変形性膝関節症=大腿四頭筋トレーニング?

変形性膝関節症
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変形性膝関節症例の特徴として,疼痛・関節可動域制限の他に膝関節伸展筋群である大腿四頭筋の筋力低下が挙げられます.

二十年ほど前までは変形性膝関節症には大腿四頭筋トレーニングといったパラダイムが,リハビリテーション業界のみならず,整形外科医師の間でも一般的になっておりましたが,大腿四頭筋の筋力低下は変形性膝関節症の原因ではなく,結果に過ぎないといったことも明らかになってきました.

今回は変形性膝関節症例における大腿四頭筋の筋力低下について考えてみたいと思います.

 

 

目次

 なぜ変形性膝関節症例の膝関節伸展筋力が低下するのか? 

変形性膝関節症ではArthrogenic muscle inhibition(AMI)と呼ばれる病態に加え,疼痛に伴う活動性低下(廃用性の筋力低下)によって大腿四頭筋の筋力が低下することが明らかにされております.

 

AMIというのは関節損傷によって引き起こされる炎症・腫張・受容器損傷によって,筋力低下が起こるというものです.

膝関節に炎症が生じている状態では屈筋反射が亢進し,屈筋の拮抗筋である大腿四頭筋におけるα運動ニューロンの興奮性が低下してしまいます.

また関節損傷に伴って関節水腫が出現すると,Ⅰb抑制が優位となり反射的に大腿四頭筋の筋力が発揮しにくくなります.

これは関節原性抑制と呼ばれる反応ですが,水腫によって関節内圧が高くなった状態で,さらに膝関節を伸展させることで関節内圧が高まると,関節包が伸張され関節内の受容器や知覚神経が興奮し,脊髄反射によって大腿四頭筋に抑制がかかるといったものです.

簡単に言うと水腫によって関節内圧が高まった状態では,それ以上関節内圧が高まると膝関節が壊れてしまうと体が認識し,大腿四頭筋に抑制がかかるのです.

大腿四頭筋の筋力が健常人よりも高いスポーツ選手が,前十字靭帯損傷後に膝崩れを起こすのはそのためです.よって筋肉量は十分であっても炎症の症状によって大腿四頭筋の筋出力が低下するのだということを認識しておく必要があります.

さらに受容器損傷に伴うγ環機能障害もまた大腿四頭筋のα運動ニューロンの興奮性を低下させることが明らかにされております.

したがって変形性膝関節症例の膝関節伸展筋力低下を考える場合には,脊髄反射レベルで筋力低下が起こっている可能性を考慮する必要があります.

 

 

 膝関節伸展筋力低下は変形性膝関節症の原因なのか? 

十数年前までは大腿四頭筋の筋力低下は,変形性膝関節症の原因であると考えられていました.

大腿骨と脛骨のアライメントを考えた時に,大腿四頭筋が収縮すると脛骨を外反させる方向に力が加わるわけですが,大腿四頭筋の筋力低下によってこの脛骨を外反方向へ誘導する力が減少し,膝関節が内反してしまうのだといった考え方や,大腿四頭筋力が低下すると膝関節が不安定になり,そのために変形性膝関節症を発症するのだといったような考え方が以前は主流でした.

 

しかしながらここ最近の研究では大腿四頭筋の筋力低下は,変形性膝関節症の直接的な原因ではなく,あくまで結果に過ぎないと考えるのが一般的になっております.

われわれに関連するところで変形性膝関節症の原因として重要なのは,膝関節内反モーメントの制御です.すなわち歩行時に膝関節を内反させようとする外力を制御することが,変形性膝関節症の理学療法を考える上では重要となります.

それでは大腿四頭筋の筋力トレーニングが重要でないかというと,そうではなくて,大腿四頭筋の筋力を維持・向上させ,歩行・日常生活動作能力の改善を図ることは重要であると考えられております.

実際に大腿四頭筋トレーニングを行うことで,疼痛に改善が得られたといった報告や歩行・日常生活動作能力に改善が得られたといった報告は数えられないくらいあります.ただ直接的な原因ではないというところが重要です.

 

 

 変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニング 

変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニングに関しては数多くの研究がありますが,有名なのは日本整形外科学会によって行われた無作為化比較試験(薬物療法だけの群 vs 大腿四頭筋トレーニングのみの群)です.

この無作為化比較試験によると大腿四頭筋トレーニングは薬物療法と同等の効果(疼痛・機能スコア)を得られることが明らかにされており,多くのガイドラインでも大腿四頭筋トレーニングは有効とされております.

また大腿四頭筋トレーニングによって関節液中のヒアルロン成分が増加するといった報告や,大腿四頭筋トレーニングは,軟骨細胞の炎症の鎮静化や,関節内および周囲組織に抗炎症物質を産生する効果があることまで明らかにされております.

つまり変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニングは症状の改善に非常に効果的であるといった話になります.

 

変形性膝関節症の整形外科的治療には大腿四頭筋トレーニングをはじめとする運動療法以外にも様々な治療法が挙げられます.

変形性膝関節症例の治療方法は大きく分類すると,対症療法原因療法に分類できますが,大腿四頭筋トレーニングというのは変形性膝関節症の原因を治療するものではなく,関節穿刺や関節注射と同じような対症療法として考えるのが一般的でしょう.

 

前述したように原因療法という意味からすると,われわれの立場では膝関節内反モーメントを減少させる戦略を考えることが重要になると考えます.今回は変形性膝関節症例に対する大腿四頭筋トレーニングについて考えてみました.変形性膝関節症=大腿四頭筋トレーニングと考えている理学療法士は今はいないと思いますが,なぜ膝関節伸展筋力が低下するのか,大腿四頭筋トレーニングがどのような効果を及ぼすのかを知っておくことが重要です.

 

参考文献

1)岩谷力: 変形性膝関節症に対する大腿四頭筋訓練の効果に関するRCT. リハビリテーション医学,2006
2)Miyaguchi M, et al: Bilchemical change in joint fluid after isometric quadriceps exercise for patients with osteoarthritis of the knee. Osteoarthritis & Cartilage. 2003
3)Lim BW, et al: Does knee malalignment mediate the effects of quadriceps strengthening on knee adduction moment, pain, and function in medial knee osteoarthritis? A randomized controlled trial. Arthritis Rheum15: 943-51. 2008
4)Foroughi N, et al: Lower limb muscle strengthening does not change frontal plane moments in women with knee osteoarthritis: A randomized controlled trial. Clin Biomech 26: 167-74, 2011

 

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