人工股関節全置換術例を担当した際に評価項目を挙げなさいと言われたら

人工股関節全置換術
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臨床実習では担当症例の評価項目を考える機会が少なくないと思います.今回は人工股関節全置換術例を担当した場合に,おさえておくべき評価項目について考えてみたいと思います.

目次

1.術前経過・原疾患

以前の記事でもご紹介いたしましたが,人工股関節全置換術に至るまでの原疾患によっても術後の病態は大きく異なりますので,変形性股関節症・大腿骨頭壊死症・急速破壊型股関節症・関節リウマチのどの疾患が基盤になって手術に至ったかを把握することが重要です.また術全経過が長ければ長いほど術後機能が不良ですので,術前の経過を聴取することが重要です.

2.血液データ

人工股関節全置換術後に把握する必要がある血液検査データとしてはHb・Alb・TP・D-dimmer・CRP・WBC等が重要です.

Hb(ヘモグロビン)
人工股関節全置換術を施行いたしますと骨切りによって出血いたしますので一般的にはHb値が低くなります.術後に貧血を合併する症例も多く,Hbが低値を示しやすいので注意が必要です(術前に自己血を採取しておいて術後に自己血を輸血される方も少なくありません).当然ながら貧血を合併していれば,積極的な運動療法は難しくなりますので,Hb値を確認した上で運動負荷を決定する必要があります.

TP・Alb
術後の機能回復を果たす上では栄養状態も非常に重要となります.既に術前後の栄養状態が術後のアウトカムに影響することも明らかにされております.また術後の栄養療法は低栄養状態にある術後症例の機能回復・歩行獲得を促進することも明らかにされております.ですので術前後の栄養状態を把握することは理学療法を行う上でも非常に重要となります.術後に低栄養状態に陥る原因は痛みで食事が摂取できないためではありません.一番の理由は蛋白異化作用によるものです.手術により組織が損傷を受けると組織を修復しようという反応が起こります.組織修復のためには蛋白質が必要となり,組織修復に多くの蛋白源を費やす必要がありますので,結果的に術後は低栄養状態に陥りやすいわけです.術前から十分な栄養状態にあれば基準値を下回ることは少ないのですが,術前に基準値のギリギリの栄養状態であると,手術によって容易に基準値を下回ってしまうのです.

D-dimmer
D-dimmerは1.0μg/ml以下が正常ですが,この値より高値となった場合には深部静脈血栓症が疑われます.D-dimmerの特徴として陰性的中率が高くD-dimmerが正常であれば深部静脈血栓症を否定できるのですが,陽性的中率は高くないので,D-dimmerが高くても深部静脈血栓症でない場合もある.なぜこんなことが起こるのかと言いますと,D-dimmerというのは体中の血液凝固に反応するマーカーですので血管内のみならず骨折後に起こる骨折部周囲の血腫にも反応してしまいます.ですのでD-dimmerが高値の場合には体のどこかの血液凝固が亢進していると解釈できますが,血管内の反応なのかどうかはD-dimmerのみではわからないということになります.ですので最終的には下肢エコーを撮影して確定診断を行います.人工膝関節全置換術例に比較すると人工股関節全置換術後の静脈血栓症の発生率は少ないとされておりますが,静脈血栓症を合併し肺塞栓症を発症すると生命にも影響が及びますので注意が必要です.

CRP・WBC
CRP(C-reactive protein:C-反応性蛋白)とは,炎症性刺激や細胞破壊が起きた時に増える蛋白質のことを言います.正常値(基準値)は0.3(mg/dl)であり,これよりも上昇していると炎症があるということになります.ただCRPは手術部位に限らず全身の炎症に反応しますので,その点にも注意が必要です.
人工股関節全置換術後の合併症として最も怖いのは感染です.感染は早期感染・晩期感染などに分類できますガ,術後には感染の有無に注意を払う必要があります.感染に関するマーカーとしてはCRPに加えて,WBCのデータを確認しておくことが重要です.

