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腸脛靭帯をひもとく
腸脛靱帯というと大腿筋膜張筋の停止としても知られており,理学療法士に馴染み深い組織の1つだと思います.
腸脛靭帯のtihgtnessはさまざまな障害を引き起こすことが知られておりますので,われわれ理学療法士の腸脛靭帯の特性を理解しておくことが重要です.
今回は腸脛靭帯の特性について考えてみたいと思います.
腸脛靭帯と周辺組織の連結
腸脛靱帯はユニークな組織です.
腸脛靱帯は大腿部の外側で筋膜が肥厚した索状で,腱様の組織であり,腸骨稜から始まり最終的には脛骨のGerdy結節に付着します.
しかしその構造は単純ではなく,走行の過程で周囲の多くの組織と連続性をもちます.
近位部では,大腿筋膜張筋,大殿筋と中殿筋の一部から線維が合流します.
大腿部では,腸脛靱帯は外側筋間中隔を介して大腿骨に付着します.
また遠位部では外側広筋とも連続性を持ちます.
そして大腿骨外側上顎と膝蓋骨にも付着しGerdy結節に終着します.
このように腸脛靭帯は多くの筋や骨と連続性を有するため,その張力は連続する筋の収縮や伸張関節角度の変化など,実にさまざまな要因の影響を受けます.
また腸脛靱帯は股関節と膝関節とをつなぐ重要な支持組織ですが,臨床的には過剰な張力増加が問題を引き起こすことが多く,どちらかというとネガティブなイメージで捉えられることが多い組織でもあります.
学会や論文などでも「大腿筋膜張筋(腸脛靭帯)の過緊張が二次的な疼痛を引き起こす」といった表現はよくみかけます.
腸脛靭帯の張力増加による影響 腸脛靭帯炎
周囲組織の腸脛靱帯の張力増加により引き起こされる代表的な疾患は腸脛靱帯炎です.
腸脛靱帯炎は,腸脛靭帯と大腿骨外側上類との間で炎症を生じる疾患であり,スポーツ障害として特にランナーに多く発症します.腸脛靭帯炎の発症機序として,以前は膝関節の屈曲・伸展に伴う腸脛靱帯の大腿骨外側上顆の上での摩擦によって炎症が生じる機序が考えられておりました..
しかし近年では,腸脛靱帯と大腿骨外側上顆は線維により連続しており,摩擦運動は生じにくいことが指摘され,主に腸脛靱帯が大腿骨外側上顆との間にある血管や神経を含む脂肪組織を圧迫することで,炎症が生じるものと考えられるようになってきております.
またスポーツ障害としてだけではなく,内反変形を呈する変形性膝関節症患者においても, 74.2%の患者において腸脛靱帯炎を示唆する兆候がMRIにて確認されたと報告されております.
これは膝関節の内反変形により外側にある腸脛靱帯が伸張され,大腿骨外側上顆との間での強い圧迫が強いられることが発症の原因と考えられます.
このように,腸脛靭帯の張力が増加すると腸脛靱帯炎を生じやすくなりますが,それ以外にも,腸脛靱帯の張力の変化がそれと付着する脛骨や膝蓋骨の運動にも影響を与えることが確認されております.
腸脛靭帯の張力増加による影響 脛骨変位
遺体を用いて腸脛靱帯に加わる張力を変化させ,大腿骨に対する脛骨および膝蓋骨の変位を詳細に調べた報告によると,脛骨については腸脛靱帯の張力増加により外旋および外反が生じ,その変化量は外反よりも外旋で大きい傾向にあったとされております.
腸脛靭帯の張力変化は,特に脛骨の回旋変位への影響が大きく,脛骨を大きく外旋させてしまうわけです.
さらに脛骨の前後方向の変位に対する影響としては,腸脛靱帯の張力増加により脛骨の後方変位が増加することが明らかにされております.
この脛骨の後方変位は,ハムストリングスの張力を増加させた時よりも,腸脛靱帯の張力を変化させた時のほうがより大きくこの腸脛靱帯の張力により脛骨を後方へと変位きせる力は,前十字靱帯の役割を補助する役割を持ちます.
したがってハムストリングスと同様に腸脛靭帯と前十字靱帯とは機能的に協調関係にあるとも考えられております.
実際,前十字靱帯損傷を経験したことがある人は,経験していない人に比べて腸脛靱帯の緊張が高くなっているという報告もあります.
腸脛靭帯の張力増加による影響 膝蓋骨変位
一方で膝蓋骨への影響については,腸脛靭帯の張力増加により膝蓋骨の外側への変位が大きくなると報告されております.
また外側変位のみならず,腸脛靱帯の張力増加によって,膝蓋骨の外側傾斜・外旋が増加することが明らかにされております.
膝蓋骨の側方安定性についても腸脛靭帯の張力が増すと膝蓋骨を外側へと逸脱させるために必要な力が減少する,つまり,外側への安定性が低下することとなります.
このように腸脛靱帯の張力変化は膝蓋骨の挙動にまで影響を及ぼす可能性があります.
そのため脛骨大腿関節あるいは膝蓋大腿関節の障害を有するクライアントにおいては,腸脛靭帯の張力異常に着目して理学療法を行う必要があります.
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