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理学療法士界隈で問題になっている筋膜リリースの誤解
最近は筋膜リリースって言葉を至るところで聞きますよね…
講習会でもここをリリースしてとか,癒着を剥がしてとかそういった話ってよく耳にすると思います.
実際のところ,筋膜リリースや筋膜に関する研究というのはまだまだ科学的根拠に乏しいところが多くて,わかっていないことも多いんですよね.
だから逆に言えばブラックボックスだったりするわけですが,ブラックボックスを良いことに暴走している理学療法士が多いのも確かですよね.
今回は理学療法士界隈で問題になっている筋膜リリースの誤解について考えてみたいと思います.
筋膜リリースって何?
筋膜リリースとは,筋膜の複合体に対して持続的かつ穏やかな圧と伸張(ストレッチ)を施すことによって,筋膜の制限を解除し,長さの最適化,痛みの軽減,機能の向上を目的として行われる徒手療法の1種と定義されております.
いわゆる筋膜リリースとはアメリカの理学療法士であるJohn F Barnesさんという方が考案した徒手療法が始まりだそうです.
日本ではアナトミートレインが理学療法士・作業療法士界隈で筋膜リリースを拡大させた大きな要因ですね.
また日本では筋膜リリースといえば竹井仁先生ですかね.
残念ながら懲戒免職になってしまいましたが,果たした功績は非常に大きいですよね.
筋膜とは?
学生時代に人体解剖を経験された方は,筋膜ってあれでしょ皮膚と筋肉の間にある薄い膜のことでしょと考える方が多いと思いますが,筋膜というと皮下から骨格筋や臓器などあらゆる組織までを結合して,包括,分割する“鞘”または“結合組織”の集合体といった捉え方が本当です.
筋膜は狭義の筋膜(薄い膜)と広義の筋膜(結合組織の集合体)といった捉え方ができるでしょう.
日本語では筋膜と表現されますが,海外ではFasciaといった表現が用いられることが多いです.
このFasciaという用語は結合組織を意味します.
ヒトの身体は筋肉・骨・血管・内臓などの多くの組織が集合して構成されます.
また組織それぞれが単独で存在するだけでは,ヒトはその形態を保つことができません.
この組織間をつなぐ役割を持ったのがFasciaというわけです.
筋膜は主にコラーゲンとエラスチン,さらにはヒアルロン酸でできて,そのほとんどは水分で構成されます.
筋膜は比較的弾力があって水々しく,毛糸の繊維みたいに伸縮する組織として知られております.
筋膜リリースによってなぜ効果が得られるのか?
筋膜リリースというと,筋膜の癒着を剥がすテクニックといったイメージを持たれている理学療法士・作業療法士が多いかもしれませんが,現在のところ本当に筋膜リリースによって癒着が剥がれるのかどうかは明らかではありません.
例えばテニスボールやゴルフボールを用いたリリースを想像してみてください.
体表からボールを押し当てたりコロコロすることで,筋膜が剥がれるなんていうのは考えにくいですよね.
ただ一方で筋膜リリースとよばれる手技を用いることで動きやすくなったとか関節可動域が拡大したということを経験するのも事実です.
実は現在考えられている筋膜リリースの効果というのは,力学的影響と神経生理学的影響の2つに集約されます.
力学的影響
力学的影響というのは,圧刺激に対して起こる組織の水和作用です.
例えば洗面所にあるスポンジを想像してみてください.
スポンジに水分を多く含ませたければ,皆さんは一度スポンジを十分に絞った上で,水に浸して水を吸わせると思います.
これと同じで,皮膚の上からボールを押し当てることによって一時的にその表面にある組織を虚血状態にさせます.
ボールを離すとボールによる圧迫から解放された時に虚血に陥っていた血管や組織間に血液や間質液が流入します.
こういったメカニズムで,水分が失われた組織に潤いが戻るといった機序です.
筋膜というのは元々は水分の多い組織ですので,異常をきたすと水分量が減って組織が破綻してしまいます.
筋膜リリースによって潤いが失われた筋膜に再び潤いが取り戻されるような現象が起きて,結果として筋膜の滑走性が向上して関節可動域が拡大したり,動きやすくなるわけですね.
神経生理学的影響
ヒトの筋の硬さや痛みは脳の活動によって決定されます.
筋膜の中には感覚を司る固有感覚受容器が他の組織よりも多く存在します.
筋膜をリリースすることで,固有感覚受容器が刺激を受け,疼痛閾値が上がることで疼痛を受け入れやすくなるというわけです.
今回は理学療法士界隈で問題になっている筋膜リリースの誤解について考えてみました.
言葉や手技ばかりが独り歩きしている筋膜リリースですが,もう少し科学的な根拠が解明されることを期待したいですね.
少なくとも理学療法士が行っている筋膜リリースが医行為にあたると判断されたら,これは大きな問題ですよね.
癒着を剥がす行為なんていうのは理学療法士が行う範疇を超えるかもしれません.
私自身は組織間の滑走性を改善させるといったような認識がちょうど良いのではないかと考えております.
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