目次
リハビリ(理学療法)に役立つ大腿骨頸部骨折の分類と術式
大腿骨頸部骨折の分類については以前の記事でご紹介させていただきましたが,大腿骨頸部骨折は大きく分類すると転位型骨折と非転位型骨折に分類されます.
非転位型骨折にはピンニングなどの骨接合術が,転位型骨折には人工骨頭置換術が施行されることが多いです.
ピンニングによる骨接合術と人工骨頭置換術では侵襲筋も全く異なりますので,生じやすい機能低下も大きく異なります.
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頸部骨折に対する骨接合術の手術記録
手術方法について理解していただくために,まず非転位型骨折に対して行われる骨接合術の中でも使用頻度の高いHanson pinによる骨接合術の手術記録を供覧したいと思います.
- 患者を仰臥位とした.
- 牽引手術台でfoot holderを用いて股関節をやや外転・内旋して術側下肢を牽引した.円刃で大転子より末梢から直線上の小皮切を加えた.
- 経皮的にfascia lataを尖刃で開窓してガイドワイヤーブッシュを挿入した.
- ガイドワイヤーブッシュ先端で大腿骨外側の背腹中央を触知して,約135度の角度で2.4mm ガイドワイヤーを前後像では大腿骨頚部内側皮質骨直上,側面像では頚部の中央からやや前方に刺入した.
- 続いて中空ショートドリルでドリリングを行い、測定すると80mmだった.遠位の中空ショートドリルを骨内に残したまま、幅10mmのドリルガイドを用いて,近位ガイドワイヤーの刺入位置が大腿骨骨軸に対して約45度後方になるようにして,近位ガイドワイヤーを刺入した.⑥側面像では大腿骨頚部後方皮質に接するようにした.
- 同様にして中空ショートドリルで近位のドリリングを行い,測定すると70mmだった。まず近位ピンのフック部開窓部が前方となるようにピンを挿入した.奥まで挿入した後,T型ハンドルを時計回りに回してフックを作動させた.同様にして遠位ピンのフック部開窓部が上方となるようにピンを挿入した.
- 奥まで挿入した後,T型ハンドルを時計回りに回してフックを作動させた。創部を生食500mlで充分に洗浄した.vastus lateralisを2-0 PDS,皮下を3-0 PDSで縫合し,スキンステープラーで閉創して手術を終了した.vastus lateralis:外側広筋 fascia lata:大腿筋膜
頸部骨折に対する人工骨頭置換術(後方アプローチ)の手術記録
次に転位型骨折に対して行われる人工骨頭置換術(後方アプローチ)の手術記録を供覧したいと思います.
- 体位皮切:左側臥位とし大転子中枢6cmの部位より大転子外側後方を縦断し小転子下2cmの部位まで皮切を加えた.
- 展開:皮下の脂肪組織は薄かった.大腿骨の外側で大腿筋膜を切開し,外側広筋・大殿筋を露出した.筋線維間を筋鉤で鈍的に分けた.剥離を進めると梨状筋・閉鎖筋・双子筋・大腿方形筋を確認した.下肢は内旋位とし梨状筋と双子筋を電気メスで切断し後方に反転させ関節包を露出させた.
- 関節包:後方関節包は断裂は見られなかった.転子部に創切開と頸部軸方向に中枢より末梢方向に向けて切開を加え,骨頭および頸部を確認した.
- 骨頭:エレバラスパで骨頭を引き出した.骨折は関節内で生じていた.骨頭の軟骨損傷は無く,骨頭径は42mmであった.また臼蓋側の軟骨面も温存されていた.円靭帯は骨頭とは断裂していた.
- ラスピング:患肢膝関節90°屈曲位とし股関節屈曲・内転・内旋した.大腿骨頸部皮質骨が一部残存していたためBonesawで切離した.リーマーを用いて髄腔への導入を行った.
- インプラント:カップ45mmの骨頭・Neckを使用した.人工骨頭を20°前捻で挿入した.
- 確認:整復操作後,股関節が0°まで伸展し,股関節90°屈曲・60°内旋で脱臼しない事を確認した.
