継ぎ足歩行を使った動的バランステスト

介護予防
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介護予防事業等でわれわれ理学療法士・作業療法士が対象者のクライアントの動的バランスを評価する機会は少なくありません.

2018年の理学療法学に継ぎ足歩行を使った新しい動的バランステストが紹介されておりましたので,今回はこの論文(下井俊典: 継ぎ足歩行テストの構成概念妥当性. 理学療法学45: 143-149,2018)継ぎ足歩行テストについてご紹介したいと思います.

 

 

高齢者の健康増進・介護予防のための運動療法〜歩行能力の維持と向上をめざして〜[理学療法 ME87-S 全1巻]

目次

 動的バランス評価としてのTUG 

動的バランス評価の代表格といえば,Timed up & Go test(TUG)が挙げられますが,TUGは元気高齢者の評価には不適であることは以前の記事でもご紹介いたしました.元気な高齢者にTUGを実施するとほとんどの対象者が4~5秒でテストを遂行してしまいます.

介護予防事業を始めとしてわれわれがクライアントの運動機能を評価する目的として,運動介入による効果を検証するといった点が挙げられますが,元気高齢者を対象にTUGをアウトカムとして評価を行った場合には,はじめからTUGが4~5秒なのですから,そこから何かしらの運動介入をしてもTUGが2秒とか3秒になるはずもなく,介入によってそれ以上変化が起こることは少ないわけです.

これは尺度の特性によるものですが,天井効果と呼ばれます.

特に介護予防事業では対象者の自己効力感を高めるためにも,運動介入によってアウトカムを改善させ,その結果をフィードバックすることが重要となります.

つまり使用するアウトカムについても運動介入によって変化が得られるものを選択する必要があるわけです.

 

 

 

 

 

 

 継ぎ足歩行を使った動的バランス評価 

継ぎ足歩行というのは古くから失調症例のバランス評価等に用いられてきたわけですが,これまで用いられてきた継ぎ足歩行テストの評価方法や大きく分類すると3種類に分類することができます.

 

 

①正確に継ぎ足歩行ができる歩数を計測する
この方法では正確に継ぎ足歩行ができる歩数,すなわちミス・ステップするまでの歩数を評価します.

 

②一定距離を継ぎ足歩行した際のミス・ステップ数を測定する
①と類似した方法ですが,距離が設定されているといった点が大きな違いです.

 

③一定距離の継ぎ足歩行の所要時間を評価する
所要時間を評価しますが,この方法ではミス・ステップが考慮されません.

 

このように継ぎ足歩行の評価方法には3種類の方法があるわけですが,単純に考えて,ゆっくりと課題を行えばミス・ステップは少なくなるわけですが,課題遂行時間を速くするとミス・ステップは多くなります.

つまり①・②の方法と③の方法は所要時間と正確性という相反する課題であるとも考えられます.

今回ご紹介する論文ではこの相反する2つの課題を同時に測定する評価法の構成概念妥当性について検討がなされております.

 

 

 

 

 

 

 TGTとTGI 

この論文では継ぎ足歩行テストの方法が詳細に紹介されております.

継ぎ足歩行は床面に引いた長さ5m,幅50mmのテープの上を踵の低い靴か素足で一側のつま先に対側のかかとを接触させながら歩行させ,つま先と踵を接触させながらテープ上から足部が逸脱しないように可能な限り速く歩くように対象者に指示します.

この際の時間を計測したものがTGT(Tandem gait time)となります.

さらに足部を完全に直線上に接地できない場合をミス・ステップと定義し,TGTにミス・ステップ数を2倍したものを加えると,TGIが算出できます.

 

すなわち

TGI=TGT(sec)+ミス・ステップ数×2

というわけです.

 

 

 

 

 

 

 TGIのカットオフ値・標準値 

この研究では232名の地域在住高齢者を対象とした前向き調査によって,弁別妥当性・予測妥当性が検討されており,高い妥当性が明らかにされております.

さらにTGIのカットオフ値も明らかにされております.

TGIのカットオフ値は24.0とされており,転倒群におけるTGIは26.3±11.8,非転倒群におけるTGIは21.2±6.6であったと報告されております.

非転倒群における平均値と標準偏差から考えると,TGIが14.6未満であれば動的バランスは非常に良好,14.6~21.2であれば良好,21.2~24.0未満であれば普通,24.0~27.8であれば不良,27.8以上であれば非常に不良と考えることができるでしょう.

 

 

 

 

 

 

TGIの有用性

TGIは短時間で簡易に測定でき,特別な道具が不要であり,さらに5mの空間があれば評価が可能であることから,特に運動機能の高い高齢者を対象とした動的バランス評価方法として非常に有用であると考えられます.

さらにこのテストの良いところは,テストとトレーニングに一貫性があり,高齢者にも非常にわかりやすいといった点が挙げられます.

今後,理学療法士が介入する地域の通いの場においても,このTGIを使用して動的バランス評価を行う機会が増えるでしょうね.

 

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参考文献
1)下井俊典: 継ぎ足歩行テストの構成概念妥当性. 理学療法学45: 143-149,2018
2)Liu C-S, et al: Clinical and molecular events in patients with Machado-Joseph disease under lamotrigine therapy. Acta Neurol Scand 111:385-290, 2005

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