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理学療法士必見 工藤慎太郎研究室の最新論文
大腿骨転子部骨折例における組織間滑走性と大腿部痛との関連
大腿骨転子部骨折といえば疼痛が遷延しやすく,歩行獲得に難渋するケースが少なくありません.
また大腿骨転子部骨折の場合には,骨折に伴う出血が大腿部に広がり,大腿軟部組織の滑走性を低下させていることを臨床的に多く経験します.
しかしながらこれまで大腿骨転子部骨折例における大腿部軟部組織の滑走性について調査した報告はほとんどありませんでした.
対象者が80歳を超える高齢者がほとんどですので,研究も行いにくいといった領域であったと思います.
今回は森ノ宮医療大学工藤慎太郎研究室から出された,大腿骨転子部骨折例における組織間滑走性と大腿部痛との関連を調査した最新論文を紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
Arch Phys Med Rehabil. 2019 Oct 21. pii: S0003-9993(19)31307-3. doi: 10.1016/j.apmr.2019.09.011. [Epub ahead of print]
Relationship Between Gliding and Lateral Femoral Pain in Patients With Trochanteric Fracture.
Kawanishi K1, Kudo S2, Yokoi K3.
今回ご紹介する論文は2019年に公開された新しい論文です.
本邦で行われた研究です.
研究の目的
To investigate the association between gliding and lateral femoral pain with trochanteric fracture (TF).
この研究では大腿骨転子部骨折例における組織間滑走性と大腿部痛との関連を明らかにすることを研究の目的としております.
研究デザイン
研究デザインは前向きコホート研究です.
研究セッティング
調査は術後平均3週から11週の間に実施されております.
研究の対象
Patients (N=23) with TF after surgery.
研究対象は大腿骨転子部骨折術後例23例となっております.
主要アウトカム測定
Pain was assessed using a numeric rating scale for the following 5 conditions: rest pain, tenderness pain, stretch pain (SP), contraction pain, and weight-loading pain. Based on weight-loading pain, the subjects were divided into 2 groups: severe and moderate. Gliding of both the vastus lateralis (VL) muscle and subcutaneous (SC) tissue were recorded during knee motion using B-mode ultrasonography with a 12-MHz linear transducer fixed on the lateral thigh using an original fixation device. Particle image velocimetry analysis software was adapted to create the flow velocity of both VL muscle and SC tissue from echo imaging, and 2 regions of interest were selected on the VL muscle and SC tissue. Gliding was calculated using a coefficient of correlation from each time series data set.
疼痛の評価にはNumeric rating scaleを用い,安静時痛,圧痛,伸張痛,収縮痛,荷重痛を評価しております.
荷重痛の状況に基づいて,対象者を荷重痛が重度の群と中等度の群の2群に分類しております.
外側広筋と皮下組織間の滑走性の評価については膝関節を屈曲した際の滑走性について超音波装置を用いて評価を行っております.
研究の結果
Gliding and pain (stretch/contraction) were significantly different between the 2 groups at 3 weeks post operation. Changes in both weight-loading pain (r=0.49) and SP (r=0.42) correlated significantly with improvements in gliding.
荷重痛が重度の群と中等度の群の間で比較を行った結果,組織間滑走性と疼痛(伸張痛と収縮痛)は術後3週の段階で有意差を認めました.
また経時的な荷重痛の変化量と伸張痛は滑走性の改善と有意な関連を認めました.
研究の結論
Patients with weight-loading pain after surgery for TF showed decreased gliding during recovery, and an improvement in gliding was associated with improvements in both weight-loading pain and SP.
大腿骨転子部骨折後に荷重痛が強い症例は組織間滑走性が不良であり,この組織間の滑走性の改善が荷重痛や伸張痛と関連することが明らかとなりました.
今回は森ノ宮医療大学工藤慎太郎研究室から出された,大腿骨転子部骨折例における組織間滑走性と大腿部痛との関連を調査した最新論文を紹介させていただきました.
これまでにも大腿骨転子部骨折例における大腿軟部組織間の癒着が術後の大腿部痛に影響を与えることが推測されておりましたが,見事にそれを証明した論文です.
この結果からすると理学療法士は大腿骨転子部骨折例の大腿軟部組織に着眼した理学療法を展開することが重要であると考えられます.
特に術後早期には大転子後方から遠位にかけて出血成分が残存していることが多いので,内出血の位置を確認した上で周囲の組織間滑走性を向上させることが重要であると考えられます.
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