股関節疾患に関連する最新理学療法研究紹介

人工股関節全置換術
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昨年まで行われた日本理学療法士学会が,今年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.

平成30年12月15-16日に福岡県で第6回日本運動器理学療法士学会が開催されます.

今回はこの第6回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から股関節関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.

 

目次

 小殿筋の組織弾性が股可動域に与える影響について 

小殿筋は股関節の関節包に付着しており,股関節を求心位に保つ役割があるとされております.

そのため、股関節疾患を有するクライアントでは,小殿筋の筋攣縮を招き股関節の可動域制限に繋がることを経験します.

この研究では小殿筋の組織弾性と股関節可動域との関連性について検討がなされております.

対象は股関節に既往のない成人男性 12 名 24 股となっております.

組織弾性の測定には超音波画像診断装置(日立製作所製 noblus)の Realtime Tissue Elastography 機能が使用されております.

結果ですが小殿筋の組織弾性と有意な関連を認めたのは,外旋中間位内旋パトリックテスト肢位での脛骨粗面と床面の距離(KFD)となっております.

つまり股関節の外旋,中間位内旋および開排動作に制限を有するクライアントでは,小殿筋の柔軟性が不十分である可能性があります.

人工股関節全置換術例や大腿骨近位部骨折例においては開排動作時に殿部外側に疼痛を訴えられる症例が少なくありませんが,この研究結果から考えると,こういった症例は小殿筋の柔軟性を改善させることが必要であると考えられます.

 

 

 

 股外転運動の速度変化の違いと中殿筋速筋線維の発火頻度量との関係性 

中殿筋は股関節外転筋として周知されておりますが,基本動作や日常生活動作時の骨盤安定性に重要な役割を果たします.

特に股関節術後患者では中殿筋速筋線維の顕著な萎縮が認められ,中殿筋の質的機能向上の必要性が報告されておりますが,中殿筋速筋線維に対する治療に関しては報告は多くありません.

特に歩行のような瞬間的な収縮を要する動作では,中殿筋の速筋線維を選択的に収縮させなければ,跛行の改善が得られにくいわけですが,この研究では股関節外転運動速度を変化させることが,中殿筋速筋線維に対する質的トレーニングとなり得るかを表面筋電図を用いて検証しております.

対象は整形外科学的疾患及び神経学的疾患の既往歴を有さない健常男性 30 例となっております.

中殿筋速筋線維の発火頻度量については,wavelet 変換を用いて表面筋電図周波数解析 (EMG マスター小沢医科器械 ) にて測定が行われております.

結果ですが股関節外転運動速度を速めるような運動で,中殿筋速筋線維の発火頻度量の増大へ寄与することが示唆されております.さらに中殿筋速筋線維の発火頻度量遠心性収縮にて高い値を示しております.

この結果から考えると中殿筋の速筋線維を選択的に収縮させるには,運動速度の速い運動と,遠心性収縮を伴う運動を行うことが重要であると考えられます.

 

 

 

 変形性股関節症患者における骨頭上方移動率と股関節可動域の関係 

変形性股関節症例を対象に理学療法を行う場合には,X 線学的な指標から非常に多くの情報を得ることができます.

本邦における変形性股関節症は,寛骨臼形成不全を基盤とする二次性変形性股関節症例が多く,大腿骨頭が外上方へ偏位する症例が少なくありません.

一方で変形性股関節症例の中には中心性脱臼と呼ばれるような関節窩へ向けて大腿骨頭が圧潰していくような変形の経過をたどる症例もあります.

この研究では大腿骨頭の上方移動量と股関節可動域との関連性を検討しております.

対象は変形性股関節症例38 例 44 股となっております.

股関節正面 X 線画像より上方移動率,Sharp 角,CE 角を測定し,上方移動率については高位脱臼の分類であるCrowe 分類を参考に,両側の涙痕底を結んだ線を基線とし,患側の内側の骨頭頚部移行部までの距離を対側の骨頭直径 ( 骨頭直径が測定困難な場合は腸骨上縁から坐骨結節下縁までの長軸の長さの 5 分の1) で除した値× 100 としております.

重回帰分析の結果,股関節屈曲・伸展・外旋可動域と上方移動率とに有意な関連が認められ,寛骨臼形成不全の指標となるSharp角やCE角とは関連を認めなかったと報告されております.

臨床上は大腿骨頭の外上方偏位が大きい場合には,関節可動域制限が大きいといった印象がありましたが,この研究によって大腿骨頭の上方移動率と股関節可動域との関連性が明らかとなりました.

大腿骨頭の上方移動は付着する軟部組織の伸張性,緊張の変化,大腿骨頭と寛骨臼との構造破綻による骨性の可動性・求心性低下を招き,股関節可動域制限を引き起こすものと考えられます.

一方でSharp 角・CE 角は寛骨臼蓋形成不全を示す指標であり,前期・初期の変形性股関節症例においては,寛骨臼形成不全が高度であっても,大腿骨頭の上方移動は軽度な症例もあり,こういった症例の場合には,可動域制限は少ないということになると思います.

考えてみれば当たり前ですがこういった内容をきちんとデータにするというのが素晴らしいですね.

 

 

 

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