人工膝関節全置換術例に対する理学療法評価

人工膝関節全置換術
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目次

 人工膝関節全置換術例に対する理学療法評価 

理学療法士の実習の中でクライアントの評価を求められることは多いと思います.

最近はクリニカルクラークシップ形式での実習が主体になっておりますので,1人のクライアントに全ての検査・測定を行うという機会は少なくなっているかもしれませんが,実習指導者に「明日から○○さんの評価を行ってもらうから,どんな検査・測定を行いたいか考えてみて?」なんて言われることも多いと思います.

そこで今回は人工膝関節全置換術例に対する理学療法評価について考えてみたいと思います.

 

 1.術前経過・原疾患 

人工膝関節全置換術の原因として最も多いのは変形性膝関節症ですが,術前の変形性膝関節症の重症度を把握しておくことが重要です.

術前の内反変形の程度から軟部組織の短縮の程度を推測することが重要です.

術前の内反変形が高度な場合には,変形矯正に伴う縫工筋・薄筋等の大腿内側軟部組織のtightnessが顕著となりますので,これが関節可動域制限の原因になる場合が少なくありません.

また一次性の変形性膝関節症例と靱帯損傷や半月板損傷などの外傷後に起こりやすい二次性の変形性膝関節症例では,術後の経過も大きく異なりますので,原疾患を把握しておくことも重要です.

 

 

 

 2.血液データ 

術後に把握しておくべき血液マーカーとしては,CRP・WBC・D-dimmer等が挙げられます.

CPR・WBCは炎症の程度を反映する血液検査マーカーですが,炎症が著しい症例ほど術後の経過が不良となることが多いので,血液検査マーカーから炎症の程度を把握しておくことが重要です.

また人工膝関節全置換術後に生じやすい合併症の1つとして深部静脈血栓症が挙げられますが,深部静脈血栓症を判断するマーカーであるD-dimmerを把握しておくことも重要です.

D-dimmerが高値の場合には,下肢エコーを撮影することがほとんどだと思いますので,合わせて結果を把握しておきましょう.

 

 

 

 

 3.X線・手術記録 

X線・手術記録から得られる情報も非常に重要です.

X線からはFTAの変化をみることで術前後における矯正角度を把握することができます.

また皮切やアプローチ(侵襲筋),インプラントの種類,骨移植の有無,術中可動域,縫合方法などを手術記録から確認します.

 

 

 

 4.疼痛 

人工膝関節全置換術後には疼痛の評価は必須となります.

疼痛の強さをNRS(Numerical Rating Scale)やVAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価を行うとともに,疼痛の性状や部位を確認します.

疼痛部位に関しては,膝関節周囲はもちろんですが,股関節や足関節などの隣接関節を含めて評価を行うことが重要です.

 

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人工膝関節全置換術後の疼痛については以前の記事でもご紹介させていただきましたので,そちらをご参照ください.

 

 5.形態測定 

形態測定では下肢長や周径の評価を行います.

変形性膝関節症は両側罹患例が多く,人工膝関節全置換術によって片側の内反・屈曲変形に矯正がなされた場合には,術側が延長され,非術側が短縮した状態となります.

基本的には大腿長や下腿長には差はありませんが,非術側の内反変形や屈曲拘縮の状況によって転子果長に左右差が生じる場合がほとんどです.

人工膝関節全置換術後には著しい腫張が出現しますので,周径の測定では膝蓋骨直上に限らず,膝蓋骨上縁5cm・膝蓋骨上縁10cmまで左右差が及ぶことが多いです.

経時的に周径を測定すれば,腫張や浮腫の軽減の程度を把握することができます.

 

 

 6.関節可動域 

人工膝関節全置換術後には膝関節屈曲・伸展可動域測定は必須となります.

膝関節屈曲・伸展可動域測定においては,他動運動のみならず自動運動における可動域を確認しておくとよいでしょう.

また可動域測定に当たっては,可動範囲の測定にとどまることなく,疼痛部位を確認しながら,関節可動域制限の原因を把握することも重要となります.

また股関節・足関節・胸腰椎といった他関節にも可動域制限が及ぶことがありますので,隣接関節の可動域を確認しておくことも重要です.

 

 

 

 7.筋力 

急性期にはHand Held Dynamometerを用いて膝関節伸展筋力を測定することが困難な場合が多いですが,術後ある程度の時間が経過すれば,膝関節伸展筋力や膝関節屈曲筋力をHand Held Dynamometerを用いて測定します.

また人工膝関節全置換術後には特に膝関節伸展位における膝関節伸展筋力低下が目立ちますので,Extension lagを確認することも重要です.

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術側膝関節に加えて,対側下肢や股関節・体幹周囲の筋力も確認しておくとよいでしょう.

 

 

 8.QOL 

最近用いられることが多くなっているのが,JKOM等の患者立脚型の評価です.

こういったクライアント視点での評価も合わせて行っていくとよいでしょう.

 

 

 

 9.住宅環境 

人工膝関節全置換術後には,膝関節屈曲可動域制限が生じやすいので,住宅環境が洋式スタイルに整備されているかを確認することも重要です.

 

今回は人工膝関節全置換術例に対する理学療法評価について考えてみました.

基本的な検査測定法を挙げましたが,合併症やクライアントの状況によってはさらに必要な検査・測定があるかもしれません.

ここには挙げておりませんが,動作分析や日常生活動作能力の評価も合わせて行う必要があることは言うまでもありません.

 

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