まさか自転車エルゴメーターのワット数をテキトーに設定してませんよね?

投稿者: | 2018年10月6日

 リハビリにおけるエルゴメーターの運動負荷 

内部障害を有するクライアント対象に心肺機能の向上を目標に自転車エルゴメーターを使って有酸素運動を行ったり,整形外科疾患のクライアントを対象に全身持久力の向上を目的に自転車エルゴメーターを使って有酸素運動を行ったりと,理学療法の中で自転車エルゴメーターを使ったプログラムを行うことは少なくないと思います.

心臓リハビリテーションの領域では運動負荷試験を行って,酸素摂取量を測定して予測曲線を使って,厳密に運動負荷を決定するのが正しい方法ではありますが,運動負荷試験を全ての症例に行うのも難しいでしょう.

循環器系の合併症の無い運動器疾患の方にわざわざ運動負荷試験なんて行いませんよね.自転車エルゴメーターにおける運動負荷というのはW(ワット)という単位を使って設定がなされますが,そもそもこのW(ワット)が何を意味するものなのかを十分に理解せず,テキトーにW(ワット)数を設定している理学療法士は少なくないと思います.

今回は自転車エルゴメーターのW(ワット)数の設定方法について考えてみたいと思います.

 

運動負荷試験Q&A 119改訂第2版 [ 上嶋健治 ]

 よくある自転車エルゴメーターにおける負荷強度の設定 

皆さんは自転車エルゴメーターの負荷強度の設定をどのように行っているでしょうか?多いのは以下のような方法ではないでしょうか?

  1. 根拠は無いがとりあえず30Wくらいからはじめる
  2. 脈拍数が100~110となる負荷強度を探す
  3. カルボーネン法を使って40~60% HR maxになる負荷強度を探す
  4. クライアントの自覚的運動強度に合わせてきつすぎず,楽すぎない負荷量を探す

このなかでも多いと思われるのは,1か4の方法ではないでしょうか?はっきり言ってこれだと素人でもできますよね.

 

 そもそも負荷強度(ワット:W)とは何か? 

自転車エルゴメーターの負荷強度はW(ワット)数で規定されるわけですが,そもそもW(ワット)って何でしょうか?

W(ワット)を理解するにはN(ニュートン)とJ(ジュール)といった単位の概念を理解する必要があります.

1N:質量1kgの物体に1m/s2の加速度がかかっているときに物体に加わっている力(=kg・m/s2
1J:質量1kgの物体を1m/s2 の加速度で1m動かした時の仕事(=N・m)
1W:質量1kgの物体を1m/s2 の加速度で1m動かした時の1秒あたりの仕事で仕事率とも呼ばれる(=J/s)

つまり仕事率(W:ワット)というのは物体に加わった力(N)と動かした距離(m)によって決まります.

 自転車エルゴメーターにおける負荷強度 

自転車エルゴメーターの負荷強度であるW(ワット)数に関しては上のような数式が成立するわけです.

つまり自転車エルゴメーターによる負荷強度はトルク回転数によって決まると考えることができるでしょう.自転車エルゴメーターというのは府架橋度がW(ワット)で規定されておりますので,実はトルクと回転数は常に変動しているのです.

自転車エルゴメータ―を駆動経験のある方は理解できると思いますが,回転数を下げれば(ゆっくり駆動すれば)重たくなります(トルクが大きくなる)し,回転数を上げれば(速く駆動すれば)軽くなります(トルクが小さくなる)

したがってある一定範囲内の回転数で自転車を駆動した状態では,回転数を上げても消費エネルギー量が増えることはないわけです.

なので速くこいだらそれだけ運動になりますといったようなクライアントへの指導は大間違いで,「ゆっくりこぐと重くなります,速くこぐと軽くなります,常に同じ強さの運動ができるようになってます」というのが正しい説明となります.

