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理学療法士・作業療法士が運動負荷を決めるよりもクライアント自身が運動負荷を決定した方が良い?
理学療法士や作業療法士がクライアントに関わる際に問題になるのが,運動負荷の決定方法です.
運動負荷の決定方法については過去にも自転車エルゴメーターやトレッドミルを例にご紹介をいたしました.
これらはあくまで客観的な指標に基づいて専門家である理学療法士や作業療法士が負荷を決定する方法です.
一方でクライアント自身に運動負荷を決定してもらうといった方法も考えられます.
今回は理学療法士・作業療法士が客観的に運動負荷を決定した方が良いのか,クライアントが自覚的に運動負荷を決定した方が良いのかを明らかにした研究をご紹介します.
今回ご紹介する論文
Med Sci Sports Exerc. 2011 Jun;43(6):1106-13. doi: 10.1249/MSS.0b013e3182061b49.
Influence of preferred versus prescribed exercise on pain in fibromyalgia.
Newcomb LW, Koltyn KF, Morgan WP, Cook DB.
今回ご紹介する論文は2011年に掲載された少し古い内容です.
研究の目的
The purpose of this study was to examine the influence of a preferred- versus a prescribed-intensity exercise session on pain in women with fibromyalgia (FM).
この研究の目的はクライアントが好ましいと考える運動強度と理学療法士・作業療法士が適切と考える運動強度のどちらが有痛性疾患の代表である線維筋痛症の疼痛改善に有効かを明らかにすることとしております.
研究の方法
Twenty-one women with FM (mean age = 44 yr) completed two randomly assigned exercise sessions consisting of 20 min of cycle ergometry at a self-selected intensity and a prescribed intensity. Experimental pain perception was assessed before and after aerobic exercise. During exercise, HR, watts, RPE, and muscle pain were assessed every 5 min. Clinical pain was assessed with the Short-Form McGill Pain Questionnaire (SF-MPQ) immediately and 24, 48, 72, and 96 h after exercise. Data were analyzed with repeated-measures ANOVA.
線維筋痛症例21例を対象とし,無作為に自己選択した強度で自転車エルゴメーター運動を20分実施する群と,指導者が規定した運動強度で自転車エルゴメーターを駆動する群に分類しております.
疼痛の評価は自転車エルゴメーター運動前後で実施しております.
また運動中の心拍数,ワット数,自覚的運動強度,筋痛を5分ごとに評価しております.
臨床的な疼痛評価にはShort-Form McGill Pain Questionnaire (SF-MPQ)を用いて,運動後24時間,48時間,72時間,96時間で評価を行っております.
データ解析には反復測定による分散分析を用いております.
研究の結果
Women with FM preferred a lower intensity of exercise than what was prescribed as indicated by significantly lower HR, watts, and RPE responses (P < 0.05). Muscle pain in the legs, however, was similar in the two conditions and significantly increased during exercise (P < 0.05). Pain thresholds and pain tolerances increased significantly after exercise, whereas peak pain ratings decreased after exercise (P < 0.05). Furthermore, pain (SF-MPQ) in the follow-up period was found to be lower than baseline (P < 0.05).
指導者が規定した運動強度よりも自己決定した運動強度で有意に心拍数,ワット数,自覚的運動強度が低い結果でありました.
下肢の筋痛については指導者が規定した運動強度と自己決定した運動強度の間で有意差はありませんでしたが,両群ともに運動中に有意に疼痛が強いといった結果でありました.
疼痛閾値と疼痛耐性は運動後に有意に上昇し,一方で疼痛のピークは運動後に軽減しておりました.
さらに運動後数日におけるフォローアップ期間の疼痛はベースラインよりも有意に低い結果でありました.
研究の結論
It is concluded that the women with FM who participated in this study experienced significant improvements in pain after exercise. The results from this study are novel and indicate that recommendations for exercise prescription for individuals with FM should consider the preferred-intensity exercise model as a strategy to reduce pain.
線維筋痛症を有する症例に対する運動療法は疼痛軽減に有効であることが明らかとなりました.
またこの研究から疼痛軽減を目的として有酸素運動を行う場合には,規定された運動よりも自己選択した強度での運動が有効である可能性が示唆されます.
今回は理学療法士・作業療法士が客観的に運動負荷を決定した方が良いのか,クライアントが自覚的に運動負荷を決定した方が良いのかを明らかにした研究をご紹介いたしました.
最近は疼痛治療の1つとして有酸素運動が選択されることが増えてきておりますが,今回の結果を考えると,疼痛軽減効果は2群間で差は無いことから,疼痛軽減を目的として有酸素運動を実施する場合には運動負荷は自己選択してもらう方法が有益であると考えられます.
われわれ理学療法士・作業療法士も有痛性疾患に対して有酸素運動を行う場合には,参考にできるないようではないでしょうか?
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