人工股関節全置換術例に関する最新理学療法研究紹介

人工股関節全置換術
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昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.

 

平成30年12月15-16日に福岡県で第6回日本運動器理学療法士学会が開催されます.

 

今回はこの第6回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から人工股関節全置換術関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.

 

目次

 片側人工股関節置換術施行患者の身体活動量の変化  

人工股関節置換術は機能的障害を改善することで ADL や QOL 向上に結び付きますが,過去の研究の多くは人工股関節全置換術後の機能的評価がほとんどで身体活動量の変化に関する報告は少ないのが現状です.

この研究では片側人工股関節全置換術を施行したクライアントの日常生活における身体活動の変化が検討されております.

対象は片側の変形股関節症に対し人工股関節全置換術を施行した7例となっております.

身体活動量の評価には国際標準化身体活動質問票(IPAQ Long Version)で週当たりの就業・移動・家庭・余暇での身体活動(Mets.mins)と非活動の時間を算出しております.

身体活動量と合わせて,機能評価も行われておりますが,筋力は等速度運動機器Biodex System4 を用いて股内外転・膝屈伸・股内外旋のピークトルク体重比の値,10m歩行速度,VAS との関連性を検討しております.

結果ですが,IPAQ Long Versionでの総身体活動量は術前1871.3±822.8Mets.mins,術後3ヶ月2361.7±921.1Mets.mins,術後6ヶ月3873.9±685.8Mets.minsであり有意な差はみられておりません.

VAS は術前70±7.1点,術後3ヶ月6.1±3.7点,術後6ヶ月14±4.4点であり,術後に有意に疼痛が軽減しております.

筋力は股関節外転筋力の実すべての角速度で有意な改善を認めております.

10m歩行速度についても術前に比べ術後は有意に改善しております.

この研究からわかることは人工股関節全置換術によって,疼痛,股関節外転筋力,10m歩行速度といった身体機能が改善しているにも関わらず身体活動量には大きな変化がないということです.

つまり理学療法士が人工股関節全置換術例に関わる際には,機能改善にとどまることなく,身体活動量向上に向けた特異的な介入を行う必要があると考えられます.

 

 

 

 THAにおける外転筋力の経時的変化 一次性股OAと二次性股OAとの比較 

変形性股関節症は原疾患が明らかではない一次性股関節症と先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全といった何らかの疾患に続発する二次性股関節症に分類されます.

変形性股関節症の分類~変股症といってもタイプは様々~
前回は変形性股関節症の疫学について紹介させていただきました.今回は変形性股関節症の分類と分類ごとの理学療法アプローチについて考えてみたいと思います. 変形性股関節症は大きく分類すると一次性股関節症と二次性股関節症に分類されます.欧米で...

一次性股関節症と二次性股関節症の相違については,以前の記事でもご紹介させていただきましたが,一次性股関節症・二次性股関節症いずれも末期の股関節症には外科的治療として人工股関節全置換術施行されることが多いわけです.

一次性股関節症と二次性股関節症では発症時期や原因が異なっているため,臨床上も大きく異なるわけですが,過去の報告では人工股関節全置換術例の股関節外転筋力の経時的変化について,一次性股関節症と二次性股関節症で比較した報告は多くありません.

この研究では人工股関節全置換術前後における一次性股関節症と二次性股関節症の股関節外転筋力の経時的変化を検討しております.

対象は初回片側人工股関節全置換術を施行した20例となっております.

この20例を一次性股関節症群10名,二次性股関節症群10例の2群に分類しております.

一次性・二次性股関節症の分類については医師によって行われたとされておりますが,個人的には一次性股関節症と二次性股関節症は両者の要素が混在した症例も少なくないため,何を基準にどう分類したのかが気になるところです.

股関節外転筋力の測定は,術前・術後1週・術後2週に実施し,一次性股関節症群と二次性股関節症群の術前・術後1週・術後2週の変化を一元配置分散分析ならびに多重比較検定を用いて比較しております.

結果ですが,年齢・体重に一次性股関節症群・二次性股関節症群間で有意差は認められておりません.

術前の股関節外転筋力についても一次性股関節症群と二次性股関節症群に有意な差は認められなかった.

股関節外転筋力において,一次性股関節症群では各時期に有意な差は認められておりません.

二次性股関節症群では術前と術後1週・2週の比較で有意に低く,術後1週と比較して術後2週で有意に高値を示しております.

この結果より,一次性股関節症と二次性股関節症の人工股関節全置換術後の股関節外転筋力は異なる経過をたどることが明らかになったわけです.

一次性股関節症と二次性股関節症では元々の脊椎のアライメントも異なりますので,やはり術前の病態を考慮した上で術後の介入を行うことが重要であると考えられます.

 

 

 

 

 THA 術後患者における股外転筋力の変化率にCross Educationが与える影響 

人工股関節全置換術例の股関節外転筋力に関してはこれまでにも様々な報告がありますが,その介入方法に関してもこれまで数多くの報告があります.

この研究ではCross Educationと呼ばれる介入の有効性を検討しており,臨床的にも非常に意義のある内容となっておりますので,ご紹介させていただきます.

交叉教育(Cross Education)というのは,両側性の運動転移による運動学習と筋力増強の両面が含まれたトレーニング方法として広く知られております.

特に術後の外固定や疼痛によって術側の下肢に運動制限を要する場合には,対側下肢を使ってトレーニングを行う方法は非常に有用であると考えられます.

過去に人工股関節全置換術例を対象にCross Educationによる筋力トレーニングの効果を検討した報告は非常に少なく,この研究では,人工股関節全置換術例の股関節外転筋に対するCross Educationが患側股関節外転筋力の変化率に与える影響について検討がなされております.

対象は変形性股関節症に対して人工股関節全置換術を施行した症例となっております.

そのうち,2017年4月~8月に対象となった症例を対照群,2017年9月~2018年3月に対象となった症例を介入群としております.

各対象者に対し,術直前介入日および退院前最終介入日にハンドヘルドダイナモメーターを用いて患側股関節外転筋力を測定しております.

介入内容としては両群ともに通常の理学療法介入を行い,介入群には通常介入に加えて健側股関節外転筋に対して最大等尺性収縮の 60% 強度での股関節外転運動を,10回1セットとして合計3セット実施しております.

術直前介入日と退院前最終介入日の患側股関節外転筋力から変化率を算出し,対照群と介入群で比較を行っております.

結果ですが介入群32名と対照群15名を比較した結果,年齢・性別・BMI・術前患側股関節外転筋力において,両群間に有意差は認められておりません.

また両群間で術前後の患側股関節外転筋力の変化率にも有意な差が認められておりません.

この研究では仮説を支持するpositiveな結果が得られなかったわけですが,positiveな結果が得られなかった原因として介入期間が2週と非常に短かったことが挙げられると考察されております.

Cross Educationによる筋力トレーニングの効果が明らかとなれば臨床上も有益だと思われますので,今後はさらに長期的な調査がなされることを期待したいですね.

 

 

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