運動器疾患のリハビリテーションにおいては,理学療法士・作業療法士が術前から介入することが当たり前になってきておりますが,そもそも術前リハビリテーションというのはどのような目的で行われるものなのでしょうか?私自身は急性外傷と慢性疾病では,術前リハビリテーションの目的や意義が異なると考えております.また最近では消化器外科の術前リハビリテーションというのも積極的に行われるようになってきております.今回は改めて理学療法士・作業療法士が行う術前リハビリテーションの意義について考えてみたいと思います.
臨床の「なぜ? どうして?」がわかる病態からみた理学療法 外科編 [ 高橋仁美 ]
目次
急性外傷における術前リハビリテーションの意義
急性外傷疾患の中でわれわれ理学療法士・作業療法士が介入することの多い疾患として大腿骨近位部骨折が挙げられます.大腿骨近位部骨折は手術の緊急性で言えば準緊急として扱っている医療機関がほとんどだと思いますので,入院当日に手術がなされることは少ないのが現状だと思います.日本整形外科学会による調査でも術前待機期間は3日程度とされております.この間に整形外科医師から術前リハビリテーションの指示が出されるわけです.ごく一部の病院では廃用症候群の予防を目的として,術前期間から坐位練習まで実施する医療機関もあるようですが,一般的には術前はベッド上安静ということがほとんどだと思います(体動に伴う骨折の転位を防ぐため).われわれ理学療法士の役割としては,体幹・健側の下肢の筋力低下・関節拘縮の予防,肺合併症の予防,深部静脈血栓症等の予防を目的として介入を行うことが多いと思います.私自身は術前リハビリテーションの目的というのは,ここに挙げた廃用症候群の予防よりも,クライアントとの顔合わせての意味が最も大きいと考えております.近年は術翌日から離床を図ることがほとんどです.術直後というのは疼痛もかなり強いので,初対面で離床しましょうと言われたってなかなか受けいれてくださらない高齢者も多いわけです.術前からある程度の信頼関係を築き,術後のリハビリテーションがどのような流れで進んでいくかを説明しておけば,術後のリハビリテーションも円滑に進むでしょう.急性外傷における術前リハビリテーションの一番の目的はクライアントと信頼関係を築くことであると認識する必要があるでしょう.
慢性疾病における術前リハビリテーションの意義
慢性疾病の代表的な疾患としては変形性膝関節症における人工膝関節全置換術前のリハビリテーションが挙げられます.人工膝関節全置換術例の術前リハビリテーションに関しては,介入期間は医療機関によってさまざまです.術前日のみの介入といったケースもあるでしょうし,保存療法から手術療法への移行であれば数週から数ヵ月の間,術前に介入するケースもあるでしょう.人工膝関節全置換術後の成績を決定する要因としては,術前機能が最も重要であることは周知の事実であり,術前に可能な限り運動機能を向上させておくことが重要です.病態によっては術前に関節拘縮を十分に改善させてからでなければ手術が行えないといった場合もあるでしょう.さらに慢性疾患の場合には,術後に使用することが予測される歩行補助具を術前の段階で使用して慣れておくといった介入も有効です.
慢性疾患の場合にはわれわれ理学療法士・作業療法士が術前の状態を把握できるといった利点もあります.術後に可動域や歩容に問題があった場合にも,術前の状況を知っている場合と知らない場合では,臨床推論も大きく変わります.歩容一つを考えても術前からの歩行パターンなのか,術後に新たに出現した歩行パターンなのかで,当然ながら介入方法も変わるわけです.したがって術前の機能改善を図るといった目的はもちろんですが,術前の状況を把握しておくといった点で,術前から介入するというのは非常に重要だと思います.
クリニカルリーズニングで運動器の理学療法に強くなる! [ 相澤 純也 ]
今回は理学療法士・作業療法士による術前リハビリテーションの意義について考えてみました.ほとんどのクライアントが手術を前に非常に大きな不安を抱えています.術後のリハビリテーションの流れについて丁寧に説明し,クライアントを少しでも安心させてあげることも,われわれ理学療法士・作業療法士の重要な役割の1つだと思います.
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