理学療法士の視点でExtension lag(エクステンションラグ)の原因を考える

投稿者: | 2018年12月5日

 Extension lag(エクステンションラグ)の原因を考える 

Extension lag(エクステンションラグ)といえば,人工膝関節全置換術後や膝蓋骨骨折後等によく遭遇する病態の1つですが,昔からExtension lag(エクステンションラグ)の原因についてはさまざまな議論がなされてきました.

今回は理学療法士の視点で,Extension lag(エクステンションラグ)の原因について考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 Extension lag(エクステンションラグ)の定義 

Extension lag(エクステンションラグ)の定義ですが,通常は関節中間可動域の伸展筋力は比較的保たれており,他動的には完全伸展可能にも関わらず,自動的には最終伸展域での伸展が不十分な現象を指します.

 

この定義は狭義のextension lagの定義ですが,通常はExtension lag(エクステンションラグ)というと,このExtension lag(エクステンションラグ)を指します.

Extension lag(エクステンションラグ)には広義のlagの定義があり,単純な筋力低下によって自動的に最終伸展域まで伸展が困難な状況を含みます.

膝関節伸展筋力のMMTがPoor levelの場合には,膝関節を完全伸展できないわけですので,広義のlagが生じていることになります.

 

 

 

 Extension lag(エクステンションラグ)の原因 

Extension lag(エクステンションラグ)の原因としては,①大腿四頭筋の筋力低下,②拮抗筋であるハムストリングの収縮または短縮,③腫張・疼痛による神経生理学的な抑制,④縫工筋・大腿筋膜張筋の過活動,⑤膝蓋骨の可動性低下,⑥下腿外旋可動域低下(screw home movement)等が考えられます.

今回はここに挙げた6つの原因について考えてみたいと思います.

 

 ①大腿四頭筋の筋力低下 

これは広義のlagに含まれるものですが,MMTで膝関節伸展筋力がPoor levelの場合には,当然,坐位で膝関節を完全視点することができません.

坐位で膝関節を伸展する動作(膝関節伸展筋のMMT3以上を測定する肢位)では,大腿四頭筋が主動作筋となりますが,膝関節完全伸展位では伸展筋である大腿四頭筋が短縮位となりますので,長さ-張力の関係から発揮できる筋力は小さくなってしまいます.

また膝関節が伸展位に近づけば近づくほど,下腿垂直方向の重力ベクトルが大きくなり,必要な筋力が大きくなるわけです.

計算上は完全伸展するためには,中間域よりも50%以上強い筋力が必要となります.

 

 

 

 ②拮抗筋であるハムストリングスの収縮または短縮 

坐位で膝関節を伸展する動作(膝関節伸展筋のMMT3以上を測定する肢位)では,股関節も屈曲位となっておりますので,ハムストリングスをはじめとする大腿後面の筋群の高い伸張性が必要となります.

よく考えるとこの姿勢って臥位でSLRを行っているのと同じ姿勢なわけです.

特に人工膝関節全置換術後や膝蓋骨骨折術後早期には膝関節伸展時にハムストリングが同時収縮しやすく,膝関節伸展方向の運動の抵抗となる場合もあります.

さらに脛骨大腿関節に不安定性を有する変形性膝関節症例においては,疼痛によって大腿四頭筋・ハムストリングスを同時収縮させ,関節を安定させる動作パターンが習慣化している症例も少なくないため,人工膝関節全置換術後もこういった同時収縮パターンから抜け出せないといった症例も多いわけです.

 

 

 

 ③腫張・疼痛による神経生理学的な抑制 

腫張が認められる場合には,膝関節伸展に伴い関節内圧が上昇し,関節包が伸張され関節内受容器または知覚神経が興奮し,脊髄反射によって大腿四頭筋筋活動の抑制が起こります(Ⅰb抑制).

このような関節腫張に伴う筋活動の抑制は関節原性抑制とも呼ばれますが,筋萎縮が起こって筋力が低下するといったものとは異なり,反射的に筋力が低下するのです.

スポーツ選手が前十字靭帯損傷を起こした直後に膝関節伸展筋に力が入らず,膝崩れしてしまうのはまさにこれです.

筋肉隆々のスポーツ選手ですので筋の量は十分に保たれているにもかかわらず,反射的に抑制がかかって力が入らないというわけです.

同様に人工膝関節術後早期には腫張によって筋出力が低下します.

腫れている時には特に関節内圧の上昇する伸展位で筋出力発揮が難しくなるという点をおさえておきましょう.

 

 

 

 ④縫工筋・大腿筋膜張筋の過活動 

変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術後には,術前に過活動となっていた縫工筋や大腿筋膜張筋は膝関節屈曲作用を有するため,これら筋群の過活動によってlagが生じることがあります.

また内側型変形性膝関節症例で内反変形が高度な場合にも,人工膝関節全置換術による外反矯正によって縫工筋が伸張されtightとなるために,膝関節が伸展しにくくなるケースも多いです.

Lagの1つの原因としておさえておく必要があるでしょう.

 

 

 

 ⑤膝蓋骨の可動性低下 

膝蓋骨高位によって膝蓋骨の上方(頭側)移動が制限されたり,膝蓋骨低位によって十分に膝蓋骨が上方(尾側)へ可動しないと,当然ながらlagが生じてしまいます.

また他動運動で膝蓋骨をうまく誘導しながら膝関節を伸展すると完全伸展が可能にもかかわらず,自動運動では完全伸展できない場合があります.

1つの原因として内外側軟部組織の硬度バランスの影響が考えられます.

通常は膝蓋骨が内側・外側へ引っ張られることなく上方(頭側)へ移動するわけですが,内側広筋の萎縮や,外側構成体のtightnessが生じると膝蓋骨が外側方向へ牽引され,膝蓋骨の軌道が外側方向へ偏位(マルトラッキング)してしまい,完全伸展が困難となります.

 

 

 

 ⑥下腿外旋可動域低下(screw home movement) 

膝関節は完全伸展する際には脛骨が大腿骨に対して外旋する必要があります.

いわゆるScrew home movementですね.

この脛骨の回旋運動が何らかの原因で阻害されると,自動運動では完全伸展が困難になるケースがあります.

Extension lag(エクステンションラグ)がある場合には,下腿の回旋可動域についても確認することが重要です.

 

 

 

 坐位でのlagに何の意味があるのか? 

理学療法の業界では,古くからこのExtension lag(エクステンションラグ)に関してさまざまな議論がなされてきたわけですが,そもそも坐位でlagがあるとどんな問題があるでしょうか?

日常生活を考えた場合には,坐位で膝関節を完全伸展する機会というのはほとんどありません.

重要なのは荷重位,つまり立位で膝関節を完全伸展できるかといった点です.

したがって坐位におけるlagの評価に終始することなく,立位姿勢でlagを確認することが重要となります.

 

 

 

今回はExtension lag(エクステンションラグ)の原因について理学療法士の視点で考えてみました.

Extension lag(エクステンションラグ)には,さまざまな原因が考えられますので,lagの原因を考えて上で,アプローチを行うことが重要となります.

また坐位でのlagのみならず,荷重位でどの程度膝関節を伸展できるかを考慮した上でアプローチを行うことが重要です.

 

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