TUG・歩行速度測定の工夫

理学療法評価
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TUG・歩行速度測定の工夫

昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.

平成30年12月15-16日に京都府で第23回日本基礎理学療法士学会が開催されました.

今回はこの第23回日本基礎理学療法士学会の一般演題の中からTUG・歩行速度計測に関連する研究をいくつかご紹介いたします.

 

TUGの動作パターンの違いからみたバランス能力の差

Timed Up & Go Test( 以下 TUG) は移動性スキルに影響を与えるバランス能力を即座に評価できる手段として開発され,日常臨床でも使用頻度の高い評価方法だと思います.

TUG の利点としては起立・方向転換・着座などの動作に伴う姿勢制御を調べられるといった点が挙げられますが,バランス能力の差は各動作のどこかに特徴的に出現する可能性があります.

この研究では,TUG の動作パターンを分類し,他の要因との関連性を検討することでバランス能力の差を動作パターンの違いから検討しております.

対象は A 病院のイベントにおいて体力測定を実施した 65 歳以上の地域在住高齢者 34 名のうち同意が得られた 31 名となっております.

調査項目は年齢,BMI,TUG,最大一歩幅,30 秒椅子立ち上がり,握力,片脚立位保持時間となっております.TUG を矢状面からビデオカメラにて撮影し,起立 ( 初動〜頭頂部最高到達点 ) ,往路歩行 ( 頭頂部最高到達点〜足部の位置を方向転換する側に向けた時の initial contact( 以下 IC)) ,方向転換 ( 足部の位置を方向転換する側に向けた時の IC 〜足部の位置を椅子に向けた時の IC) ,復路歩行 ( 足部の位置を椅子に向けた時の IC 〜頭頂部下降開始点 ) ,着座 ( 頭頂部下降開始点〜殿部座面接地 ) の 5 つの動作の所要時間を計測しております.

この各phaseにおける遂行時間を全体の所要時間で除して各動作の割合を算出し,それら 5 つの動作の割合を変数としてクラスタ分析 ( ウォード法,ユークリッド距離 ) を行い 2 群に分類したのち前述の調査項目について群間比較しております.

 

結果ですがクラスタ分析の結果,起立・方向転換・着座の割合が高い群 ( 歩行の割合が低い群:以下歩行低割合群 ,n=19) と往路歩行・復路歩行の割合が高い群 ( 以下歩行高割合群 ,n=12) の 2 群に分類されており,群間比較の結果,歩行低割合群の方が有意に年齢が若く,片脚立位保持時間が長いといった結果となっております.その他の項目では有意差はみられておりません.

 

歩行高割合群が起立後に歩行を開始するのに対して,歩行低割合群は起立中に歩行を開始していると推測されます.

つまり歩行低割合群は各動作の繋がりが流動的であり質量中心の前方への水平モーメントの停滞が少ない群であると言えます.

またTUG の動作の流動性に着目することで全体の所要時間だけでは判らないバランス能力の差を見出せる可能性が示唆されます. よってTUG 測定においては,時間の測定のみならず,各動作の繋がりに着目して評価を行うことが重要であると考えられます.

TUGによってバランス能力評価を行う上での1つの視点になる研究だと思います.

 

 

 

 

最速歩行を利用した代償的筋活動の抽出

歩行速度の評価を行う場合には,快適歩行を評価する場合と,最速歩行を評価する場合があります.

大腿骨近位部骨折例においても快適歩行や最速歩行を使って歩行能力を評価する機会は少なくないと思います.

この研究では快適歩行と最速歩行における歩行パラメーターおよび筋活動を比較し特徴を検討し,快適歩行のみの評価では表れない問題点を抽出することができる可能性を報告しております.

 

対象は大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術または人工骨頭置換術を施行した 5 名となっております.

計測はいずれも術後 3 週目に実施されております.

対象者は10m の直線歩行路を独歩にて快適歩行および最速歩行し,その際の患側下肢の筋活動と歩行速度,歩数を計測しております.

歩数からストライド長,歩行率を算出し,それぞれ 2 回の計測の平均を代表値としております.

この研究では歩行中の筋活動も測定されておりますが,被検筋は大腿筋膜張筋,中殿筋,大殿筋上部線維,大殿筋下部線維となっております.

 

結果ですが最速歩行において,対象者のうち4名は快適歩行と比較して,110~120% 歩行速度が向上しております.

残り1名は最速歩行で上昇率194% と大きく速度が上がり向上し,ストライド長の延長よりも歩行率が増加しております.

筋活動の変化ですが快適歩行から最速歩行での速度上昇率が 110〜120% であった 4 名のうち 2 名の対象者はストライド長が最も短かく,そのうち2名は最速歩行で立脚終期から遊脚期への移行期に大殿筋下部線維の筋活動が増加しております.

 

この研究から考えると,快適歩行と最速歩行の筋活動を比較することで歩行の代償戦略を明確にすることができると考えられます.

大腿骨近位部骨折例に限ったことではありませんが,快適歩行よりも最速歩行によって評価を行うことで,さまざまな異常を抽出できると思います.

これは日常臨床でもよくあることですが,歩行器を使用しているとよく見えなかった問題が,1本杖を使用すると

歩行能力評価を行う上で課題の難易度を考慮した上で評価を行うことが重要であることが示唆される結果ではないかと思います.

 

 

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