人工膝関節全置換術例の疼痛-なぜ術後も膝関節内側が痛いのか?-

投稿者: | 2018年12月15日

 人工膝関節全置換術例の疼痛 

人工膝関節全置換術例の理学療法を考える上では,術後の疼痛は避けて通れません.

人工膝関節全置換術例は人工股関節全置換術例に比較しても,術後の疼痛を訴える症例が多く,疼痛の原因を考えた上でアプローチを行うことが重要となります.

今回は人工膝関節全置換術例の疼痛について理学療法士の視点で考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 人工膝関節全置換術例の疼痛の特徴 

人工膝関節全置換術例では手術侵襲と術後侵襲に伴う急性炎症,アライメント変化による筋緊張異常によって膝前面に痛みを訴えやすいといった特徴があります.

また後方関節包の侵襲による膝窩部痛を訴えるクライアントも少なくありません.

さらに手術中には術中の出血量を減少させるため,術中には大腿部を駆血帯で強く駆血するのですが,この駆血帯の使用によって大腿部に疼痛を訴える場合もあります.

手術侵襲や急性炎症に伴う疼痛は,通常術後数カ月も経過すれば軽減しますので,疼痛が数カ月にわたって残存する場合には,アライメント変化に伴う疼痛や,代償性の異常動作パターンに伴う疼痛,心理的な問題などが原因であると考えられます.

手術侵襲に伴う疼痛の原因を考える上では,術式(皮切や関節進入法)を考えた上で,どの組織に侵襲が加わっているかを考える必要があります.

 

 

 

 人工膝関節全置換術例になぜ膝関節内側が痛いのか? 

人工膝関節全置換術後も膝関節内側の疼痛を訴える症例は少なくありません.

内側型膝関節症に対する人工膝関節全置換術では手術により内反アライメントが矯正されるため術前に短縮していた鵞足等の軟部組織や後内側の関節包に伸展・外反方向の伸張ストレスが加わります.

 

この膝関節内側の疼痛は特に膝関節伸展位で組織が伸張されるため,膝関節伸展位で出現しやすいといったと必要があります.

このようなアライメント変化に伴う疼痛は,術前からの矯正が大きい場合に出現することが多いので,術前後のFTAの変化等を評価しておくことが重要となります.

 

 

さらに人工膝関節全置換術の関節進入法ではHunter管(内転筋管)の近くにまで侵襲が及びます.

 

術後の腫張によってHunter管(内転筋管)で伏在神経の絞扼が起こっている場合にも,膝関節内側の疼痛が生じる可能性があります.

Hunter管は内側広筋・縫工筋・長内転筋で構成されるためこの筋群の伸張性が重要となります.

 

 

 

 人工膝関節全置換術例の疼痛評価 

理学療法士が疼痛評価を行う場合には,問診によって疼痛の強さ・質・誘発・緩和要因などについて確認します.

忘れがちですが,確認の際には鎮痛薬の影響について考慮する必要があります.

また鎮痛薬の効用や服薬時間によって疼痛は日内変動すること,鎮痛剤には半減期があり,服薬から時間が経つにつれて薬成分の血中濃度が低下するといった点にも注意が必要です.

例えば,服薬直後と服薬から4~6時間以上経過したときには鎮痛薬の作用が低いため,痛みを強く訴えることがあります.

そのため,服薬状況を確認した上で痛みの評価を行うことが重要となります.

 

問診では,まずは患者が自由に答えることのできる開かれた質問(open-ended question)から行うことが勧められます.

「今日の膝の痛みはどうでしょうか?」などの質問で,主訴を聞き出します.

さらに「ここの部位は痛みますか?」など,答えが「はい」または「いいえ」となる閉ざされた質問(closed question)や,「痛みはいつからありますか?」,「どのようなときに痛みますか?」などの焦点を絞った質問(focused question)を行い痛みの症状を特定していきます.

クライアントによって,質問に対する返答が様々ですので,質問の種類を変えながら主訴を整理・解釈することが重要となります.

評価を進めるにあたり,クライアントの痛みに対して共感することやクライアントに考える時間を与えるために適切な間(沈黙)をとりながら,クライアントとの信頼関係を築いていくことも重要です.

疼痛の訴えを傾聴するには時間を要しますガ,クライアントとの信頼関係を築くためにも重要となります.

痛みの変化を追うために, Visual Analogue Scale(VAS)Numerical Rating Scale(NRS)などを用いて数値化します.

痛みの詳細な部位は圧痛テストで特定します.

発熱は手の甲を用いて患部を触診し,熱感の強さや部位について左右差を確認します.

発赤は視診にて範囲や部位について左右差を確認します.

腫脹はメジャーテープを用いて,膝関節から大腿部までの周径を計測し,左右差を確認します.

 

 

 

 性格や認知に関する評価も重要 

近年,慢性痛に関しては疼痛の認知の歪みの重要性が多く報告されております.

臨床上も手術に対する不安やクライアントの性格によって疼痛が大きく変化するということを経験します。

特に術後は強い痛みによる自己効力感低下や痛みに対する破局的思考が生じやすいので注意が必要です.

特に術前の自己効力感は術後回復にも影響を及ぼします.

痛みに対する破局的思考は術後の痛みを残存させる要因とされており,痛みに対する破局的思考はPain Catastrophizing Scale(PCS),自己効力感はSelf Efficacy Scaleを用いて確認するのが一般的です.

痛みに対する砿局的思考とは,痛みの経験をネガティブにとらえる心理的な傾向を意味します.

このPCSは3つの下位尺度からなり,疼痛について繰り返し考えてしまう傾向を表す「反すう」,痛み感覚への脅威性を表す「拡大視」,痛みに関する無力感の程度を表す「無力感」で構成されます.

これらの心理的な傾向を把握した上で術後に生じている疼痛が破局的な思考によって修飾されているのか否かを把握することも重要となります.

 

 膝関節外側の感覚が鈍いと訴えるクライアントが多いのはどうして? 

疼痛とは異なりますが,人工膝関節全置換術例や膝蓋骨骨折例では,術後に膝関節~下腿近位外側の感覚障害を訴える症例が少なくありません.

伏在神経膝蓋下枝は膝前内側から前外側にかけて走行しています.

正中縦切開(Anterior straight longitudinal incision)では伏在神経膝蓋下枝が切断されるため,この伏在神経膝蓋下枝を切離せざるを得ません.

そのため膝外側の感覚鈍麻を生じます.

この感覚障害はほとんどのクライアントに生じる症状でありますが,術後6カ月あたりから徐々に改善しやすいとされております.

クライアントには多くの方が徐々に改善すること,日常生活動作に大きな影響は無いことをしっかりと説明して不安を取り除いてあげましょう.

 

 

 

参考文献

1)Hopton BP,Reducing lateral skin flap numbness after total knee arthroplasty,Knee,2004
2)vandenAkker-Scheek、et al:Preoperative or postoperative self efficacy: which is a better predictor of outcome after Total hip or knee arthrplasty 7 Patient Educ Couns 2007; 66: 92-9.
3)Lewis GN, et al: Predictors of persistent pain after total knee arthroplasty: a systemetic review and meta-analysis. Br J Anaesth2015; 114: 551-61.
4)松岡紘史:痛みの認知面の評価: Pain Catastrophizing Scale日本語版の作成と信頼性および妥当性の検討心身医学. 2007; 47:95-102.

 

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