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高齢者を歩行分析する際には歩行リズムと環境との調和を評価すべき
われわれ理学療法士・作業療法士は高齢者の歩行分析を行う機会は少なくないと思います.
歩行分析というのは正解が無いと言われるほど、10人の理学療法士・作業療法士が歩行分析を行えば,10通りの回答が得られるほど,着目する視点が違ったりします.
本当にどこに視点を当てて分析を行うべきかが難しいです.
今回は高齢者の歩行分析について理学療法士の視点で考えてみたいと思います.
高齢者の歩行の捉えかた
高齢者の歩行障害はさまざまであり,一様に『こうなる!』という答えはありません.
高齢者の歩行様式は,筋力,関節可動域,バランス能力の低下など,さまざまな要因によって変化します.
歩行様式の変化は身体的機能低下を反映しますが,最大限の安全を得るために用心深く,もしくは抑制された歩き方とも考えられます.
これは滑りやすい路面を歩行している場合の歩き方と,高齢者の歩行が似通っているとされることにも関連しております.
一般的に歩行は,踵接地時や,つま先離地時の状態など,歩行周期の一部分を取り出して解析されることが多いのですが,歩行は心拍と同様に連続したものであり,リズムという側面も重要な指標です.
特に近年,簡便に計測できる指標として歩行の変動係数(coefficient of variation: CV)が用いられることが多いです.
これは標準偏差を平均値で除した値のことであり,例えば50歩それぞれの1歩時間をフットスイッチや加速度計を用いて計測できるCVが大きくなるほどバラツキが大きく歩行が不安定であると捉えられます.
われわれ理学療法士・作業療法士が何となく歩行が不安定だと感じる際には,この歩行のリズムが一定していない場合が多いです.
例えば脳卒中片麻痺の方で,明らかに非麻痺側へ偏位した歩容を呈しているクライアントであっても歩行リズムが一定であればあまり不安定と感じることは無いでしょう.
高齢者の歩行検査について
実生活環境では,①見晴らしがよい,②完全フラットな床面,③目的がなく歩行に集中できる,などといういわゆる単一課題下で歩行を行うのではなく,基本的には多くの課題に包囲れた歩行が求められます.
例えば,トイレに行くという日常的に行われる比較的単純と思える行動を例にあげて考えてみると,現地点からトイレヘ向かう環境は,①テーブルや椅子等の障害物,②敷居やカーペット,電気のコード等の目立ちにくい段差,③テレビやラジオなどからの音,④トイレへ行く目的など様々な環境に囲まれております.
このように多くの課題に包囲された環境下では,歩行だけ注意を向けるのではなく,その他の課題,にも注意を分散させる必要があります.
そのため歩行のみに注意を向けてもよい単一課題下での歩行能力検査よりも,副次課題にも注意を分散しなければならない二重課題下歩行検査の方が,より実生活場面での歩行を反映すると考えられます。
特にこの二重課題下での歩行検査は,転倒のリスク評価として用いられることが多く,副次課題を課された際の歩行指標が悪化しやすい高齢者ほど転倒リスクが高いことが明らかにされております.
ただし二重課題下での歩行評価に関するレビューによると,どのような対象者であっても副次課題を課すことで転倒リスク評価として有用になるわけではないことが明らかにされております.
単一課題でもパフォーマンス低下をきたしている高齢者の場合には,副次課題を課すこと無く転倒リスクの評価が可能なわけです.
一方で単一課題におけるパフォーマンスが高い症例においては,副次課題を課すことで転倒リスク評価として非常に意義があるわけです.
今回は高齢者の歩行分析について理学療法士の視点で考えてみました.
高齢者を歩行分析する際には,様々な視点があると思いますが,歩行リズムと環境との調和に着目して評価を行うのも1つの方法だと思います.
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