 

 

 W(ワット)と酸素摂取量・運動強度(Mets)の関係 

ヒトは1Wの運動をすると酸素を10.8ml消費することになりますが,自転車駆動運動では脚の筋肉の内部摩擦や,反対側の反発力によるロスを1.2ml/Wとみこんで1Wあたりの酸素摂取量を10.8+1.2=12.0ml/Wとするのが普通です.

さらに自転車駆動中に姿勢を維持するために必要な仕事率1Mets(3.5ml/kg/min)を加えるとW(ワット)を一般的な運動強度の指標である,Metsに変換することが可能です.

 

 W(ワット)・変換表 

この変換表は上の数式を使ってW(ワット)をMetsに変換したものです.

この変換表を使えばW(ワット)で表される運動強度を一般的な運動強度の単位であるMetsに置き換えることができるわけです.

ここで非常に重要なのは,自転車駆動では同じ運動負荷量でも体重によって運動強度が異なるといった点です.

トレッドミルや踏み台昇降運動といった有酸素運動では,自重が運動負荷になるので体重の多い少ないによって運動負荷にバラツキが出ることはないわけですが,自転車エルゴメータ―の場合には同じ40Wといった運動負荷でも80kgの人と40kgの人とでは2倍以上負荷が異なることになります.

 

 

 変換表を使って運動処方をしてみよう 

体重40kgの女性に

①普通歩行程度の強度で運動負荷を設定したい
⇒3.0Metsに相当する10Wを運動強度とする

②速歩程度の強度の運動負荷を設定したい
⇒3.9Metsに相当する20Wを運動強度とする

③階段昇降程度の強度の運動負荷を設定したい
⇒6.0Metsに相当する45Wを運動強度とする

 こんな感じで運動処方を簡単にすることができます.

こういった知識を持っておけば何となく30Wではじめようとかそんな素人みたいな運動強度の仕方はしなくてよいわけです.

 

 

 Metsを使う利点-簡単に消費エネルギー量を算出できる- 

わざわざW(ワット)という単位をMetsに変換する利点としてはMetsとおおよその運動の強度を把握しておけば運動強度を連想しやすいといった利点が挙げられます.

実はこれ以外にもW(ワット)という単位をMetsに変換する利点として簡単に消費エネルギー量を算出できるといった利点が挙げられます.

健常成人の安静座位の酸素摂取量(VO2):3.5ml/kg/分が1Metsとなります.1Mets=3.5ml/kg/分で,酸素消費1ℓ当たりの消費エネルギー量は5kcal/kgですので

総エネルギー消費量(kcal)
=Mets(運動強度)×3.5×5×1/1000×実施時間(h)×60×体重(kg)
≒ Mets(運動強度)×実施時間(h) ×体重(kg)となります.

したがって例えば体重60kgの男性が4Metsの強度で20分自転車をこいだ場合には,4Mets×20/60(h)×60kg=80kcalの消費エネルギー量となります.けっこう簡単に消費エネルギー量が算出できます

運動を行っている人というのは今の運動でどの程度消費できたのかというのは非常に気になりますので,専門家であるわれわれがこういった知識を持って消費エネルギー量を算出して伝えることも重要だと思います.

エルゴメーターに消費エネルギー量を算出する機能のついたものもあると思いますが,実は一般的なエルゴメーターに表示される消費エネルギー量は体重が考慮されていないものが多く,標準体重で算出したエネルギー量であり,数値としては間違ったものだといった理解が必要です(特に体重を入力しないタイプのものは標準体重をもとに計算された消費エネルギー量だと考えてよいと思います).

 

運動処方の指針原書第8版 運動負荷試験と運動プログラム [ アメリカスポーツ医学会 ]

 

今回は自転車エルゴメーター駆動における運動負荷量の決定方法についてご紹介いたしました.テキトーに運動負荷を設定していては恥しいですよね.きちんとした知識に基づいて負荷量を決定しましょう.われわれは専門家なのですから…

次回はトレッドミルと踏み台昇降運動の負荷量の決定についてご紹介いたしますのでお見逃しなく!

踏み台昇降運動・トレッドミルもテキトーに運動強度決めてませんか?

 

 

 

 

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