お金をかけずに転倒予防のための環境整備を行う方法

介護予防
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理学療法士の視点からは転倒予防というと運動指導を行ってといったところに目が向けられがちですが,転倒を予防するためには環境を整備することも非常に重要です.実際に臨床でも在宅復帰にあたり,退院前訪問指導を行うなどして転倒予防を目的として住宅環境整備を図る場合も少なくありません.実際に住宅改修を進める場合には高額な費用が必要となる場合も少なくありませんで,われわれの立場としても闇雲に住宅改修を進めるわけにもいきません.今回はそういった面もふまえて,転倒予防のためにどういった視点で環境整備を行うべきかといった点について考えてみたいと思います.

エピソードで学ぶ転倒予防78 医療・介護・在宅でのコモンプロブレムへの介入 [ 山田実 ]

目次

 改修の前にまずは整理整頓 

住宅改修の様な大がかりな整備をする前に,まずは整理整頓をすることを指導しましょう.特に高齢者の多くは十分に整理整頓がなされていない環境に居住している場合が多く,中でも床面にさまざまな物が散乱しているケースが少なくありません.特に和式スタイルの生活をされている高齢者の多くは,利便性から床の上に生活用品を置いて生活されている場合が多いわけです.床面で新聞を読んだり,お茶を飲んだり,お菓子を広げたりといた生活は想像しやすいと思います.床面におかれているものの中で多いものとしては,リモコン,ティッシュの箱,読みかけの新聞,脱いだ服などの生活用品が挙げられます.当然ながら,このような環境下では,通常よりも多くの注意を足元に払いながらの移動を要求されるため,移動能力が低下した高齢者にとっては非常に転倒危険の高い状況であると考えられます.さらにこのような環境下では床面にあるものを踏んで滑って転倒する危険性というのも高いので,常日頃から床面にあまり物を置かないよう,整理整頓を適切に行うよう指導することが重要となります.指導に当たってはご本人はもちろんご家族にも整理整頓の必要性を理解していただくことが重要です.

 

 危険箇所へのマーキング 

危険箇所に対してはマーキングを行い,注意喚起を促す方策も有用です.転倒の多くは,軽微な段差(敷居,カーペットの縁,電気コードなど)に足部が接触してつまずくことがきっかけとなっております.そしてその多くは標的となる障害物を十分に認識できていないことが原因となっており,障害物の認識が可能になれば防げる転倒は多いと考えられます.このような場合に転倒の原因となる障害物にマーキングを行い,高齢者が障害物に対して注意喚起しやすい状況をつくることも有用です.「足元注意!」といった張り紙の掲示や,市販の蛍光テープを活用し,薄暗い状況でも適切に注意が向けられるようにマーキングしておく方法が重要です.

 

 福祉用具での対応も考慮する 

環境整備を行う際には第1に改修を考えるのではなく,福祉用具の貸与によって環境整備を行えないかといった視点も重要です.住宅改修を行ってしまいますと,なかなか元に戻すことは難しいわけですので,福祉用具の貸与によって環境整備を行う方法も有用です.特に最近は便利な据え置き式の手すりが多く販売されておりますので,こういった商品の知識を持っておくことも専門職として重要だと思います.

高齢者介護予防のための多角的アプローチ〜要介護リスクを減少させる「フレイル・サルコペニア・転倒」への介入〜[理学療法 ME176-S 全3巻]

 トレーニングよりも先に住環境整備の指導を 

上述したような住環境整備の指導は,転倒予防トレーニングに先行してもしくは並行して実施されるべきです.実際に転倒予防のためにトレーニングを開始しても,機能向上が得られるためには時間を要します.せっかく転倒予防に向けてトレーニングに励んでいるにもかかわらず,機能が向上する前に自宅で転倒されてしまう可能性も0ではありません.今回ご紹介した整理整頓や適切なマーキングといった方法は,お金をかけること無く簡単に実施することが可能です.また私の印象としては,われわれ理学療法士が介護予防事業の場でこういった環境整備の重要性を伝えてあげれば,住民の方も環境整備に取り組んでくださることも多いです.高齢者の転倒を予防することは決して簡単な課題ではりません.実際には住環境整備を行ったとしても転倒の発生を0にすることはできません.発生率を数%低減させるに過ぎないわけですが,このような介入を実施が,将来的なな転倒の予防につながり,健康寿命の延伸に寄与することができれば,大きな貢献であると考えられます.

 

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