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理学療法士・作業療法士は骨盤がゆがんでいるなんて言ってたら終わりじゃない?
「骨盤がゆがんでますね」
「あなたの膝の痛みは骨盤のゆがみからくるものです」
いわゆる骨盤矯正を行う整体師の決まり文句ですね.
最近は骨盤がゆがんでいるなんてクライアントに説明している理学療法士・作業療法士が増えているようで非常に怖い時代になったなと思うわけですが,正直なところ理学療法士・作業療法士は骨盤がゆがんでいるなんて言ってたら終わりじゃないでしょうか?
今回ご紹介する論文
Man Ther. 2011 Dec;16(6):646-8. doi: 10.1016/j.math.2011.04.006. Epub 2011 Jun 11.
Assessment of the degree of pelvic tilt within a normal asymptomatic population
Lee Herrington 1
Affiliations expand
PMID: 21658988 DOI: 10.1016/j.math.2011.04.006
今回ご紹介する論文は2011年に掲載された少し古い論文です.
論文の概要
In clinical practice the degree of pelvic tilt is commonly assessed because of its reported relationship to pelvic, spinal and lower limb pathologies. There is little normative data presented within the literature establishing typical findings within an asymptomatic population from which to make comparisons in pathological populations. The aim of this study was to report typical pelvic angle in an asymptomatic populations and also the degree of side-to-side asymmetry which might exist within the pelvis. Pelvic angle was measured by finding the angle from horizontal of a line between the anterior superior and posterior superior iliac spines of the ilium using a PALM palpation meter in 120 healthy subjects (65 males, 55 females) with a mean age of 23.8(2.1) years. 85% of males and 75% of females presented with an anterior pelvic tilt, 6% of males and 7% of females with a posterior tilt and 9% of males and 18% of females presented as neutral. There was significant difference in pelvic angle between sides for males (p = 0.002) but a non-significant difference between sides for females (p = 0.314). But the difference in angle for males between sides was less than the smallest detectable difference statistic found in the reliability study, so most likely to be due to measurement error.
臨床では骨盤傾斜角度と脊椎・下肢の病態との関連性が報告されているため,骨盤傾斜の評価が一般的に行われます.
有症者集団との比較を行うために,無症候者における典型的な所見を確立するための文献には,標準的なデータはほとんどありません.
この研究では,無症候者における典型的な骨盤傾斜角度と骨盤内に存在する可能性のある左右非対称性の程度を明らかにすることを目的としております.
平均年齢23.8歳の健常な120例の被験者(男性65名、女性55名)を対象に,PALM触診計を用いて腸骨の前上腸骨棘と後上腸骨棘の間の線の水平方向からの角度を測定しております.
男性85%,女性75%が骨盤前傾,男性6%,女性7%が後傾,男性9%,女性18%がニュートラルでありました.
骨盤角度の左右差は男性では有意差がありましたが(p = 0.002),女性では左右差は有意ではありませんでした(p = 0.314).
また男性の左右の骨盤傾斜角度の差は最小可検変化量よりも小さいものであり測定誤差によるものである可能性が高いと考えられます.
この論文から読み取れること
骨盤傾斜なんていうのは誰にも存在するものであり,左右差が存在しないこと,左右差が存在したとしてもそれは誤差範囲内のものであるといった点です.
重要なのは骨盤傾斜とさまざまな筋骨格系障害との関連ということになると思いますが,最近は骨盤が傾斜していることそのものを病気ととらえて,骨盤傾斜自体を商売対象としているといった点が非常に怖いところです.
これを理学療法士・作業療法士がやっちゃいかんでしょう…
骨盤矯正って?
骨盤矯正って正直意味が分からないですよね.
骨盤矯正というのはそもそも何を意味する言葉なのでしょうか?
寛骨を矯正する?
腸骨を矯正する?
仮に関節の話であれば仙腸関節と記載しないと何を矯正するのかわかりませんよね.
また仙腸関節を矯正と言っても仙腸関節の動きなんてたかがしれてますし,多少の左右差によって何らかの障害が出るというのは考えにくいと思います.
理学療法士・作業療法士の皆様にお伝えするのは釈迦に説法になりますが,骨盤というのは中央に仙骨,左右に寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)といった位置関係で構成されております.
それぞれの骨の間は強固な靭帯結合となっており,動いても数mm程度です.
車のハンドルを左右に回した際の“遊び”のようなものですね.
骨盤矯正という名の付くものに意味があるとすれば,関節包などの固有受容器に加えられる刺激くらいじゃないでしょうか?
結局はお金儲け
結局のところ骨盤矯正というのはお金儲けにしかすぎません.
骨盤がゆがんでいるので矯正しましょうといって必要のない不安を煽って商売するのは健康産業あるあるですよね.
整体というのは所詮は医療類似行為ですので,医療職種である理学療法士・作業療法士が骨盤がゆがんでいるから矯正をなんて言ってたら残念過ぎますよね.
最近は骨盤矯正したら痩せるとか免疫力が上がってコロナウイルスに感染しにくくなるなんて商売も出てきてますのでおそろしいです.
そもそも利き手や利き足がある以上,身体が対称なわけはありませんし,完全な左右対称性にどこまで意味があるのかもわかりません.
骨盤矯正を商売は詐欺まがいの健康不安商法としか言えないわけですね.
これを理学療法士・作業療法士がやってたらおしまいです.
今回は理学療法士・作業療法士は骨盤がゆがんでいるなんて言ってたら終わりじゃないかといったお話でした.
個人事業主として起業する理学療法士・作業療法士が増えておりますが,健康不安商法でしか稼げないのは悲しいですね.
コメント
何時も楽しく拝見しております。
骨盤矯正って、怖い言葉ですね。入院される方でよく、〜〜で骨盤が歪んでいると言われた。なんてよく言われます。
ただ、私の短いセラピスト人生で二度ほど明らかに左右差のある方を診せていただきました。先天性に発育不全などのものなのか、後天的に本当に歪んでいるのか分かりませんでしたが驚きました。
これからも記事を楽しく拝見させて頂きたいと思います。
ありがとうございます!
確かに先天性の奇型なんかもゼロではありませんよね,ただの左右差を歪んでいると表現するのはそういった本当の意味での骨盤の変形と区別をする意味でも問題ですよね