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変形性股関節症に対する骨温存手術を見直す
変形性股関節症に対する手術療法をいえば人工股関節全置換術が一般的となってきております.
以前に比較すれば人工股関節全置換術におけるインプラントの耐用年数が長くなったことや,手術手技が標準化されたことで,最近は以前から行われてきた骨温存手術の件数は少なくなってきております.
一方で寛骨臼形成不全を基盤とする二次性変形性股関節症は40~50代の症例も多く,最近でも骨温存手術が適応されることは少なくありません.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたい変形性股関節症に対する骨温存手術についてご紹介させていただきます.
変形性股関節症に対する骨温存手術
変形性股関節症に対する骨温存手術には様々なものがありますが,病期によって寛骨臼形成術(棚形成術),骨盤骨切り術,大腿骨骨切り術またその併用が挙げられます.
ここでは骨温存手術として実施される機会の多い寛骨臼形成術(棚形成術),骨盤骨切り術について主にご紹介させていただきます.
寛骨臼形成術(棚形成術)
形成不全のある寛骨臼の関節包直上に自家骨を用いて屋根(shelf)を作って,関節の安定性を回復させる目的で行われる手術であす.
特に若年者の前股関節症・初期股関節症に対して行われることが多いです.
以前は直視下に腸骨外板を採取し関節包直上に自家骨移植が行われておりましたが,ここ最近は股関節鏡の進歩により,股関節鏡を用いて関節唇を修復した後に鏡視下での棚形成が行われることが多いです.
基本的には股関節外転筋に与える影響というのは少ないので,術後2~3週程度で荷重歩行が許可されることが多いです.
寛骨臼回転骨切り術
寛骨臼回転骨切り術も本邦では変形性股関節症例に対する骨温存手術として古くから行われてきた手術方法です.
わが国では大きく分けて2つの手術法が使用されてきました.
いずれも寛骨臼を球状に骨切りし大腿骨頭の被覆率を改善させ,股関節の安定性を図るといった点では基本的な考え方は同じです.
進行期の変形性股関節症に対して行われることが多いですが,前股関節症から初期股関節症進行期股関節症においても股関節外転位にて大腿骨頭と寛骨臼の適合性がよい症例に適応となります.
寛骨臼回転骨切り術にはRAO(Rotational acetabular osteotomy)とCPO(Curved Periacetabular Osteotomy)の2つの手術手技が用いられることが多いです.
理学療法・作業療法を行う上で重要なのは,RAOでは骨盤外側から骨切りが行われるため,股関節外転筋への侵襲が加わるといった点です.
それに対しCPOは骨盤内側から骨切りが行われるため,股関節外転筋に侵襲を加えることなく筋力が温存されるといった利点があります.
一方でCPOは手術進入経路の関係で大腿外側皮神経障害を伴う場合があります.
最近ではナビケーションやpatient specific guideを併用し的確な骨切りをサポートできるようになってきております.
寛骨臼回転骨切り術後の理学療法ですが,車椅子への乗車許可は術後l~2日から許可されることが多いですが,部分荷重歩行までには術後2~3週といった期間を要することが多いです.
Chiari(キアリ)骨盤骨切り術
Chiari(キアリ)骨盤骨切り術は大腿骨頭が圧壊し球形でない場合や,非常に強い臼蓋形成不全が存在する場合,また股関節外転位でなく内転位にて関節裂隙の開大がみられる症例に適応となります.
股関節直上で骨盤を横切し,遠位骨片ならびに大腿骨頭を内方化し寛骨臼荷重部の面積を増やし,骨頭へかかる合力を軽減させます.
適応は前股関節症から進行期股関節症までです.
進行期股関節症にChiari骨盤骨切り単独ではなく,大腿骨外反骨切りが併用されることも多いです.
術後理学療法の進行は比較的ゆっくりで,術後4~6週から荷重歩行練習が始まることが多いです.
今回は理学療法士・作業療法士も知っておきたい変形性股関節症に対する骨温存手術についてご紹介させていただきました.
それぞれ術式によって股関節外転筋群への侵襲や荷重歩行の開始時期が異なります.
また骨温存術後には手術をしても,再度変形性股関節症が進行する可能性が十分にあります.
股関節内転モーメントに着目し,歩容の改善を図ることが理学療法士として最も重要な視点になると思います.
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