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PT・OTの皆さんはP値の意味するところを理解できていますか?
学会発表を聴講した際や論文を抄読する際に必ず出てくるのがP値です.
P値が5%未満であればいいんでしょといった認識を持っている理学療法士・作業療法士も多いと思いますが,P値を正しく理解していないと統計学的な解析結果を誤って解釈してしまうことになります.
今回は理学療法士・作業療法士向けにP値の意味するところについて考えてみたいと思います.
P値の意味するところ
P値の「P」というのはProbabilityの頭文字をとったものです.
Probabilityというのは確率という意味がありますので,有意確率といった意味でP値という表現が用いられることが多いと思います.
ここでは差の検定の結果におけるP値を例に,P値の意味するところを考えてみたいと思います.
P値を理解するには帰無仮説を理解する必要がありますが,帰無仮説の話を出すと話がやや複雑となってしまいますので,差の検定を例にP値の簡単な解釈の仕方をご説明いたします.
P値というのは差の検定で言えば,「差が無い確率」ということになります.
例えばP値=0.02の場合には,2群間に差が無い確率が0.02,つまり2%ということになります.
差が無い確率が2%ということは,逆に考えると差がある確率は98%ということになります.
差がある確率が98%であれば,「これは差があるといっていいよね?」といった考え方が帰無仮説の考え方です.
ではどのくらいの確率であれば差があると判断してよいかを示したものが有意水準というものになります.
通常は医学の領域では5%に設定される場合が多いです.
差が無い確率が5%未満であれば,差がある確率は95%以上ですので,差がある確率95%以上を差があると判断しましょうといった考え方が,有意水準5%の考え方です.
ちなみに有意水準と有意確率といった用語が誤って使用されていることも多いです.
その違いをご存知でしょうか?
有意水準:差が無いと判断する為の基準確率
有意確率:差が無い確率
こんな感じでしょうか?
簡単に言えば有意水準というのは判断基準で,有意確率というのが検定から算出された実際の確率ということになります.
有意水準はなぜ5%なのか?
ここでなぜ差があるか無いかの基準が5%なのかと不思議に思われる方も多いと思います.
実はこの5%といった基準には科学的な裏付けというのは全くないのです.
5%未満,つまり20回に1回も起こらないことは偶然でしょう,20回に19回以上差があるのであればそれは差があるとみなしてよいでしょうと,かの有名なFisher先生が考えたというところに由来します.
統計学ってすごく客観的なものだと思っていたのに,この5%が客観的な基準ではなく一統計学者が考えた主観的な基準だというのは驚きです.
実際には分野によっても用いられる有意水準は異なります.
例えば新薬の治験のような厳密な検討が必要な場合には,有意水準が1%に設定される場合もありますし,領域によっては10%未満を有意な傾向ありと解釈するのが慣例になっている分野も存在します.
P値に騙されてはいけない
統計ソフトを使って解析を行ったら,理学療法士・作業療法士の多くがP値に着目すると思います.
ただP値というのはあくまで差の検定でいえば差のある確率にすぎません.
われわれ理学療法士・作業療法士にとって重要なのは差のある確率ではなく,差の程度です.
例えば関節モビライゼーションを行う前後で疼痛スコアを比較するような場合には,モビライゼーション手技を行う前後で効果(差)が出る確率も重要ですが,それ以上に重要なのはどれくらい疼痛軽減効果(疼痛の差)があるかといった点です.
P値がいくら小さくてもNRSで1ポイントしか変わらないような介入であれば臨床的にはあまり意味が無いととらえられます.
差の程度を見る際には,効果量といった指標を用いると差の程度を明確にすることができます.
差の検定における効果量には「d」や「r」が用いられます.
効果量の算出にはこのエクセルファイルの使用がお勧めです.
相関分析をご存知の方は効果量が理解しやすいのですが,相関分析では有意確率と合わせて相関係数を算出しますよね?
有意な相関があるかをP値を用いて検討した上で,相関係数rを用いて相関の強さを検討するわけです.
差の検定もこの相関分析と同様に考えるとわかりやすいです.
まずは差があるか無いか(厳密にいえば差がないとはいえませんが…)をP値を用いて検討した上で,「d」や「r」を用いて差の大きさを検討するわけです.
今回は理学療法士・作業療法士向けにP値の意味するところについて考えてみました.
理学療法士・作業療法士もP値をきちんと理解してP値に振り回されることなく正しくデータを解釈できるようにしたいですね.
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