目次
米国では大腿骨頸部骨折に対する手術療法としてTHAが増えている
高齢者に多い大腿骨近位部骨折は関節包内の骨折である大腿骨頸部骨折と関節包外の骨折である大腿骨転子部骨折に分類されます.
大腿骨頸部骨折に対しては本邦では転位型の骨折には人工骨頭置換術が,非転位型の骨折にはピンニングによる骨接合術が選択されることが多いです.
今回ご紹介する論文は転位型の大腿骨頸部骨折に対する手術療法として人工骨頭置換術ではなく人工股関節全置換術が増加しているといった報告です.
今回ご紹介する論文
Hip Int. 2019 Mar 5:1120700019832989. doi: 10.1177/1120700019832989. [Epub ahead of print]
The rising use of total hip arthroplasty for femoral neck fractures in the United States.
Stronach BM, Bergin PF, Perez JL, Watson S, Jones LC, McGwin G, Ponce BA.
今回ご紹介する論文は2019年に掲載された新しい論文です.
研究の背景・目的
We examined the trends in the treatment of femoral neck fractures with arthroplasty in the United States from 2004-2013.
2004年から2013年における米国の大腿骨頸部骨折に対する人工股関節全置換術の傾向を調査することを目的としております.
研究の方法
We used the National Inpatient Sample database in conjunction with codes from the International Classification of Diseases, Ninth Revision, to identify patients receiving hemiarthroplasty (HA) or total hip arthroplasty (THA) for the treatment of closed femoral neck fracture from 2004-2013. We evaluated the trend of these 2 treatments along with demographics, comorbidities, length of stay and same admission mortality.
この研究では国立患者サンプルデータベースを用いて2004年~2013年の間に大腿骨頸部骨折に対して人工骨頭置換術が施行された症例と人工股関節全置換術が施行された症例の推移を調査しております.
この研究では人工骨頭置換術・人工股関節全置換術例の基本的属性,合併症,在院日数等を調査しております.
研究の結果
Our study identified 1,059,414 patients who underwent arthroplasty for the treatment of femoral neck fracture. We found a 42% increase in the use of THA during the study period from 8.4% in 2004 to 12.9% in 2013. While the large majority of patients received HA (87.1%), there was an overall decline in the use of HA (89,132 in 2004 to 85,635 in 2013) and increase in the use of THA (8,177 in 2004 to 11,375 in 2013). Patients receiving THA were younger (mean age 74.7 THA vs. 80.4 HA, p < 0.001) with fewer comorbidities, higher likelihood of discharge to home (24% THA vs. 10% HA, p < 0.001) and lower inpatient mortality rates (1.5 % THA vs. 2.4 % HA, p < 0.001) in comparison to HA.
最終的に105万例を超える大腿骨近位部骨折後に人工骨頭または人工股関節全置換術を行った症例が対象となっております.
2004年から2013年にかけて人工股関節全置換術を行った症例は42%増加しておりました.
一方で人工骨頭置換術を施行した症例は減少傾向にありました.
人工股関節全置換術を施行された症例の特徴として人工骨頭置換術例に比較して,若く,合併症が少なく,在宅復帰率が高く,死亡率が低いといった特徴がみられました.
研究の結論
There has been a significant increase in the use of THA over the last decade. Patients receiving THA were younger and healthier with fewer comorbidities, less likely to sustain a same admission mortality and more likely to discharge to home in comparison to HA patients.
ここ数10年で大腿骨近位部骨折例に対する人工股関節全置換術が有意に増加しておりました.
人工股関節全置換術を施行された症例は若く,合併症が少なく,死亡率も低く,在宅復帰率が高いことが明らかとなりました.
今回ご紹介する論文は転位型の大腿骨頸部骨折に対する手術療法として人工骨頭置換術ではなく人工股関節全置換術が増加しているといった報告をご紹介させていただきました.
大腿骨頸部骨折例に対して寛骨臼側も置換する必要があるか否かについてはさまざまな議論がありますが,将来的なmigrationを考慮して寛骨臼側も置換するべきであると考える整形外科医が増えているのも実際です.
本邦においても関東や関西をはじめとして大腿骨近位部骨折に対して人工股関節全置換術が行われるケースが増えている状況にあります.
本邦でも今後,大腿骨頸部骨折例(転位型骨折)に対する手術療法として人工骨頭ではなく人工股関節全置換術が主流になっていくかもしれませんね.
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