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関節可動域(ROM)改善に有効なのはストレッチによる他動運動?それとも自動運動?
理学療法士・作業療法士であれば関節可動域拡大を目的にクライアントに対して運動療法を提供する機会は多いと思います.
私も以前から思っていたのですが,関節可動域を拡大させるにあたってはストレッチによる他動運動と,クライアントの筋収縮を伴う自動運動とどちらが有効なのでしょうか?
対象者の状況によるというのが正解なのでしょうが,今回はROM改善に有効なのはストレッチによる他動運動なのか,それとも自動運動なのかを明らかにしたシステマティックレビュー論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Open AccessSystematic Review
Strength Training versus Stretching for Improving Range of Motion: A Systematic Review and Meta-Analysis
by José Afonso 1OrcID,Rodrigo Ramirez-Campillo 2,3OrcID,João Moscão 4,Tiago Rocha 5OrcID,Rodrigo Zacca 1,6,7OrcID,Alexandre Martins 1OrcID,André A. Milheiro 1,João Ferreira 8,Hugo Sarmento 9OrcID andFilipe Manuel Clemente 10,11,*OrcID Healthcare 2021, 9, 427. https://doi.org/10.3390/healthcare9040427
今回ご紹介する論文は2021年に掲載された論文です.
研究の背景
Background: Stretching is known to improve range of motion (ROM), and evidence has suggested that strength training (ST) is effective too. However, it is unclear whether its efficacy is comparable to stretching. The goal was to systematically review and meta-analyze randomized controlled trials (RCTs) assessing the effects of ST and stretching on ROM (INPLASY 10.37766/inplasy2020.9.0098).
ストレッチは可動域を改善することが知られておりますが,筋力トレーニング(ST)もまた関節可動域を改善するうえで有効であることが示唆されております.
しかしながら筋力トレーニングによる関節可動域拡大に対する有効性がストレッチに匹敵するかどうかは不明であります.
この研究では関節可動域(ROM)に対する筋力トレーニングとストレッチの効果を評価した無作為化比較試験(RCT)を系統的にレビューし,メタアナリシスを行うことを目的としております.
研究の方法
Methods: Cochrane Library, EBSCO, PubMed, Scielo, Scopus, and Web of Science were consulted in October 2020 and updated in March 2021, followed by search within reference lists and expert suggestions (no constraints on language or year). Eligibility criteria: (P) Humans of any condition; (I) ST interventions; (C) stretching (O) ROM; (S) supervised RCTs.
Cochrane Library,EBSCO,PubMed,Scielo,Scopus,Web of Scienceを2020年10月に参照し,2021年3月に更新した後,参考文献リスト内の検索と専門家の提案を行っております.
対象となる基準 はP)あらゆる状態のヒト,(I)筋力トレーニングによる介入,(C)ストレッチ,(O)関節可動域(ROM),(S)監督下でのRCTとなっております,
研究の結果
Results: Eleven articles (n = 452 participants) were included. Pooled data showed no differences between ST and stretching on ROM (ES = −0.22; 95% CI = −0.55 to 0.12; p = 0.206). Sub-group analyses based on risk of bias, active vs. passive ROM, and movement-per-joint analyses showed no between-protocol differences in ROM gains.
最終的に11の論文(n = 452人)が対象となりました.
プールされたデータでは,関節可動域(ROM)に関して筋力トレーニングとストレッチの間に差は認めませんでした(ES = -0.22; 95% CI = -0.55 to 0.12; p = 0.206).
またバイアスのリスク,自動関節可動域(ROM)と他動関節可動域(ROM),関節ごとの動作分析に基づくサブグループ分析では,関節可動域(ROM)の向上に筋力トレーニングとストレッチ間の差は認められませんでした.
研究の結論
Conclusions: ST and stretching were not different in their effects on ROM, but the studies were highly heterogeneous in terms of design, protocols and populations, and so further research is warranted. However, the qualitative effects of all the studies were quite homogeneous.
筋力トレーニングとストレッチは,関節可動域(ROM)に対する効果に違いはありませんでしたが,研究デザイン,プロトコル,母集団の点で非常に異質性が高い結果であったため今後さらなる研究が必要であります.
しかしながら全ての研究の質的効果は極めて同質的でありました.
今回はROM改善に有効なのはストレッチによる他動運動なのか,それとも自動運動なのかを明らかにしたシステマティックレビュー論文をご紹介させていただきました.
臨床的にも他動的なストレッチよりもActive に動いた方がROM改善だけじゃなくてさらに付加効果は高いと思います.
また筋の滑走性を考慮すると,他動運動のみならず収縮要素を用いて滑走性の改善を図ることが有益な場合もあります.
どちらが効果的か結論は出ておりませんが,他動運動のみに終始せず,自動運動や抵抗運動につなげていくことが有効である可能性が示唆される論文ですね.