さすがに筋力トレーニングで痙縮が増悪するなんて言う人もういませんよね?

運動療法・物理療法
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目次

 PNFにおける抵抗と筋力増強について 

今回もPNFに関してです.

前回はPNFの促通の要素の中の筋伸張・関節牽引・圧縮についてご紹介させていただきました.

今回は抵抗と筋力増強について理学療法士の視点で考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 PNFにおける抵抗 

抵抗もまた固有受容器を刺激して神経筋を促通するための促通の要素の1つとなります.

PNFにおける抵抗は最大抵抗が基本となります.

1940年代,PNFがKabatによって体系づけれられるまでは運動麻痺に対する治療は他動運動・自動介助運動が主流でありましたので,当時からすれば弱化した麻痺筋に対して抵抗を加えるというのは新しい発想だったわけです.

 

ここでいう最大抵抗とは患者の持つ最大能力と同等の抵抗という意味であり(最適抵抗),例えば肘関節屈筋のMMTがPoor levelの場合は,自動介助運動が最大抵抗ということになります.

MMT Fair以上のlevelで抵抗運動を行う場合,患者の運動中に振戦の現れない程度の強さを抵抗の目安とします.

後述する他肢・他関節への発散現象を期待してパターンを遂行する場合には,やや強い抵抗が必要となります.

運動パターンの方向と姿勢の組み合わせにもよりますが,多くの関節運動において可動域の中間1/3が最も強くなるように抵抗を加えるのが理想です.

 

 

 

 

 

 抵抗運動は痙縮を増悪させるか? 

PNFの抵抗勢力と言えばBobath conceptです.

最近はそんなことはありませんが,1970~80年代にBobath conceptが普及し,抵抗運動により出現する連合反応は痙縮を増悪させるため,抑制することが提唱されました.

そのためこの時期にはPNFも抵抗を弱めようといった考え方が主流となった時代があったようです.

 

しかし1990年代に入ると,抵抗運動は痙縮を増悪させるものではなく,痙縮の主な原因は拮抗筋の短縮域での運動単位の発射頻度の変調および活動する運動単位数の参加の減少によるものであることが明らかにされました.

Bobath conceptでさえ近年はweaknessには筋力強化運動が必要であることを提唱しているわけです.

 

脳血管障害の陽性兆候(連合反応・痙縮)を抑制するよりも,陰性兆候(筋出力低下)の改善を目的とした促通運動・筋力強化によりADLが向上することがSystematic Reviewでも明らかにされております.

確かに筋力強化によって一時的に連合反応が誘発されますが,それは一時的なものであり,痙縮増悪につながるものではないわけです.

理学療法ジャーナルの2010年の巻号に痙縮筋に対する筋力増強といったテーマで総説が書かれるくらいです.

脳卒中治療ガイドライン2009でも運動療法において痙縮筋の使用や反復する荷重が,筋緊張を増悪させることはなく,むしろ随意運動の回復とともに痙縮の改善が期待できるとされております.

ただいまだに養成校教育の中で抵抗運動が痙縮を増悪させるといった教育が行われている現状もあります.

 

 

 

 

 抵抗の強さ 

筋力強化運動時の抵抗(負荷)量の選択には,過負荷の原理に基づいたDeLomeによる漸増抵抗運動やHetingerによるアイソメトリックトレーニングの理論(%MVC)が参考となります.

筋力増強効果を得るには少なくとも35%MVC以上の負荷が必要となります.

 

 

PNFでは多関節・複数の筋が活動するため,非常に複雑とはなるが,最大随意収縮の1/3以上の抵抗を負荷する必要となると考えると良いでしょう.

35%MVCとは同一パターンを50-60回は繰り返すことのできる強度といううことになります.

 

 

 

 

 筋力増強とPNF 

PNFは神経筋機能の促通方法でありますが,PNFの果たすべき大きな役割は筋出力の増大です.

筋力増強・筋出力増大要因には①神経性要因・②筋肥大要因・③心理的要因の3種が存在します.

 

 

②の神経性要因である運動単位の動員・発射頻度の活性化はα運動ニューロンの機能向上に他なりません.

中枢神経障害による運動麻痺は①に相当し,意識障害などを伴っていれば①の神経性要因に機能低下が無くとも,③により筋出力低下を招くことが考えられる.

さらには①・②の不動による廃用性の筋機能低下の影響も大きいと考えられます.

運動器疾患では受傷後・術後疼痛に伴う③の影響による出力低下の影響が大きい場合が多いわけですが,疼痛・免荷・固定等による廃用性筋機能低下(①・②)の影響も大きいと考えられます.

廃用性筋機能低下は①の機能的運動単位の損失と②の解剖学的損失(いわゆる筋萎縮)に分類されますが,急性期(初期)の筋力低下に与える影響は機能的運動単位の損失の影響が大きいとされております.

PNFは1940年代にポリオ(急性脊髄前角炎)後遺症患者の筋収縮力を高めるために,生理学的理論に基づいて発展してきた治療技術であり,α運動ニューロンの機能改善(神経性因子の機能向上)を図るうえで有効であると考えられます.

つまり筋出力低下が①神経性要因が原因となって起こっている場合に有効な促通手技だといえます.

②の場合には例えば加圧トレーニングなんかが有効でしょうし,③の場合なんかはまず疼痛を除去するなどのアプローチが必要でしょう.

このようにPNFによる筋力増強にも適応があるというわけです.

 

 

参考文献

1)Ada L,Australian Journal of Physiotherapy,2006

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