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論文抄録だけを読む危険性 ランダム化比較試験に潜むSPINに注意
私のブログの中でも英語論文の抄録を日々ご紹介させていただきます.
これは自戒も込めての話ですが,抄録って限られた文字数の中の限られた情報しか入手できませんので実は様々な危険性が潜んでいるんです.
今回は論文抄録だけを読む危険性について,特にRCTに潜むSPINに注意が必要だといったお話です.
SPINって?
論文をご紹介する前にSPINについて簡単にご紹介させていただきます.
エビデンスレベルが高いとされるランダム化比較試験は,臨床診療における介入や治療の根拠となるため,その結果は完全で正確であることが求められます.
しかしながらメインアウトカムに有意差が認められなくても,副次的なアウトカムやサブグループ解析の結果を強調して治療の効果を印象づける論文ってけっこうあるんですよね.
こういった都合のよい解釈のことを「SPIN」と称します.
今回ご紹介する論文
JAMA. 2010 May 26;303(20):2058-64. doi: 10.1001/jama.2010.651.
Reporting and interpretation of randomized controlled trials with statistically nonsignificant results for primary outcomes
Isabelle Boutron 1, Susan Dutton, Philippe Ravaud, Douglas G Altman
Affiliations expand
PMID: 20501928 DOI: 10.1001/jama.2010.651
今回は少し古い論文ですが,2010年に掲載された有名なSPINに関連する論文です.
研究の目的
Objective: To identify the nature and frequency of distorted presentation or “spin” (ie, specific reporting strategies, whatever their motive, to highlight that the experimental treatment is beneficial, despite a statistically nonsignificant difference for the primary outcome, or to distract the reader from statistically nonsignificant results) in published reports of randomized controlled trials (RCTs) with statistically nonsignificant results for primary outcomes.
この研究では,主要アウトカムについて統計的に有意でない結果が得られた無作為化比較試験(RCT)の公表された論文を対象として,歪んだ表現や「スピン」(動機が何であれ実験的治療が有益であることを強調するため,あるいは統計的に有意でない結果から読者の注意をそらすための特定の報告戦略)の性質と頻度を明らかにすることを目的としております.
データソース
Data sources: March 2007 search of MEDLINE via PubMed using the Cochrane Highly Sensitive Search Strategy to identify reports of RCTs published in December 2006.
2007年3月にコクラン高感度検索ストラテジーを用いてPubMedを介してMEDLINEを検索し,2006年12月に発表されたRCT論文を同定しております.
研究の選択
Study selection: Articles were included if they were parallel-group RCTs with a clearly identified primary outcome showing statistically nonsignificant results (ie, P > or = .05).
主要アウトカムが明確に同定され,統計学的に有意でない結果を示したパラレルグループRCT(P > or = 0.05)の論文を対象としております.
データ抽出
Data extraction: Two readers appraised each selected article using a pretested, standardized data abstraction form developed in a pilot test.
2名のレビュアーが,パイロット試験で作成された事前テスト済みの標準化されたデータ抽出フォームを使用して,選択された各論文を評価しております.
研究の結果
Results: From the 616 published reports of RCTs examined, 72 were eligible and appraised. The title was reported with spin in 13 articles (18.0%; 95% confidence interval [CI], 10.0%-28.9%). Spin was identified in the Results and Conclusions sections of the abstracts of 27 (37.5%; 95% CI, 26.4%-49.7%) and 42 (58.3%; 95% CI, 46.1%-69.8%) reports, respectively, with the conclusions of 17 (23.6%; 95% CI, 14.4%-35.1%) focusing only on treatment effectiveness. Spin was identified in the main-text Results, Discussion, and Conclusions sections of 21 (29.2%; 95% CI, 19.0%-41.1%), 31 (43.1%; 95% CI, 31.4%-55.3%), and 36 (50.0%; 95% CI, 38.0%-62.0%) reports, respectively. More than 40% of the reports had spin in at least 2 of these sections in the main text.
最終的に調査が行われたランダム化比較試験は616編でありました.
このうち72編が調査となり,評価が行われました.
まず論文タイトルにSPINが含まれていると報告された論文は13編(18.0%;95%信頼区間[CI],10.0%-28.9%)でありました.
またSPINは27編(37.5%;95%信頼区間[CI] ,26.4%~49.7%)と42編(58.3%;95%CI,46.1%~69.8%)の報告の抄録の結果と結論のセクションで確認され,結論は治療効果のみに焦点を当てた17編(23.6%;95%CI,14.4%~35.1%)でありました.
SPINはそれぞれ21編(29.2%;95%CI,19.0%~41.1%),31編(43.1%;95%CI,31.4%~55.3%),36編(50.0%;95%CI,38.0%~62.0%)の報告の本文の結果,考察,結論のセクションで確認されました.
40%以上の報告では,本文中の少なくとも2つのセクションにSPINが確認されました.
研究の結論
Conclusion: In this representative sample of RCTs published in 2006 with statistically nonsignificant primary outcomes, the reporting and interpretation of findings was frequently inconsistent with the results.
2006年に発表された統計的に有意ではない主要アウトカムを有するランダム化比較試験において,比較的多くの論文で結果と抄録内の記載に矛盾があることが明らかとなりました.
今回は論文抄録だけを読む危険性について,特にRCTに潜むSPINに注意が必要だといったお話でした.
抄録内に大幅に改善したと書かれているものでも,本文中の結果を見てみるとpre-postの差が標準誤差すら超えていない場合もあります.
私のブログでも論文抄録だけをご紹介させていただいておりますが,理学療法士・作業療法士の皆様も気になる論文は是非ともフルテキストをきちんと読んでいただきたいものです.
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