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なぜコンプレッションウェアが売れるのか?
最近はコンプレッションウェアを身につけてスポーツを行っている方も増えております.
外観的にもカッコ良いですし,伸縮性に富んだウェアに体をねじ込むと,血行も促進されます.
理論上も運動中の筋肉への酸素供給が増え,トレーニングの質が向上するというわけです.
今回は理学療法士の視点でコンプレッションウェアの有用性について考えてみたいと思います.
コンプレッションウェアもさまざま
昔はコンプレッションウェアといえばソックスが主でしたが,最近はソックスだけでなく,エルボースリーブ,ロングパンツ,ニーラップ,トップスなど,ありとあらゆる種類があります.
このタイトフィットなウェアは通常,スパンデックスとナイロンの混紡生地でできており,着用者の動きを妨げることなく,腕や脚,胴にピッタリとくっつきます.
またコンプレッションウェアは着心地がよく,ルーズフィットのショーツやスウェットパンツのように邪魔になることもないという利点もあります.
私もコンプレッションレギングスを着用したことがありますが,その密着感が心地良く,運動で脚を酷使する日には精神的な励みにもなります.
また体が引き締まって見えますので外見もスタイル良く見えるといった利点もあります.
コンプレッションウェアで何ができるのか?
コンプレッションウェアによって血行が良くなるというのは科学的にも明らかにされております.
コンプレッションウェアを着用することで,深部体温を上げることもできます.
ただしその効果が,実際にパフォーマンスを向上させるかどうかはまた別問題です.
2016年にSports Medicineに掲載された最新文献によると,コンプレッションウェアはランニングエコノミー(いかに効率良く走るか)や歩幅・歩数といったランニングパフォーマンスに関係する変数において,全体的に見て若干のプラス効果を及ぼすことが明らかにされております.
一方でこの効果はわずかであり,精神的なものにすぎないと考える人もいます.
コンプレッションウェアの着用者は,空間内における自身の体の関係に対して意識が高まるため,実際よりも感じる疲労が少なくなり,運動に取り組める時間が長くなります.
結果的に,効率的に体を動かすことが可能となり,トレーニングによる疲労感が軽減されます.
またJournal of Strength and Conditioningに掲載された研究によると,ニーラップは装着者が約10パーセント重いウエイトを持ち上げるのに役立ちますが,この結果は装着者のスクワットのやり方が変わることによってもたらされるものだと結論付けております.
コンプレッションウェアの効果は,その種類と着用者が行う活動の内容に左右されます.
International Journal of Sports Physiological Performanceに掲載された研究レビューによると,全力疾走や垂直跳びといった瞬発力が要求される動きをともなうスポーツでは,コンプレッションウェアの着用によってパフォーマンスにわずかな改善が見られるとされております.
ただしこれらの研究ではプラセボ効果は除外されておりませんし,パフォーマンス改善というのもわずかなものであるといった点が非常に重要なポイントです.
British Journal of Sports Medicineに発表された研究レビューによると,激しい運動や競技大会のあとにコンプレッションウェアを着用することで,回復のスピードアップ,あるいは少なくとも過度の遅発性筋痛(筋肉痛)に対する感覚の鈍化が促されます.
Journal of Strength and Conditioning Researchに掲載された研究によると,練習後に24時間連続でレギングスを着用したラグビー選手には順調な回復が見られております.
この論文から考えられるのは,回復に目を向けるのであれば,運動後に長時間(少なくとも数時間は),コンプレッションウェアの着用を試してみるべきだということです.
なぜコンプレッションウェアが回復を助けるのかといった生理学的機序は明らかではありませんが,圧縮性によって炎症や腫れが起こるスペースが狭くなるといった説が有力です.
医療機関におけるコンプレッションウェア
理学療法士のもっとも身近なコンプレッションウェアといえば弾性ストッキングではないでしょうか?
今や術後のクライアントが弾性ストッキングを装着し血栓予防を図るのは当たり前になっておりますし,リンパ浮腫の治療にも弾性ストッキングが古くから用いられております.
まとめ
きつい運動の後に長時間コンプレッションウェアを着用することで,肉体の回復を少し早めることができます.
またコンプレッションウェアは,機能性に優れ,着心地も快適であるといった点も優れたところです.
現在のところコンプレッションウェアが害を及ぼすという話はありませんし,欠点があるとすれば費用が掛かるといった点くらいでしょうか.
今回は理学療法士の視点でコンプレッションウェアの有用性について考えてみました.
理学療法の分野でもコンプレッションウェアを利用した介入が今後さらに広がりを見せそうですね.
参考文献
1)Engel FA, Holmberg HC, et al: Is There Evidence that Runners can Benefit from Wearing Compression Clothing?. Sports Med. 2016 Dec;46(12):1939-1952
2)Dascombe BJ, Hoare TK, et al: The effects of wearing undersized lower-body compression garments on endurance running performance. Int J Sports Physiol Perform. 2011 Jun;6(2):160-73.
3)Hamlin MJ, Mitchell CJ, et al: Effect of compression garments on short-term recovery of repeated sprint and 3-km running performance in rugby union players. J Strength Cond Res. 2012 Nov;26(11):2975-82.
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