目次
変形性膝関節症に対する大腿四頭筋トレーニングでは外側広筋がカギ
変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニングは理学療法士が古くから行ってきた運動療法の1つです.
以前の記事でも変形性膝関節症例における大腿四頭筋の筋力低下は変形性膝関節症の直接的な原因ではなく,あくまで変形性膝関節症に伴う結果であることをご紹介させていただきました.
しかしながら歩行や日常生活動作を考える上では,大腿四頭筋の筋力低下を無視することはできません.
今回は大腿四頭筋の中でも外側広筋にターゲットを当てて変形性膝関節症例に対する筋力トレーニングについて考えてみたいと思います.
歩行時の大腿四頭筋の機能
大腿四頭筋の筋力評価として,超音波画像診断装置を用いて大腿直筋,中間広筋,外側広筋,内側広筋,内側広筋斜走線維の各筋厚と歩行時の膝関節動揺性との関係について調査した報告によると,軽度変形性膝関節症例では外側広筋が薄いほど,歩行荷重応答期の前額面上の外的膝関節内反モーメントが大きいことが明らかにされております.
外的膝関節内反モーメントというと内側広筋の筋活動の重要性を意識される方が多いかもしれませんが,なぜ外側広筋なのでしょうか?
外側広筋には速筋線維が多く含まれており,加齢の影響により内側広筋が早期に筋萎縮が起こるため,特に軽度変形性膝関節症例では外側広筋が前額面上の外的膝関節モーメントに関与しやすいことが考えられます.
また先行研究において変形性膝関節症例では,歩行時に外側広筋が内側広筋と比べて約2倍の筋活動をしていたといった報告もあり,変形性膝関節症例において大腿四頭筋の中でも特に外側広筋は膝関節動揺性に及ぼす影響が大きく,外側広筋への治療介入が重要だと考えられます.
外側広筋へのアプローチ
外側広筋への治療介入として,外側広筋の筋出力を改善するためには,外側広筋が働きやすい環境を整えることと,外側広筋への個別的な筋力強化トレーニングを行うことが重要となります.
外側広筋の筋出力の改善
まず外側広筋が働きやすい環境を整えるためには,外側広筋との滑走性不全が起こりやすい腸脛靭帯へのアプローチと腸脛靭帯と連結する大腿筋膜張筋と大殿筋,長腓骨筋へのアプローチを行っていくことが重要です.
特に変形性膝関節症例では腸脛靭帯にtightnessを有する症例が多く,腸脛靭帯のtightnessが外側広筋と腸脛靭帯の間での滑走性を低下させ,外側広筋の筋収縮機能低下の原因になっていることがあります.
腸脛靭帯へのアプローチは,まず靭帯にはコラーゲン線維が多く含まれ,そのコラーゲン線維は不規則走行していることを考盧し,腸脛靭帯をたわませたり,ねじらせたりしてストレスを加えます.
そしてストレスを加えた状態で30秒保持し,近位から遠位まで全体的にアプローチを行っていきます.
特に大腿中央部が硬くなりやすいため,時間をかけて行い,腸脛靭帯の柔軟性の改善を図っていきます.
場合によってはホットパックなどの温熱療法の併用も有用です.
実際に治療後に超音波画像診断装置を用いて,外側広筋の筋収縮をみると腸脛靭帯との滑走性が改善し,羽状角も増大しているのが確認できます.
腸脛靭帯へのアプローチにより外側広筋の筋出力が改善し,外側広筋が働きやすい環境を整えることができれば,次に大腿筋膜張筋,大殿筋,長腓骨筋へとアプローチをつなげていきます.
大腿筋膜張筋,大殿筋,長腓骨筋は腸脛靭帯と連結しておりますので,これらの筋の硬さが腸脛靭帯の硬さに影響を及ぼします.
したがってこれらの筋群の柔軟性を向上させることも非常に重要です.
筋に対するアプローチとしては横断マッサージ,機能的マッサージ,ホールドリラックス,ストレッチなど様々ですが,いずれにしても大腿筋膜張筋,大殿筋,長腓骨筋の柔軟性を向上させることが重要です.
外側広筋への個別的な筋力強化トレーニング
上述したような方法で外側広筋の滑走性を向上させることができれば,次に個別的な筋力強化トレーニングを行います.
大腿四頭筋のトレーニングを行う場合には,大腿直筋の筋発揮を抑制するために長座位の状態で,股関節屈曲・外転方向への下肢伸展挙上トレーニングを行います.
また端座位で行う方法として,大腿部が回旋しないように固定した状態で,つま先を外側に向け,下腿外旋を加えながら膝関節伸展を行うことで,外側広筋がより個別的に作用するようにトレーニングを行うのも有用です.
今回は大腿四頭筋の中でも外側広筋にターゲットを当てて変形性膝関節症例に対する筋力トレーニングについて考えてみました.
重要なのは外側広筋が働きやすい環境を整えること,大腿直筋の活動を抑制しながら外側広筋を選択的に収縮させることです.
変形性膝関節症例を対象としてアプローチを行う上での一つのヒントになると嬉しいです.
コメント