近年ではクライアントの寝たきり予防を図るために,早期より離床を図ることが一般的になっております.
寝たきり,つまり臥床状態が長期にわたると拘縮や廃用性の筋力低下といった筋骨格系の機能低下起こるだけでなく,心ポンプ機能の低下,肺合併症の発生など様々な機能低下の原因となりますので,臥床時間を短縮することは理学療法士・作業療法士にとっても非常に重要であると考えられます.
寝たきりが身体に毒であることは誰もが知っている話ですが,今回は座って過ごす時間が長くなる,つまり座り切りが身体に悪影響を及ぼすといった話をご紹介させていただきます.
目次
座って過ごす時間が長いとさまざまな疾患の死亡リスクが高まる
近年,座って過ごす時間が長いと死亡リスクが高まるとする報告が相次いでいます.
これまでは死因別にみると,座位時間とがんや心血管疾患以外の死因を幅広く検討した研究はほとんど行われておりませんでした.
今回ご紹介いたします研究では,がん予防研究のデータを用いて,余暇を座って過ごす時間の長さと全死亡リスク,さらにさまざまな死因別の死亡リスクとの関連について検討がなされております.
対象は研究開始時に慢性疾患有しない男女127,554人となっております.
この研究では127,554人のうち48,784人が21年間の追跡期間中に死亡しております.
年齢や性・学歴・喫煙の有無・食生活・運動習慣といったバイアスを考慮して解析した結果,余暇を座って過ごす時間が1日に6時間以上の人では,3時間未満の人と比べて全死亡リスクが19%高いことが明らかにされております.
死因別ではがん・心疾患・脳卒中・糖尿病・腎疾患・自殺・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・肺疾患・肝疾患・消化性潰瘍などの消化器疾患・パーキンソン病・アルツハイマー病・神経障害・筋骨格系障害の14の死因による死亡リスクが,座って過ごす時間が6時間以上の群で有意に上昇することが明らかにされております.
死亡リスクの上昇の程度は死因によってばらつきがみられますが,がんでは約10%の上昇であった一方で,筋骨格系障害では約60%の上昇が認められております.
この研究結果を踏まえ著者らは座位時間は短いほど身体に良く,1時間座って過ごしたら2分間立つといった習慣を身につけるだけでも脂質や血糖・血圧の値は改善すると指摘しております.
なぜ座って過ごす時間が長いと死亡リスクが上昇するのか?
座位時間が長いと健康に悪影響を与える原因はこの研究からは明らかにされておりませんが,まずソファで長時間過ごす人は間食が多いといった他の不健康な習慣がある可能性が考えられます.
また以前の研究では座位時間が長いと中性脂肪や血糖・血圧・インスリンの値が上昇することが示されており,これが死亡リスク上昇の原因であると考えられます.
座った状態というのは第2の心臓といわれる下腿三頭筋を全く使用しない状態が長時間続くということになります.
下腿三頭筋が不動の状態が長期間続くと,末梢血管の粘性が高まり血栓ができやすくなるのです.
血栓はあらゆる病気に多く見られる血管トラブル,静脈血栓塞栓症を引き起こせば,死亡リスクも高くなるわけです.
他国の座りきり撲滅に向けた取り組み
こういった結果を踏まえて,他国ではすでに座りきり撲滅に向けた取り組みが行われております.
英国では2011年に座りすぎのガイドライン(英国身体活動指針)を作成し,継続して「就業時間中に少なくとも2時間,理想は4時間座っている時間を減らして,立ったり,歩いたりする低強度の活動にあてるべきである」と勧告しております.
また米国ではシリコンバレーのIT企業を中心に,立ってデスクワークができるスタンディングデスクが浸透しております.
調査と研究が進むにつれて,座りすぎは肥満や糖尿病に限らず,高血圧症や心筋梗塞・脳梗塞・がんなどの病気も誘発し,死亡リスクを上げることが明らかにされております.
日本にいてもここ最近はスタンディングデスクを導入している企業が増えてきております.
日本人の座りきりのリスクは?
実は働きすぎの日本人は世界一長く座っていることが明らかにされております.
日本人成人の平日の座っている時間は世界一長く,世界20カ国の平均が5時間なのに対し,日本人は7時間であるとされております.
真面目な国民性で働きすぎることが原因に挙げられるが,7時間と聞いて,自分はもっと長いかもと不安を覚えた人もいるのではないでしょうか?
「40~64歳の日本人を対象に調査したところ,1日の平均的な総座位時間は8〜9時間だった」と報告されております.
例えばデスクワーカーで残業をしない場合,デスクと昼食時に座っている時間は6〜7時間,18時前後に会社を出て居酒屋で一杯,帰宅後にテレビやスマホを見る間も座っていればプラス2〜3時間,合計8〜10時間で平均9時間ですから,前出のデータを2時間上回ることになります.
何時間以上が座りすぎになるのかという基準については研究段階ですが,これまでの多くの研究結果を見てみると1日8時間以上座っている人は罹患リスクや死亡リスクは高まる可能性がありますので,日本人は非常にリスクが高いと考えることができるでしょう.
座り方を改めて健康寿命を伸ばそう
重要なポイントですが,座ることが体に悪いわけではなく,座りすぎが体に悪いといった点に注意が必要です.
理学療法士・作業療法士は職業の特性上,管理職や研究職を除いてはPCとにらめっこという仕事のスタイルは少ないと思いますが,管理職の方は適度にクライアント対応をした方が良いでしょうね.
また仕事の中でも30分から1時間に一回は,トイレへ行ったり飲み物や資料を取りに行くなど,歩行機会を的的に設けることが重要です.
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