昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
平成30年10月20-21日に福岡県で第5回日本予防理学療法士学会が開催されました.
今回はこの第5回日本予防理学療法士学会の一般演題の中から運動継続のための工夫に関連する面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
目次
予防のためのウォーキングを推進するための工夫は?
生活習慣病予防にしても,転倒予防にしても運動の有効性は既に多くの科学的な裏付けがあるわけですが,一番の問題は運動を継続できないといった点です.
私自身は昔から運動を永久的に継続できるような方法論を考えれば,ノーベル賞ものだと思っております.
今回ご紹介いたします研究では,運動の中でも実施率の高いウォーキングを推進するための工夫について報告しております.
スポーツ庁は,「スポーツの実施状況に関する2017 年度の調査結果」で,週1 回以上運動・スポーツをする成人の割合を51.1% としてなっております.これを高いと考えるか低いと考えるかはさまざまですが,個人的にはあまり高い結果とはいえないと考えております.
運動に取り組んでいる人の中でも最も実施頻度が高いのがウォーキングです.
ウォーキングは特に場所や道具を選ぶことなく実施が可能なことから,生活習慣病の予防や介護予防の視点からも全世代が歩行に親しむことが推奨されます.
一方で,成人男性の平均歩数は約7,000歩,女性は約6,000歩となっております(平成28 年国民健康・栄養調査).
この研究では,大学生がどの程度歩行しているかを調査し,予防のためにウォーキングを習慣化する方法について考察されております.
対象は2013 年からの5 年間で、ある大学の教養教育科目「健康スポーツ科」を受講した1年生,480 名となっております.
講義開始時に全員に歩数計を配布し,約2~4か月間の歩行数を記録しております.
講義の実施前後の歩数,終了後6 か月後の継続率等を調査,比較しております.
講義開始時の平均歩行数は男性で3,900歩,女性で3,300歩であり,2 か月後の講義終了時は男性で7,800歩,女性で6,400 歩となっております.
この研究における授業では,「健康スポーツ科学」の講義で,ウォーキングが健康増進や疾病予防に大きな役割を果たすことを伝えている点も非常に大きいと思います.
このような情報提供だけでも,歩数が2 倍近く増加することが明らかになっているわけですが,講義の終了後には徐々に歩行数が減少し,6 か月後に歩行を意識していたのはわずかであり,やはり「ウォーキング愛好者」への行動変容を定着・継続させるには,こういった情報提供だけでは不十分であると考えられます.
1 歩歩くによる医療費低減効果は0.061 円と計算されておりますが,歩行数を増加させるためには,予防の教育に加えて,インセンティブやリワードといった利益を伴う政策が必要なのかもしれないと結論付けられております.
最近は市町村によっても身体活動量を増やすと,市町村内で使用できる商品券や割引券が付与されるといったところもあります.
当然ながら個人の性格や趣味・嗜好によっても行動変容を引き起こす鍵になる方策が異なると思われますので,なかなかこのあたりは難しいですね.
オーダーメード型運動処方は運動習慣のない高齢者を行動変容させるか
転倒予防にしても生活習慣予防にしても,理学療法士が予防事業にかかわる際には集団に対してポピュレーションアプローチを行うことが多いと思います.
もちろんポピュレーションアプローチにはポピュレーションアプローチの良さがあるわけですが,対象者の運動機能に個別性があることを考えると個別にオーダーメイドで運動指導を行うことが重要であると考えられます.
この研究では,オーダーメード型運動処方プログラムが既存のパンフレットによる運動処方と比較し,運動習慣のない高齢者の運動に対する行動変容に有効かどうかを,ランダム化比較試験を使用して検討を行っております.
対象は市町村が実施する特定健診および後期高齢者健診を受診したもののうち,研究に参加同意した運動習慣のない50名(男性:30 名・女性20 名,平均年齢:69.0 ± 2.5 歳)となっております.
オーダーメード型運動処方群(介入群)と既存のパンフレット群(対照群)にランダム割付を行い,介入群には研究者らが開発したオーダーメード型運動処方プログラムによる運動指導を行い,対照群は一般的なスクワット・片足立ちからなる運動指導を実施しております.
運動処方時,運動処方後3か月に,運動に対する自己効力感および行動変容段階,運動実施率,ロコモ5,膝と腰の痛みを評価しております.
結果ですが介入群は26 名,対照群は24 名を比較した結果,運動処方時の各変数の群間比較において有意な差を認めておらず,ベースラインは介入群・対照群で同党であったと考えられます.
3 か月時点の評価では,群間比較において有意な差を認める変数はなく,群内比較において介入群は運動処方時に比べ行動変容段階が有意に向上し,対照群は運動処方時に比べ膝痛が有意に増悪しております.
この研究ではオーダーメイドでの運動処方とパンフレットによる運動処方の違いによる介入効果の差はみられておりませんが,オーダーメード型運動処方プログラムでは3 か月時点で有意に行動変容段階が向上し,膝や腰の痛みの悪化がみられなかったことから,個人の体力や痛みの度合いを考慮した運動プログラムが,運動習慣のない地域在住高齢者の運動習慣を改善させる可能性が示唆されます.
この研究から可能であればオーダーメイドで個別性に応じて運動指導を行った方が良いということがわかります.
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