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iNPH症例における間欠性歩行障害
iNPH症例といえば昔はパーキンソン症候群と一括りにされていた疾病ですが,適切に治療がなされれば治癒する認知症として広く知られるようになりました.
脳神経外科を標榜している医療機関であればiNPH症例に対して理学療法士・作業療法士が関わる機会も多いと思います.
iNPH症例の3大徴候といえば,歩行障害,認知障害,排泄障害ですが,この中でも理学療法士・作業療法士が評価を行うことが多いのが歩行障害です.
iNPH症例の歩行障害といえばパーキンソン病に類似した特徴を示しますが,歩隔がパーキンソン病に比較して広い等といった点もiNPH症例の大きな特徴です.
近年もiNPH症例の歩行障害に関する研究が進められておりますが,今回はその中でもiNPH症例の間欠性歩行障害に関するデータをご紹介させていただきます.
間欠性歩行障害って脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症でしょと思われる理学療法士・作業療法士は,今回の記事は必見です.
今回ご紹介する論文
Clinical Trial Acta Neurol Scand. 2018 Feb;137(2):238-244. doi: 10.1111/ane.12853. Epub 2017 Oct 11.
Intermittent gait disturbance in idiopathic normal pressure hydrocephalus
Y Nikaido 1 2, Y Kajimoto 3, A Tucker 3, K Kuroda 1, H Ohno 1, T Akisue 2, R Saura 4, T Kuroiwa 3
Affiliations expand
PMID: 29023635 DOI: 10.1111/ane.12853
今回ご紹介する論文は2018年に掲載された論文です.
研究の目的
Objectives: We identified intermittent gait disturbance (IGD) observed in the mild stage of idiopathic normal pressure hydrocephalus (iNPH). The first purpose of this study was to clarify the temporal gait profile of IGD during long-distance gait. The second purpose was to confirm the difference in treatment effect after cerebrospinal fluid (CSF) shunting in patients with and without IGD.
この研究では特発性正常圧水頭症(iNPH)の軽症期に認められる間欠性歩行障害を確認しております.
この研究の第一の目的は,長距離歩行時の間欠性歩行障害の時間的な歩行プロファイルを明らかにすることとなっております.
また第2の目的は,間欠性歩行障害を有するクライアントとそうでないクライアントの脳脊髄液(CSF)シャント後の治療効果の違いを確認することとなっております.
研究の方法
Materials and methods: Fourteen consecutive iNPH patients with mild gait disturbance with a timed up-and-go (TUG) of <20 seconds were prospectively enrolled in the study. All patients were asked “Do you experience gait difficulty after over five minutes of walking?” Seven “yes” patients formed the IGD group, and seven “no” patients formed the persistent gait disturbance (PGD) group. One day before and 7 days after CSF shunting, gait function was evaluated by the 6-minute walk test (6MWT) and TUG.
TUGの測定タイムが20秒未満の軽度の歩行障害を有するiNPH症例14例を対象としております.
研究は前向きに行われております.
すべての症例に対し手 “5分以上の歩行で歩行困難を感じるか?”といった質問を行っております.
「はい」と回答した7例のクライアントを間欠性歩行障害群、「いいえ」と答えた7名の患者を非間欠性歩行障害としております.
CSFシャントの1日前と7日後に,6分歩行テスト(6MWT)とTUGで歩行機能を評価しております.
研究の結果
Results: Preoperatively, all patients in the IGD group demonstrated features of IGD during the 6MWT, characterized by a progressive pattern of decreased gait speed and step length with increased cadence and absence of leg pain. Post-operatively, these features of IGD improved in all patients. In the PGD group, preoperative walking did not significantly worsen during the 6MWT and did not significantly change 7 days after treatment. Improvement of gait symptoms 1 week after CSF shunting could be detected with 6MWT instead of TUG.
術前,間欠性歩行障害群のすべてのクライアントは,6MWTにおいて間欠性歩行障害の特徴を示しました.
その特徴とはケイデンスの増加を伴う歩行速度と歩幅の減少という進行パターンであり,下肢の疼痛は認めませんでした.
術後これらの間欠性歩行障害の特徴はすべての症例で改善されました.
非間欠性歩行障害群では,術前の歩行は6MWTで有意に悪化せず,治療後7日目にも有意な変化は認めませんでした.
CSFシャント後1週間の歩行症状の改善は,TUGの代わりに6MWTで検出可能でありました.
研究の結論
Conclusions: Intermittent gait disturbance is not a rare symptom in mild stage of iNPH and may serve as an important clinical diagnostic marker for identifying mild iNPH patients.
間欠的歩行障害は軽度のiNPHでは珍しい症状ではなく,軽度のiNPH患者を識別するための重要な臨床診断マーカーとなる可能性があります.
今回はiNPH症例の間欠性歩行障害に関するデータをご紹介させていただきました.
歩行障害が軽度な場合には長距離歩行時に出現する歩行障害に着目するとよさそうですね.
また歩行距離の負荷をかけることによって顕在化する歩行障害がある場合には,iNPHを疑う必要がありますね.
脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症との鑑別は必要でしょうけどね.