- 創内を洗浄し小骨片を洗い流した.関節包を縫合した.梨状筋および双子筋を大転子に逢着し,大殿筋は筋膜と縫合し,筋膜を縫合した.皮下および皮膚を縫合した.
骨接合術(ピンニング・ハンソンピン)の機能低下
以上の手術記録をもとに,侵襲組織と機能低下(疼痛・可動域・筋力)をまとめると以下の表のようになります.
骨接合術(ピンニング)後の疼痛
通常,ピンニングによる骨接合術では大腿筋膜張筋と外側広筋に侵襲が加えられます.
術後の疼痛も軽い場合が多く,骨折の転位もわずかなので荷重に伴う骨膜由来の疼痛も少ないことが多いです.
骨接合術(ピンニング)後の可動域制限
大腿筋膜張筋が侵襲を受けるので股関節内転可動域が,外側広筋が侵襲を受け,さらに大腿筋膜張筋の侵襲により外側膝蓋支帯の柔軟性も低下しますので膝関節屈曲可動域が制限される場合が多いですが,いずれにしても術後早期に改善が得られる場合がほとんどです.
骨接合術(ピンニング)後の筋力低下
筋力低下については頸部短縮に伴う股関節外転筋力の低下や,外側広筋の切開に伴う膝関節伸展筋力などが生じやすいですが,これに関しても軽度の場合が多く,筋力回復も比較的良好です.
当然ながら術後早期には疼痛に伴う股関節周囲筋の筋力低下や術前後の活動量減少に伴う廃用性の筋力低下が生じやすいといった点も忘れてはなりません.
人工骨頭置換術のBHA・BHP,Bipoar・Monopolarって何?
機能低下のお話の前に,人工骨頭置換術ってBHAとかBHPと省略して表記されることがあります.
これはBipolar Hip Arthroplasty(BHA)とBipolar Hip Arthroplasty Prosthesis(BHP)の略称です.
ちなみにBipolarというのは双極性といった意味を持つ単語ですがMonopolarつまり単極性といった用語と対比して使用されることが多いです.
Monopolar型はアウターヘッドは無く,臼蓋とインナーヘッドの間で可動するのに対して,Bipolar型はインナーヘッドとアウターヘッドの間で主に可動します.臼蓋とアウターヘッドの間も僅かに可動するとされております.
最近はBipolarが使用されMonopolarが使用されることはほとんど無いと考えてよいでしょう.
人工骨頭置換術 BHA・BHP(後方侵入・後方アプローチ)の機能低下
人工骨頭置換術の場合には大腿筋膜張筋の切開や大殿筋の切開が加えられますが,後方進入による人工骨頭置換術の場合には特に影響力が大きいのが深層外旋六筋の切離です.
手術による筋の侵襲は切開と切離に分類できますが切開が筋線維に平行に侵襲が加えられるのに対して,切離の場合には筋線維に対して垂直に侵襲が加えられます.当然ながら切開に比べて切離による機能低下が大きいので,人工骨頭置換術では深層外旋六筋の機能低下が生じやすいと考えられます.
人工骨頭置換術(後方アプローチ)後の疼痛
人工骨頭置換術の場合には骨折部は人工物に置換されますので骨膜由来の疼痛は理論的には生じることは無く,創部痛が主となりますが,これについても術後数週で軽減が得られる場合がほとんどです.
人工骨頭置換術(後方アプローチ)後の可動域制限
可動域については屈曲・内転・内旋の複合運動が禁忌肢位となりますが,過度にオフセットが設定された場合には伸展・内転方向の可動域も制限される場合があるので注意が必要です.筋力低下に関しては特に深層外旋六筋の切離に伴う股関節回旋筋群の筋力低下が顕著となります.
人工骨頭置換術(後方アプローチ)後の筋力低下
加えて回旋筋のstabilizerとしての機能低下に伴い,外転筋群や伸展筋群の筋出力発揮が低下するといった点にも注意が必要です.
今回は一般的な侵襲組織を上げ,術式別に生じやすい機能低下について考えてみました.当然ながら侵襲組織は術者や患者によっても異なりますので,手術記録を確認することが重要です.
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