プラセボでも腰痛患者の痛みは軽減する?

運動療法・物理療法
スポンサーリンク
スポンサーリンク

目次

 プラセボでも腰痛患者の痛みは軽減する? 

プラセボ効果を理学療法治療に活かしましょうといった話は以前もご紹介させていただきましたが,今回は腰痛に対するプラセボ治療の効果を検討した報告をご紹介させていただきます.

プラセボ効果をリハビリに活かす?
プラセボ効果って聞くと皆さんはどんな印象を持ちますか?なんかあまり良いイメージを持たない理学療法士が多いのではないかと思いますが,実はプラセボ効果をうまくリハビリの中で使えれば,クライアントの満足度はもちろん治療効果も上がります.今回はこの...

疼痛の中でも腰痛というのは日本人の有訴訟率が非常に高く,社会的な問題となっております.

さらに近年では腰痛の原因は器質的なものにとどまらず,慢性疼痛に代表されるように心理社会的な原因をも含むものであることが明らかにされており,われわれ理学療法士が腰痛に対してアプローチを行う際には,心理社会的な要因を加味した認知行動療法に基づく介入が必要とされております.

 

 紹介する研究のサマリー 

今回ご紹介いたします研究報告は,米国の慢性疼痛を有するクライアントを対象に行われたものですが,この研究では慢性腰痛を有するクライアントは,たとえプラセボ(偽薬)であっても薬を服用すると,標準的な鎮痛薬に相当する約30%の疼痛軽減効果を得られることが明らかにされております.

さらにこの研究の興味深い点は,MRI検査によって腰痛を有するクライアントの脳の構造や心理的な特徴からプラセボ治療が有効かどうかを予測できることが明らかにされている点です.

どういったクライアントにプラセボ効果が有効かを予測できれば,副作用の多いオピオイド等の鎮痛薬の使用を減少させることができますので,これは非常に意義のあることだと思います.

 

 慢性腰痛に対するプラセボ効果を検討した研究の紹介 

今回ご紹介いたします研究報告は,約60人の慢性腰痛を有するクライアントを対象にプラセボを服用する群と非オピオイド系の標準的な鎮痛薬を服用する群,さらに診察のみで何も治療しない群にランダムに割り付けて,8週間にわたり疼痛レベルを毎日評価しております.

プラセボ群または標準的な鎮痛薬を服用する群には盲検化がなされており,服薬した薬物がどちらの治療に該当するのかについては伝えられておりません.

 

結果として,研究開始から8週後にはプラセボを服用した群では,何も治療をしなかった群に比べて疼痛が大きく軽減し,治療に対する反応率も高いことが明らかにされております.

またクライアントに脳MRI検査を実施して脳の構造を比較したところ,プラセボが奏効したクライアントでは,皮質下辺縁系の情動脳領域が非対称性が顕著であることや,大脳皮質感覚野(cortical sensory area)が大きいなどの共通した特徴がみられることが明らかにされております.

さらに心理検査からもプラセボが有効なクライアントの特徴が明らかにされており,自分の身体や感情の状態を意識的に捉えられ開放的な性格のクライアントでプラセボが奏効する確率が高かったとされております.

これまでにもプラセボ鎮痛に関する報告は多くありますが,この研究の素晴らしい点はプラセボが効果的なクライアントの特徴を明らかにした点です.

 

 プラセボだと知っていても鎮痛効果がある? 

さらにもう1編ほど興味深いプラセボ鎮痛に関する研究をご紹介いたします.

プラセボ鎮痛の効果を検討する場合には,上述した研究のようにプラセボ群にはプラセボであることは知らせずに研究が行われることが多いのですが,今回ご紹介する研究では「この薬は偽物です」と伝えた状態で,実験が行われております.

 

この研究の対象は慢性腰痛を有するクライアント97名となっております.

この研究ではこの97例を通常通りの治療を行う群と,プラセボ効果に関する説明を行い,プラセボ効果を理解してもらった後でプラセボ薬が偽物であることを伝えた上でプラセボ薬を服薬する群に分類し,3週間後の疼痛の変化を比較しております.

 

結果ですが偽物の薬であると理解して服薬した群でも最大で30%もの疼痛レベルに改善が認められてとされております.

なぜプラセボで疼痛レベルに改善が得られるかといったメカニズムは現在のところ明らかにされて居りませんが,心理的な効果による大脳辺縁系への影響が大きいことが推測されます.

 

 プラセボ効果の発現にはクライアントとの信頼関係が重要 

この研究によってプラセボ効果の新しい真実が明らかにされたわけですが,ここで重要なことはこの効果がクライアントとの信頼関係によって変化するといった点です.

またあくまでプラセボによる効果は,疼痛に対するものであり,例えば実際の「がん」の大きさを小さくしたり,血管の閉塞を直したりするものではないといった点です.これは「痛み」が主観的なものであり,人によって感じ方が違ったり,また気持ちや精神状態でも容易に変化するためです.

この研究では医師との信頼関係によって,「この医師が処方してくれた治療法だから大丈夫」という気持ちが疼痛レベルを改善させる手助けとなったものと考えられます.

この研究結果からも理学療法士・作業療法士とクライアントとの信頼関係は治療の上からもとても重要であることが改めてわかります.一方でネガティブな言葉やクライアントとの関係性が不良であれば,治療効果にも悪影響を与えることが予測されますので,疼痛治療においてはまずクライアントとの人間関係を構築することが重要であると言えるでしょう.

 

参考文献
1)Vachon-Presseau E, et al, Nat Communication. 2018

コメント

タイトルとURLをコピーしました