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脚長差に対する補高は筋骨格系の疼痛に対して有効か?
脚長差に対して補高を行うべきかに関しては古くからさまざまな議論がなされてきました.
補高を用いて脚長差を補正すると,マルアライメントを修正することにつながり,筋骨格系由来の疼痛の軽減につながると考えられます.
一方で形成されてから長期間が経過した脚長差を安易に修正することは新たなマルアライメントを生じさせ,新たな疼痛を発生させる可能性も考えられます.
今回は,脚長差に対する補高に関する10編の研究を統合したシステマティックレビューをご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Arch Phys Med Rehabil. 2018 May;99(5):981-993.e2. doi: 10.1016/j.apmr.2017.10.027. Epub 2017 Dec 9.
Shoe Lifts for Leg Length Discrepancy in Adults With Common Painful Musculoskeletal Conditions: A Systematic Review of the Literature.
Campbell TM, Ghaedi BB, Tanjong Ghogomu E, Welch V.
脚長差に対する補高使用に関しては,古くから検討がなされてきましたが,今回ご紹介する論文は2018年に掲載された比較的新しい内容です.
研究目的
To determine whether shoe lifts effectively treat leg length discrepancy (LLD)-associated morbidities in adults with common painful musculoskeletal conditions.
この研究では脚長差に対する補高は筋骨格系由来の疼痛軽減に有効か否かを明らかにすることを目的としております.
データソース
Trip database, Cochrane Central Register of Controlled Trials database, PubMed database, Physiotherapy Evidence Database, and National Guideline Clearinghouse database. The search was performed in September 2017, was limited to English only, and had no time constraints.
システマティックレビューを行うにあたり,複数のデータベースを使用しております.
データベースでの検索は2017年9月に,英語のみで行われております.
対照研究の抽出基準
Two reviewers independently determined study eligibility. Inclusion criteria were (1) participants ≥18 years old with musculoskeletal-related complaints and LLD; (2) a shoe lift intervention was used; and (3) the study reported on pain, function, range of motion, patient satisfaction, quality of life, or adverse events. Randomized controlled trials (RCTs) and controlled intervention, cohort, before-and-after, case series, and case report studies were included. Three-hundred and nineteen articles were screened, and 9 guidelines were reviewed.
2名のレビュアーが研究の適格性をそれぞれ評価しております.
研究の取込基準は,脚長差および筋骨格系に関連する訴えを有する18歳以上の症例を対象としていること,補高による介入を行っていること,疼痛・機能・関節可動域・患者満足度・QOL,その他有害事象を調査していることとしております.
無作為化比較試験,対照介入試験,コホート研究,前後ケース知りーぶ,ケースレポートを取り込み対象としております.
結果として,319記事および9つのガイドラインが対象となっております.
データ抽出
We extracted data pertaining to participant demographic characteristics, study setting, recruitment, randomization, method of LLD measurement, shoe lift characteristics, treatment duration, and outcome measures. We included 10 studies, including 1 RCT.
患者属性,研究デザイン,対象者の取込基準,無作為化,脚長差の測定方法,補高の方法,補高介入の期間,最終的なアウトカム指標を調査しております.
最終的に1編の無作為化比較試験を含む10編の研究をシステマティックレビューの対象としております.
結果
LLD was associated with low back pain, scoliosis, and osteoarthritis of the hip and knee. Description of LLD correction strategy was often inadequate. Study quality was very low or poor. In non-RCT studies reporting on the proportion of participants who improved with a shoe lift, 88%±3% of 349 participants treated had partial or complete pain relief (effect size range, 66.7%-100%). All 22 RCT participants receiving treatment experienced pain relief (mean pain reduction, 27±9mm on a 150-mm visual analog scale). Two of 9 guidelines recommended shoe lift use based on consensus and were of moderate-to-high quality.
脚長差は腰痛,側弯,変形性股関節症,変形性膝関節症との関連が見られました.
脚長差の補正については方法に関する記載が不十分であり,研究の質は低い(研究デザインのレベルが低い)ものでした.
非無作為化比較試験の結果,補高を使って脚長差を補正した症例349例のうち,88%が部分的にまたは完全に疼痛が軽減しておりました.
無作為化比較試験の対象となった補高を行った22例については150mmVASで平均27mmの疼痛軽減が得られております.
9つのガイドラインのうち2つが補高による脚長差の補正を中等度~強いレベルで推奨しておりました.
結論
There is low-quality evidence that shoe lifts reduce pain and improve function in patients with LLD and common painful musculoskeletal conditions. High-quality research evaluating a threshold LLD to correct and a strategy to do so is necessary. Developing an appropriate comparison group to test clinically relevant outcome measures would make a valuable contribution in this regard.
科学的根拠の質は低いものの脚長差に対する補高は筋骨格系兪依頼の疼痛の軽減および機能の改善に有効であることが明らかとなりました.
今後さらに補高挿入による疼痛軽減効果に関して,質の高い研究が必要です.
今回は,脚長差に対する補高に関する10編の研究を統合したシステマティックレビューをご紹介させていただきました.
残念ながら統合された10編のうち無作為化比較試験は1編のみであり,あとは前後比較を行った研究デザインでありました.
ただ興味深いのは大部分で疼痛の軽減が得られており,脚長差に対する補高の使用が疼痛を増強させるといった結果が少ないといった点です.
もちろんpublication biasを考慮する必要はありますが,こう考えると脚長差に起因すると思われる筋骨格系の疼痛を有する症例に対して補高を用いて脚長差の補正を行うことを検討してみる必要があると考えられます.
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