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アンケート調査を使った研究のやり方は?
アンケート調査というのは昔から研究の方法として用いられることの多い手法です.
理学療法・作業療法分野でもアンケート調査を使用した研究というのは多いです,
特にクライアントの満足度を調査するような研究では,アンケート調査が必須となります.
最近は関節可動域・筋力・歩行能力といった医療者視点でのアウトカムよりも,患者立脚型のアウトカムが重要視されてきておりますので,そういった意味からするとアンケートの使用機会は増えてきていると思います.
今回はアンケート調査を使った研究の方法論について考えてみたいと思います.
測定手段に質問を用いる研究法
アンケートという言葉は,調査や質問を意味するフランス語「enquete」に由来し,英語では「questionnaire」と表現されます.
アンケート調査は,質問紙調査とほぼ同義語として用いられることが多いです.
アンケート調査は,測定手段に質問を用いる研究法であり,多くの人間の意識や認識,現在または過去の行動について情報収集したい場合に用います.
アンケートで調査できる内容は幅広く,観察因子が回答者の把握していることであればおおむね適用できます.
一方で観察因子が回答者の把握していない内容になると正確に調査することはできません.
例えばアンケート調査を使って身体活動量を調査したいとします.
この場合には身体活動量という対象者の行動が観察因子となります.
代表的な身体活動量の指標に“1日の歩数”があります.
これを指標にした場合には,アンケート調査では「1日の歩数は何歩ですか?」という質問をします.
しかし,この質問は回答者が自身の1日の歩数を把握していることが前提になり,当然のことながら1日の歩数を把握していない回答者は正確に回答することができません.
回答者が1日の歩数を把握しているのか不明確であれば,質問ではなく歩数計を用いて1日の歩数を測定するか,または身体活動量の指標で,かつ回答者が把握している質問を使用する必要があります.
例えば「週に何日外出しますか?」のような質問に変更することを検討する必要があります.
アンケート調査の種類(回答方法による分類)
アンケート調査は,質問に対する回答方法によって自由回答式質問と選択回答式質問に分類できます.
自由回答式は選択肢を設けずに回答者が自分の言葉で自由に答える方法です.
利点として,回答に制限を加えないため質問に対する回答者の意識認識を詳細に表現できることがあります.
欠点として,選択回答式に比べて回答に時間を要すこと,得られた結果の解析には質的方法が必要になり,研究者の主観的な要素が強くなりやすいことがあります.
自由同答式の例としては,「今後,ご自宅に退院するにあたって不安に感じていることをお書き下さい.」などとして,退院に対する不安を自由に記述してもらうような形式です.
選択回答式は,あらかじめ回答に選択肢を設けて,回答者に選択肢のなかから1つ,あるいは複数を選んでもらう方法です.
この選択回答式の利点は選択肢から選ぶだけなので回答が容易であること,自由回答式に比べて解析が容易であることが挙げられます.
欠点としては,回答があらかじめ設定された選択肢に限られてしまうので,必ずしも回答者独自の詳細な回答ができないことがあります.
選択回答式の例としては,「あなたは,この半年間で転んだことがありますか?」などと尋ね,転んだ・転んでいないといった2件法で回答させる方法です。
この場合には2つの選択肢から1つを選択することとなります.
選択回答式には他にも多肢選択法という方法もあります.
多くの選択肢から当てはまるものを選択する方法ですが,選択肢から1つを選ぶ単一回答と, 2つ以上選べる複数回答があります.
例えば,「外出時の主な移動手段を選んでください.(複数回答可)」等としておいて,「自家用車・自転車・バス・徒歩・タクシー・バイク・電車」の中から選択してもらいます.
選択回答式には評定法と呼ばれる方法もあります.
観察因子に対する意識,認識の程度を調査する方法です.
選択肢の数によって5件法・7件法(奇数件法)といった方法もありますし,中間にあたる“どちらともいえないを除いた4件法・6件法(偶数件法)といった方法もあります.
特に日本人は,奇数件法の場合,“どちらともいえない”に回答が集中する傾向にあり,それを避けるために偶数件法を選択することがあります.
そのほかに,疹痛の評価としてよく用いられるNRSのように0を“まったく痛みがない”, 10を“最悪の痛み”として11段階で回答する方法や,連続変数として扱うことができるVASがあります.
質問調査の方法による分類
回答者が自分で質問を読んで記入する自記式質問調査と,研究者が質問を口述して行う面接式質問調査(または他記式質問調査)に分けられます.
自記式質問調査は,質問紙の配布・回収方法によって郵送調査,留置調査,集合調査などがあります.
この利点は,面接式に比べて研究者にかかる負担が小さいこと,同じ質問紙を用いてどの回答者に対しても同じように質問できること(質問の標準化)が挙げられます.
欠点としては,回答者は質問紙に記載されている以上の情報が得られないため,質問に対する理解が不十分な場合には正確な回答が得られないことが挙げられます.
面接式質問調査には,面接の方法によって直接面接,電話面接があります.
利点は,回答者に必要な追加情報を提供できるため確実な回答が得られることがあります.
欠点は,研究者にかかる負担が大きいこと,面接の方法を統一していないと回答に影響を与えてしまうことがあります.
近年では,電子メールやインターネットを利用したアンケート調査も行われるようになっています‐
どのような臨床上の疑問に使う?
アンケート調査は,対象者自身が意識できる,あるいは把握できる内容に関する研究であれば適用できます.
臨床場面では,瘻痛や疲労,自己効力感やQOLのように主観的側面を臨床上の疑問として研究対象にすることはよくあります.
観察因子が主観的側面である場合は,むしろ質問以外での評価が困難であり,アンケート調査が特に有効になります.
また理学療法士が直接観察できない対象者の現在の行動や「入院前の運動習慣の有無」のように過去における行動を調査する場合にも有用な方法として適用できます.
アンケート用紙の郵送法や電話面接による調査を選択すれば,直接的なかかわりのない対象者でも調査が可能になり,調査対象者の幅が拡がることも利点です.
ただし,アンケート調査を適応するうえでは,対象者が質問を正確に理解し,回答できる認知機能を有していることが条件になるといった点に注意が必要です.
今回はアンケート調査を使った研究の方法論について考えてみました.
研究までいかなくても理学療法士・作業療法士もちょっとした調査にもアンケート調査を用いる機会は少なくないと思います.
アンケート調査の方法を知った上で適切な方法を選択する必要があります.
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