関節屈曲可動域が必要となること,また膝関節伸展筋群の遠心性収縮を要することから,変形性膝関節症をはじめとする膝関節疾患を有する症例にとって最も困難な動作の1つです.

われわれ理学療法士・作業療法士は降段動作が困難な症例に対して,後ろ向きでの階段降段動作を指導することがあります.

今回はこの後ろ向きでの階段降段動作における下肢の運動学的分析を行った研究をご紹介いたします.

 

 

 

 この研究の要旨 

この研究は,後ろ向き降段動作の先導脚の関節角度,および筋電位量を測定し,前向き降段動作と比較することを目的としております.

研究の対象者は,健常成人男性 11 名となっております.

測定項目は,各向きの降段動作の所要時間,先導脚の関節角度および筋電位量となっております.

結果ですが,後ろ向き降段では,前向き降段と比較し,先導脚の股関節伸展筋と足関節底屈筋の筋電位量が増加し,膝関節伸展筋の筋電位量は低下しております.

身体重心位置の影響によって前向き降段動作時では膝関節伸展モーメントが増加し,後ろ向き降段動作時では股関節伸展モーメントが増加している可能性があり,そのために,各筋電位量の違いが認められたのではないかと考察されております..

 

 

 後ろ向き階段降段動作時における下肢の運動学 

階段昇降動作は,日常生活活動において欠かすことの出来ない動作の 1 つです.

特に高齢者や下肢に障害がある者にとっては,安全に階段降段を実施できることは重要な能力となります.

特に本邦では玄関に上がり框のある住居が多く,段差昇降が困難になると外出が制限されてしまう場合が多いのです.

安全な階段降段を実施するためには,2 足 1 段の降段が有効であるため,理学療法・作業療法における臨床現場では,その方法を指導することが多いわけですが,昔から2 足 1 段でも降段が困難な場合には,後ろ向きでの 2 足 1 段の降段方法を指導することがあります.

過去の報告でも,慢性関節リウマチ患者や片麻痺者において後ろ向き降段動作の方が降段時の不安感が減少し有効であることが報告されております.

しかしながら降段動作の身体運動学的特徴はこれまであまり検討されておりません.

つまり後ろ向きで降段した方が動作が楽になるといったことはわかっていたわけですが,なぜ楽になるのかが明らかにされていなかったわけです.

 

 

 研究の対象 

この研究の対象者は,下肢に整形外科的疾患の既往のない健常成人男性 11 名(年齢 20.3±0.4 歳,身長 173.7±3.5cm,

平均体重 62.5±6.9kg:平均±標準偏差)となっております.

また基本的情報として,対象者の年齢,身長,体重,利き足を収集しております.

利き足はボールを蹴る方の下肢を利き足と定義しております.

 

 

 

 研究の方法 

課題動作は手すりを用いない 2 足 1 段での前向きおよび後ろ向き降段動作としております.

この研究では一般的な家屋の階段を想定したため,建築基準法施行令第 23 条 8)を参考に,階段の高さを 20cm,奥行きを 25cm としております.

測定項目は降段動作の所要時間,先導脚の関節角度および筋電位量とし,この研究での先導脚は非利き足としております.

測定回数は各降段動作 1 回とし,十分練習を実施した後に測定を行っております.

関節角度測定には,ビデオカメラ(Everio GZ-R300:JVC 社)を使用し,矢状面より撮影を行っております.

筋電位量の測定には,表面電極を先導脚の股関節伸展筋(大殿筋:大転子と仙骨を結ぶ線の中央),膝関節伸展筋(大腿直筋:上前腸骨棘と膝関節を結ぶ線の中央),足関節底屈筋(ヒラメ筋:下腿の遠位 1/2 でアキレス腱外側)に貼付し,筋電図計(Vital Recorder2:キッセイコムテック社)を用いて行っております.

降段時の速度は規定せず,至適速度にて降段動作を実施しております.

 

 

 

 研究の結果 

関節角度値は,前向き降段と比較し後ろ向き降段で,膝関節屈曲ピーク値・足関節背屈ピーク値が有意に増加し,足関節底屈ピーク値が有意に減少しております.

股関節の関節角度値は向きの違いによる差を認めておりません.

筋電位量は,前向き降段と比較し後ろ向き降段で,1 相では大殿筋の電位量が有意に増加し,大腿直筋の電位量が有意に減少しております.

また2 相ではヒラメ筋の電位量が有意に増加し,3 相では大殿筋の電位量が有意に増加し,大腿直筋の電位量が有意に減少しております.

 

 

 

 この研究からわかること 

この研究の結果,所要時間には向きによる違いがないことがわかります.

後ろ向き降段では,前向き降段と比較し,先導脚の股関節伸展筋の筋電位量が増加する一方で,膝関節伸展筋の筋電位量は低下することが明らかにされております.

第 2 相では足関節背屈角度が増加し,足関節底屈筋の筋電位量が増加しております.

この結果から考えると,先導脚の膝関節伸展筋の活動が低下した対象者に対して後ろ向き降段は有効であると考えられますが,先導脚の足関節の角度制限や,股関節伸展筋と足関節底屈筋の筋電位量の低下を呈している対象者にとっては前向き動作よりも難易度の高い動作になる可能性があるため,前向きでの降段動作を指導する必要があると考えられます.

膝関節のみならず対象者の股関節・足関節の機能を評価した上で,前向きで指導を行う必要があるのか,後ろ向きで指導を行う必要があるのかを考える必要があるといった結果ではないでしょうか.

 

 

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