3.X線・手術記録

人工股関節全置換術後にはX線をみながら術後の構造的な脚長差,骨盤前後傾の程度,骨盤傾斜の状況などを確認します.X線の診方については,以前にご紹介いたしました変形性股関節症例におけるX線の診方が参考になると思います.術後のX線では以前にご紹介した内容に加えてオフセット長を把握することが重要となります.手術記録については,以下の点を確認しましょう.

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アプローチ

前方・側方・後方いずれのアプローチで手術が行われたかによって,脱臼肢位も変化しますので,アプローチを把握しておくことが重要です.アプローチの相違に関しては以前の記事でご紹介いたしましたのでそちらをご参照ください.

術中可動域

手術記録から術中可動域を確認することで易脱臼性の有無を確認することが可能となります.術中には後方アプローチであれば屈曲・内転・内旋の複合運動の可動域が確認されておりますので,必ず術中の可動域を確認するようにしましょう.

骨移植の有無

寛骨臼形成不全の著しい症例においては,寛骨臼蓋に骨移植が施されている場合が少なくありません.広範囲に骨移植が行われている症例では,術後に免荷を要する場合も少なくありませんので骨移植の有無を確認しましょう.

深層外旋六筋・関節包縫合の有無

脱臼に関連する要因としては深層外旋六筋・関節包縫合の有無を確認することが重要です.特に後方アプローチによって人工股関節全置換術を行っている症例では,深層外旋六筋・関節包の縫合によって術後脱臼率が大きく異なりますので,手術記録から深層外旋六筋・関節包の縫合の有無を確認することが重要です.また深層外旋六筋は股関節における安定性に寄与する筋群としても重要ですので,術後の運動機能を考える上でも深層外旋六筋の縫合の有無を確認することが重要です.

その他

その他に確認すべき情報として使用したインプラント(ヘッド)の骨頭径や,カップ設置角(前方開角・外方開角)を確認しておきましょう.骨頭径やカップ設置角度によっても脱臼リスクが変化しますのでこのあたりもおさえておくことが重要です.

4.疼痛

疼痛の評価にはNRSやVASが用いられることが多いです.人工股関節全置換術例の疼痛の特徴でもご紹介いたしましたが,創部や股関節周囲のみならず隣接関節の疼痛も合わせて確認するようにしましょう.

5.形態測定

形態測定では脚長差を測定することが重要です.臍果長・棘果長・転子果長・大腿長・下腿長を測定し,左右差からどこで脚長差が生じているかを把握しましょう.人工股関節全置換術後の脚長差には脚長そのものが異なる構造的脚長差と,脚長は同等にもかかわらず内外転拘縮に伴う骨盤傾斜によって生じる機能的脚長差があります.X線上における涙痕-小転子間距離と合わせて,何が原因で脚長差が生じているのかを評価しましょう.

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6.可動域

人工股関節全置換術例の関節可動域を評価する際には,股関節に加えて胸腰椎の可動域を評価することが重要となります.術前からの代償パターンによって胸腰椎に可動域制限のある症例は少なくありません.また股関節に屈曲可動域制限がある場合には胸腰椎の屈曲可動域を拡大させることで日常生活動作が可能となる場合も少なくありませんので,胸腰椎の可動域を把握しておくことは重要です.さらに胸腰椎の側方可動性の低下が骨盤側方傾斜を引き起こし,機能的脚長差の原因となる場合もありますので,側屈・回旋方向の可動域を確認しておくことも重要です.

7.筋力

術前からの疼痛に伴う活動性の低下によって,全身の筋力低下を呈している場合も少なくありませんので,股関節周囲筋に加えて全般的な筋力を確認しましょう.

8.QOL

最近は日本股関節学会が作成したJHEQを使用して評価が行われることが多いです.

9.住宅環境

住宅環境を評価する際には,家屋が洋式スタイルに整備されているか(特に後方アプローチの場合)を確認することが重要です.

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