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人工膝関節全置換術におけるギャップテクニック
人工膝関節全置換術例に対して理学療法を行う場合には,人工膝関節全置換術の手術方法について十分に理解しておく必要があります.
人工膝関節全置換術の手術療法に関して理学療法士が着目する視点としては,アプローチ,インプラントの種類等が挙げられますが,これらアプローチやインプラントの種類と合わせて知っておきたいのがギャップに関する知識です.
今回は理学療法士の視点で人工膝関節全置換術における屈曲・伸展ギャップについて考えてみたいと思います.
屈曲ギャップ・伸展ギャップって?
まずはじめに屈曲ギャップ・伸展ギャップについて整理しておきたいと思います.
屈曲ギャップというのは膝関節屈曲位で大腿骨コンポーネントと脛骨コンポートネントの間に設定する隙間のことを指します.
屈曲ギャップを大きくしたい場合には,②の骨切りを大きくすることとなります.
一般的に屈曲ギャップを大きくすると膝関節屈曲可動域が大きくなることになります.
一方で伸展ギャップというのは膝関節伸展位で大腿骨コンポーネントと脛骨コンポートネントの間に設定する隙間のことを指します.
一般的に伸展ギャップを大きくすると膝関節伸展可動域が大きくなることになります.
伸展ギャップを大きくしたい場合には,①の骨切りを大きくすることになります.
また④の部分の骨切りを大きくすると屈曲・伸展ギャップともに大きくなりますので,膝関節屈曲可動域,膝関節伸展可動域ともに大きくなることになります.
この図の中で△の部分がchamfer(チャンファー)と呼ばれる部分です.
基本的には屈曲=伸展ギャップが理想だが,本邦では伸展ギャップ<屈曲ギャップとなることが多いです.
われわれの視点から考えると関節可動域を大きくするためにはギャップを大きくすればいいではないかと考えるかもしれませんが,骨切りは可能な限り少なくするのが原則です.
靱帯バランスの決定
最終的な膝キネマティクスは骨切りと靱帯バランスによって決まります.
したがって正確な骨切りに加えて適切な靱帯バランスを整える必要があります.
また術後の靱帯バランスの不良による不安定性が,術後疼痛やポリエチレンの摩耗,インプラントの緩みの原因となることも知られております.
膝関節伸展位と膝関節屈曲位における骨切り面の間のスペースは,それぞれ伸展ギャップと屈曲ギャップと呼ばれますが,伸展ギャップと屈曲ギャップが同じ大きさで長方形となるように靱帯バランスを整える必要があるとされてきました.
この伸展・屈曲ギャップを作成するために行う靱帯バランスを整える方法は近年用いられる方法としてmeasured resection techniqueとmodified gap balancing techniqueの2つがあります.
Measured resection technique
大腿骨,脛骨を関節面形状や解剖学的指標に基づいて骨切りを行い,その後に軟部組織解離によって靱帯バランスを整える術式です.
Joint lineは合わせやすいが,ギャップの作成を軟部組織解離のみで行わなければならないので,内反変形が強い症例などでは技術的な習熟が必要となります.
CR-TKAにおける大腿骨コンポーネントの回旋設置位置の決定には,基本的にmeasured resection techniqueを用いることが前提となり,回旋の決定が解剖学的指標にのみ委ねられるためindependent cut法とも呼ばれます.
Modified gap balancing technique
大腿骨および脛骨をそれぞれの機能軸に垂直に骨切除し,まず伸展ギャップを整えたのちに伸展ギャップに合わせて屈曲ギャップを作成する術式です.
大腿骨のインプラント設置における回旋の決定を,大腿骨の内外側靱帯バランスを指標に決定します.
PS-TKAにおいてPCLを切除した際に屈曲ギャップが大きくなるが,大腿骨後頼の骨切りを調整することで伸展ギャップと屈曲ギャップを合わせることが可能となります.
今回は理学療法士の視点で人工膝関節全置換術における屈曲・伸展ギャップについて考えてみました.
特に屈曲ギャップ・伸展ギャップは関節可動域との関連が大きいので,術前に手術記録や主治医から情報を確実に情報を得ていきたいところです.
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