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最近よく耳にするグロインペインとは?
最近よく耳にするのがこのグロインペインと呼ばれる病態です.
なんとなく鼠径部周囲の疼痛といった認識は皆様もなされているかと思いますが,実は病態は複雑で原因もさまざまです.
今回は理学療法士の視点でグロインペインについて考えてみたいと思います.
スポーツ動作におけるグロインペイン
グロインペインと言えばスポーツ選手が訴えることの多い症状の1つです.
スポーツに関連するグロインペインは,急なストップ動作や方向転換を要するサッカーやラグビー,ホッケーなどのアスリートでよくみられます.
グロインペインの運動学的な危険因子も検討されておりますが,関節可動域や筋力,筋活動パターンが原因と考えられております.
グロインペインの中でも多いのは長内転筋などの内転筋群の肉離れです.
内転筋群の肉離れは急な方向転換・ツイスティング・スプリント・キックを要するサッカーやホッケー,スケートのアスリートに発生することが多いです.
股関節外転位で内転筋が伸張された状態で急激に筋が短縮性活動をすると,筋腱移行部などに過度なストレスが加わり発生する機序が考えられております.
慢性的な内転筋肉離れ症状を有するアスリートでは健常アスリートと比べて,片脚立位で股関節を屈曲する課題で,長内転筋に対する中殿筋の筋放電量の比率が低いことも明らかにされており,急性グロインペインの既往を有するテニス選手の受傷側の股関節内転筋トルクと,外転筋に対する内転筋のトルク比は非受傷側のものと比べると低いことも明らかにされております.
また長内転筋の肉離れの危険因子として股関節屈曲位での内外旋可動域の制限も重要です.
股関節に構造的異常がなくとも過度な反復ストレスを受けている場合や,股関節深部筋機能の低下によって股関節が不安定になっている場合には,関節唇損傷に伴うグロインペインの発生も考えられます.
グロインペインの原因
理学療法を行う上ではまずグロインペインの原因を明らかにすることが重要となります.
グロインペインの原因としては,内転筋由来のグロインペイン,腸腰筋由来のグロインペイン,鼠径管由来のグロインペイン,恥骨由来のグロインペイン,股関節由来のグロインペイン等に分類されます.
原因によって運動療法の内容も大きく異なりますので,まずは詳細な評価を行った上でグロインペインを明らかにします.
ここでは上記のグロインペインの原因について考えてみたいと思います.
内転筋由来グロインペイン
内転筋由来のグロインペインの特徴としてはクライアントが長内転筋などの内転筋群の起始部や筋腱移行部に痛みを訴え,股関節の内転および屈曲を回避もしくは上肢で補助していることが多いといった点です.
疼痛のある側の下肢の立脚時間の短縮や外転位での荷重を回避する様子が観察される場合には内転筋由来のグロインペインが疑われます.
内転筋を直接圧迫したり,内転運動に対して抵抗を加えて内転筋群を収縮させることでの主原因が内転筋にあるかどうかを確認します.
内転に抵抗を加える場合には,疼痛を訴える場所を確認することも重要です.
抵抗を加えた場合に,内転筋ではなく鼠径部に疼痛を訴える場合には内転筋群以外の原因も考えられるので注意が必要です.
腸腰筋由来グロインペイン
クライアントが腸腰筋と思われる部位に痛みを訴え,股関節の屈曲を回避もしくは上肢で補助する様子や,腸腰筋が伸張されるような肢位を回避する様子が観察される場合には腸腰筋由来のグロインペインが疑われます.
評価としては腸腰筋を圧迫することや,腸腰筋を伸張してみて疼痛が腸腰筋に発生するかどうかを確認するとよいです.
ただ腸腰筋の触診は非常には難しいです.
スカルパ三角には腸腰筋以外の組織も重複しておりますので,この部位での圧迫テストの結果は腸腰筋以外の疼痛によるものである可能性もあります.
鼠径管由来グロインペイン
鼠径管とは下腹壁の筋腱膜層を斜めに貫通する通路で,男性では精索が女性では子宮円索が骨盤腔から陰嚢または大陰唇へと通っています.
鼠径管由来のグロインペインは,触知できるほどの明らかなヘルニアはありませんが,鼠径管後壁が損傷し,腹横筋や内腹斜筋腱と腹横筋腱の付着部が断裂することで生じます.
鼠径管部に疼痛を訴える場合や,いきみ・咳・努力性呼気を含めた腹部筋の活動を回避するような様子が確認された場合には,鼠径管由来のグロインペインが疑われます.
また腹腔内圧の上昇によって疼痛が再現されるかを確認するために腹部筋の収縮を行うと鼠径管由来のグロインペインを再現することが可能となります.
恥骨由来グロインベイン
下肢荷重位での動作時などに恥骨結合部やその周囲に放散する鋭い痛みを訴えている場合には,圧迫テストや叩打テストを用いて疼痛の主原因が恥骨部にあるかどうかを確認します.
恥骨結合部にクリック感を訴え,恥骨結節辺縁に前額面上の左右差がある場合は結合部の機能不全が疑われます.
股関節由来グロインベイン
股関節由来のグロインペインは他の原因によるものと区別がしにくく,他のタイプの原因を含めて複数存在することも少なくありません.
初期の股関節唇損傷やFAIは代表的な股関節由来のグロインペインです.
股関節屈曲・内転・内旋位で関節唇前上方部の歪みが増大しやすく,伸展・外旋位では後側部の歪みが増大しやすいといった特徴があります.
股関節由来のグロインペインが疑われる場合には,問診で疼痛の発生、経過,部位に着目し,キャッチング,ロッキング,クリッキング,弾発感の有無を確認します.
特にしゃがみこみ,股関節屈曲・内旋で痛みを自覚しやすいため,これらの動作を避ける様子があるかどうかを確認します.
また股関節屈曲・内転・内旋テスト(FADIR test)で股関節前深部の疼痛を確認すると良いです.
股関節唇損傷などの股関節由来の原因を探るためのテストは,屈曲・-外転・外旋テスト(FABER test),後方インピンジメントテストを使用して評価を行います.
今回は理学療法士の視点でグロインペインについて考えてみました.
グロインペインの原因はさまざまですので,原因によって理学療法アプローチも大きく変化します.
まずは今回ご紹介した方法で評価を行った上で原因を明確にし,アプローチを行っていくことが重要です.
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