昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
平成30年12月15-16日に福岡県で第6回日本運動器理学療法士学会が開催されます.
今回はこの第6回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から大腿骨近位部骨折関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
目次
大腿骨近位部骨折術後症例に対する電気刺激併用筋力強化法の効果
大腿骨近位部骨折術後の歩行能力獲得には,年齢,骨折型,認知症の有無,筋力などが関連すると報告されておりますが,特に膝伸展筋力と歩行能力との関連についてはこれまでにも数多くの報告があります.
大腿骨近位部骨折例の膝関節伸展筋力を強化する方法として,電気刺激療法が挙げられますが,今回ご紹介いたします研究では,電気刺激療法を併用した筋力強化の股関節機能の早期改善,歩行能力の早期獲得に対する効果を検討しております。
対象は大腿骨近位部骨折 71 例 (人工骨頭置換術 37 例,ガンマネイル固定術 34 例) となっております.
この71例を電気刺激療法を併用した筋力強化を実施する介入群39 名(78.3±10.9歳,在院日数57.0±24.0日)と対照群32名(79.3±9.8歳,在院日数55±19.2日)に割り付けております.
電気刺激療法については患側の大腿四頭筋に対して二相性非対称性パルス波,パルス幅 300 μ s,周波数 80Hz,強度は運動レベルの耐えうる最大強度,ON:OFF 時間= 5:7 秒に設定して術後翌日から毎日 20 分間実施されております.
この研究の興味深い点は,対照群についても介入群と同程度の時間の筋力強化練習を実施しております.つまり筋収縮の時間は同等ということであり,自動運動と電気刺激による収縮の違いが検討されているということになります.
介入によるアウトカムとしてハンドヘルドダイナモメーターを使用した膝伸展筋力(患健側比)と日本整形外科学会股関節機能判定基準(股関節JOAスコア)を退院時に測定ております.
また退院時の歩行形態を記録し,全対象者に対して受傷前の歩行形態を再獲得できた者の割合を算出しております.
結果ですが,膝伸展筋力(患健側比%)は介入群で85.1±16.0%,対照群で75.5±16.0%と,介入群で有意に高値となっております.
股関節JOA スコアは介入群で74.9±10.5 点,対照群で69.5±13.8 点で有意差を認めておりません.
受傷前の歩行形態を再獲得した割合については,介入群で対照群に比較して有意に高い結果となっております.
この研究結果から,大腿骨近位部骨折例に対する電気刺激療法は,退院時の膝伸展筋力や受傷前歩行形態の再獲得に効果的に寄与する可能性が示唆されます.
この研究は骨折型や年齢等の交絡も含めて検討がなされれば,さらに臨床的に意義の高い研究になると思います.
転子部骨折例における骨折型・小転子転位が術後運動機能に与える影響
大腿骨転子部骨折例は疼痛が遷延しやすく,術後経過や長期的な予後が不良であることが知られております.
転子部骨折は安定型骨折と不安定型骨折に分類されますが,安定型骨折と不安定型骨折では骨折周囲の軟部組織損傷や整復の難易度も異なるため,術後の運動機能も異なることが推測されます.
また小転子骨片転位の有無も術後運動機能に影響を与えることが予測されますが,小転子骨片転位の有無と術後運動機能との関連を明らかにした報告は少ないのが現状です.
この研究では大腿骨転子部骨折例における骨折型および小転子骨片転位の有無が,年齢,受傷前の日常生活自立度,認知症の程度,術式といった交絡因子から独立して,術後運動機能(疼痛,関節可動域,下肢筋力,歩行能力)に与える影響を検討しております.
対象ですが大腿骨転子部骨折例95例となっております.
調査項目として年齢,性別,受傷前における障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度,骨折型,小転子骨片転位の有無,術式,免荷期間を調査しております.
さらに術後運動機能(術後 4 週)として疼痛(安静時・荷重時),関節可動域(患側股屈曲・伸展・外転,患側膝屈曲),筋力(患側・健側股外転,患側・健側膝伸展),歩行能力(0:歩行不能・1:平行棒・2:歩行器・3:杖・4:独歩の 5 段階順序尺度)を評価しております.
従属変数を術後運動機能,独立変数を骨折型および小転子骨片転位の有無,共変量を年齢,受傷前の日常生活自立度,認知症高齢者の自立度等の交絡因子として共分散分析を行い,骨折型および小転子骨片転位の有無が術後運動機能に与える影響を検討しております.
結果ですが,骨折型と有意な関連を認めた運動機能は荷重時痛,患側股屈曲可動域,患側膝屈曲可動域,患側股関節外転筋力,患側・健側膝関節伸展筋力,歩行能力であり,いずれも不安定型群で有意に運動機能が不良であったと報告されております.
また小転子骨片転位の有無と有意な関連を認めた運動機能は歩行能力であり,小転子骨片転位例で有意に歩行能力が不良であったと報告されております.
この研究の結果から考えると,不安定型骨折例および小転子骨片転位を有する症例は,年齢や受傷前の自立度,認知症の程度等の交絡因子を考慮しても,歩行能力が低下しているだけでなく,可動域や筋力いった他の運動機能も不良であることが明らかにされており,理学療法を行う上でも骨折型や小転子骨片転位の有無を考慮した上で運動療法を行う必要があると考えられます.
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