人工膝関節全置換術(TKA)後の深部静脈血栓症(DVT)

人工膝関節全置換術
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 人工膝関節全置換術(TKA)後の深部静脈血栓症(DVT) 

人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:TKA)後早期の重篤な合併症として,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)が挙げられます.

DVTが遊離すると肺血栓塞栓症を発症する可能性が高く,TKA後にもその予防が非常に重要となります.

今回は理学療法士の視点で人工膝関節全置換術(TKA)後の深部静脈血栓症(DVT)について考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 本邦における深部静脈血栓症(DVT) 

近年では,深部静脈あるいは骨盤内静脈に発生したDVTが遊離して肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)を発症するとの考えにより,両者を合わせて静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼ばれることも多いです.

わが国では,2004年2月に「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドライン」が初めて発行されて以降,改訂が行われてきましたが,2017年に日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドラインを改訂されております.

2008年の同ガイドラインと考え方が大きく変わった点としては,予防の対象を「無症候性VTEを含むすべてのVTE」から「症候性VTE」に変更した点が挙げられます.

米国整形外科学会の2007年発刊のガイドラインでは,下肢人工関節術後「症候性PTE」を予防対象とし,2011年のガイドラインでは下肢人工関節術後「症候性VTE疾患」を予防の対象としております.

さらに米国胸部医学会(ACCP)も2012年の最新版のVTE予防ガイドラインにおいて予防の対象を「すべてのVTE」から「症候性VTE」に変更しております.

こうした流れを受けて,「日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017」においても,予防の対象を「症候性VTE」に限定している点に注意が必要です.

 

 

 

 

 Virchowの3徴候 

四肢の静脈には筋膜より浅い表在静脈と深い深部静脈があり,深部静脈において何らかの原因で血栓が生じるのが深部静脈血栓症の病態です.

静脈血栓の形成には,①静脈の内皮障害,②血液の凝固冗進,③静脈の血流停滞が関与しており,これらはVirchowの3徴候として有名です.

手術侵襲のため血液凝固能の冗進が起こり,特に下肢の手術では,直接的または間接的に静脈の内皮への損傷が加わります.

また術中・術後は血管が拡張し安静となることが多く,血液のうっ滞が起こります.

つまり,手術にはVirchowの3徴候すべてが関与していることになります.

 

 

 

 

 DVTはどこに発生しやすいのか? 

TKAの周術期におけるDVT管理の重要性はDVTに起因するPTEを予防することにあります.

PTEは死に至ることもあるため,発症させないことが重要となります.

下肢・骨盤部のDVTは,骨盤型,大腿型,下腿型に分類され,それぞれ病態が異なります.

骨盤型は血栓が末梢側に進展することや静脈壁への固着により塞栓化されにくく,大腿型では血栓が中枢側に進展しても規模が小さいことが多いため,骨盤型と大腿型ではPTEを発症することは少ないわけです.

下腿型では中枢側に進展しやすく,進展した血栓は浮遊(フリーフロート)血栓になりやすく,無症候性にDVTを形成し,膝の屈曲などでフリーフロート血栓が静脈壁から剥がれてPTEを発症することがあります

下腿型DVTとの関連においてはヒラメ筋静脈が重要であり,DVTの発生部位としてヒラメ筋静脈とその還流路である腓骨静脈,後脛骨静脈に血栓検出率が高いことが明らかにされております.

深部静脈の中でも下腿部での初発部位としては拡張しやすく血流が貯まりやすい構造を持つヒラメ筋静脈が多いとされていおります.

解剖学的にみて,大腿部静脈は下腿静脈より血栓が形成されにくく,閉塞による臨床症状が出現しやすい下腿深部静脈のうち,前脛骨静脈,後脛骨静脈腓骨静脈は足底から垂直に走る動脈に沿って並走し,これらの静脈還流は主に動脈の拍動によって行われます.

一方,筋肉内静脈である腓腹筋静脈やヒラメ筋静脈は吻合が多く必ずしも動脈と並走しないため,静脈還流は主に筋ポンプ作用と静脈弁に依存します.

長期臥床などで下腿での筋収縮が行われないと,筋ポンプ作用に依存する筋肉内静脈は還流不全を起こし,血液のうっ滞から血栓が形成されやすくなります.

特に臥床状態では還流の主となるヒラメ筋の筋ポンプ作用が十分に機能せず,ヒラメ筋静脈の静脈と静脈弁の構造と走行から血液のうっ滞による還流障害が出現しやすい特徴があります.

この解剖学的理由から,ヒラメ筋静脈は,長期臥床を契機に発症する下肢深部静脈血栓の初期発生部位となりやすいとされております.

 

 

 

 

 

 TKA後のDVT発症率 

わが国におけるDVTの発症率について44.6%といった報告や,48.6%といった報告があります.

つまり2人に1人はDVTを発症している状況であり,TKA後のDVT発症は非常に多いと考えられます.

症候性PTEについては1 .4%であったとの報告があります.

われわれ理学療法士にとって興味深いのは人工膝関節全置換術(TKA)後の関節可動域(ROM)とDVT発生との関連性も明らかにされて降り,DVT陽性群においては陰性群と比較して,術後1週目での膝関節自動屈曲角度が有意に低く,自動屈曲90°を獲得する日数についても有意に長いと報告されております.

DVT発症と関節可動域の直接的な関連は不明ですが,おそらく身体活動量や疼痛といった要因が交絡している可能性が高いと考えられます.

このようにDVTの発症がその後の理学療法の進行にも影響を及ぼすため,TKA術後のDVT発症に注意する必要があります.

 

 

 

 

 DVTの臨床症状 

DVTによる臨床症状としては,術側の疼痛,浮腫,片側性かつ急性発症した腫脹,表在静脈の怒張です.

また症状が立位や下垂位で顕著となり,挙上により速やかに改善するといった点も特徴的です.

さらにHomans徴候(足関節強制背屈により腓腹部痛を訴える:下腿三頭筋の伸張痛とは異なり激痛),およびLowenberg徴候(腓腹部の把握痛や,マンシェットによる100~150mmHg程度の加圧で瘤痛が生じる)などの他覚的所見も重要です.

一方でHomans徴候やLowenberg徴候は偽陽性が多く,特異性は低いとの報告もあります.

 

 

 

 

今回は理学療法士の視点で人工膝関節全置換術(TKA)後の深部静脈血栓症(DVT)について考えてみました.

人工膝関節全置換術(TKA)後には2人に1人がDVTを発症している状況ですので,TKA例を担当する際には常にDVTを疑う必要があります.

まずは予防が重要ですので,われわれ理学療法士の予防的な介入も重要であると考えられます.

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