筋肉量か?筋力か?~サルコペニアとダイナペニア~

介護予防
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以前の記事でもサルコペニアについては簡単にご紹介させていただきました.

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最近サルコペニアに類似した概念としてダイナペニアといった概念に関する報告が増えてきております.

今回はサルコペニアとダイナペニアに関してご紹介させていただくとともに,なぜ筋肉量の減少=筋力の低下とならないのかといった点について考えてみたいと思います.

 

目次

 サルコペニアとは? 

サルコペニアとは加齢やなんらかの疾病によって筋肉量が減少する現象を指します.

 

サルコペニアという用語は実は造語で,ギリシャ語で筋肉を表す「sarx」と喪失を表す「penia」を組み合わせた用語です.サルコペニアの基準としてよく用いられるのはEWGSOP(European Working Group  on Sarcopenia in Older People)によって作成された基準ですが,欧米人の基準をアジア人にそのまま適用するのは問題があるということで,日本人を含むアジア人のための診断基準を提唱されております.

 

この基準ではヨーロッパの基準と同様に握力・歩行速度いずれかの低下を有し,筋肉量の減少が認められる場合にサルコペニアと診断することとされております.アジア人と欧米人では体格や生活習慣も異なりますので,握力と筋肉量についてはアジア人独自の基準が定められております.

 

握力は男性26 kg未満,女性18 kg未満を握力低下とし,筋肉量についてはDXAでは,男性 7.0 kgm2未満,女性 5.4 kgm2未満,BIAでは男性7.0 kgm2未満,女性5.7kgm2未満が筋肉量低下の基準とされております.

 

最近,プレサルコペニアという用語も用いられるようになっておりますが,これは筋力や身体機能低下を伴わない骨核筋力の減少と定義されておりまして,サルコペニアの前段階と考えられます.

ちなみにサルコペニアの診断基準は2018年10月に変わりましたのでこちらをご覧ください.

これは必見!サルコペニアの新基準
2018年10月12日のAge AgingにEWGSOP2のサルコペニアのコンセンサス論文が公開されました. これまでの基準からの変更点も多く,理学療法士・作業療法士であれば確実に押さえておきたいところですので,今回は新しいEWGSO...

 

サルコペニア診療ガイドライン2017 [ サルコペニア診療ガイドライン作成委員会 ]

 ダイナペニアとは? 

ダイナペニアというのはClarkとManiniによって提唱された概念ですが,現在のところ定義は様々です.

筋肉量の低下を伴わない筋力低下のことを指すとするものと,広義のサルコペニアの中にダイナペニアが含まれるとするものとがありますが,いずれにしても筋力低下を意味する用語であるといった点に変わりはありません.

「ダイナ」は力・筋力を,「ペニア」は現象を意味するギリシャ語ですので,直訳すれば筋力減少症となりますが,本邦では筋力低下といった言葉が一般的に用いられます.

ダイナペニアと呼ぶ場合には,加齢に関連した筋力低下のみを意味するもので,神経筋疾患によるものは除外して考える必要があります.

 

 筋肉量の減少と筋力低下は別物? 

さまざまな計測法による骨格筋量の加齢変化について系統的レビューを行った研究によると,骨格筋量は男性で1年で平均0.47%,女性で平均0.37%程度するとされております.骨格筋量の低下はある年齢(50~65歳)を境にして低下率が大きくなるのですが,65歳以上の高齢者の5~12年の縦断研究の結果でも,1年あたりの骨格筋の低下率はおよそ0.5~1.0%にすぎません.

一方で高齢者では筋力は1年に男性で3.0~4.0%,女性で2.5~3.0%低下するとされております.

骨格筋量と筋力を同時に計測した前向き研究によると,筋力の低下率は筋量の減少率の2~5倍大きく,さらに筋力低下のほうが骨格筋量の減少よりも,その後の身体機能低低下や死亡に対するリスクが高いことが示されております.

こういった研究を考えると,単純な骨格筋量の減少からは,筋の機能低下を説明できないと考えられます.

単位筋量あたりの発揮筋力は,固有筋力(絶対筋力)とよばれますが,これまで加齢による固有筋力の低下については明らかにされていない点も多い状況でした.

しかしながら,近年の研究によって,筋力低下に加齢に伴う骨格筋の質的変化が大きく関連していることが明らかになってきております.つまり筋量を評価する場合には,骨格筋組織の量のみならず質を合わせて評価することが重要であると考えられます.

骨の評価においても骨量だけではなく骨密度や骨の微細構造といった質的な評価が重要であることが以前から報告されておりますが,筋に関しても同様なことがいえるということになります.

骨格筋の質というのは具体的には超音波エコーにおける筋輝度の上昇として確認することができます.

これは骨格筋内脂肪量が増えることや筋線維タイプ比が変化することで生じるとされております.

まだまだこのあたりの研究は今後も進められるのだと思いますが,現段階でもサルコペニアとダイナペニアを別の独立した概念として認識しておくことが重要だと思います.

サルコペニア・プレサルコペニア・ダイナペニアをまとめると上の表のような形になります.

重要なのは筋肉量が減少しても筋力は低下していない場合(プレサルコペニア)と,筋肉量が減少していないにもかかわらず筋力が低下している場合(ダイナペニア)があるといった点です.

こういった点から考えると,栄養介入を行うにしろ,身体的なトレーニング介入を行うにしろ,ダイナペニアとプレサルコペニアでは介入方法が異なるだろうというのは容易に想像できると思います.

 

サルコペニアの摂食・嚥下障害 リハビリテーション栄養の可能性と実践 [ 若林秀隆 ]

 

今回はサルコペニアとダイナペニアに関してご紹介させていただきました.本邦における高齢化の進行を考えると,理学療法士の主要対象者となる多くの高齢者が抱えるサルコペニア・ダイナペニアといった問題を無視することはできません.今後もこの分野の研究は進んでいくことが予測されますので,新しい知見に目を向け日々の臨床に活かしていきたいものです.

参考文献
1)Mitchell WK, et al: Sarcopenia, dynapenia, and the impact of advancing age on human skeletal muscle size and strength; a Quantitative review. Front Physiol 3: 260, 2012
2)Lauretani F, et al: Age-associated changes in skeletal muscles and their effect on mobility : an operational diagnosis of sarcopenia. J Appl Physiol 95: 1851-1860, 2003
3)Newman AB, et al: Strength, but not muscle mass, is associated with mortality in the health, aging and body composition study cohort. J Geronrol A Bio Sci Med Sci61: 72-77, 2006
4)Visser Metal: Muscle mass, muscle strength, and muscle fat in filtration as predictor soft incident mobility limitation sin well functioning older persons. J Geroniol A Biol Sci Med Sci 60: 324-333, 2005.

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