変形性膝関節症例の理学療法を行う上で,歩行の評価は欠かすことのできない評価の1つです.変形性膝関節症例の歩容の特徴として,foot flat contact,stiff knee gait,立脚期におけるLateral thrust,Duchenne兆候などが挙げられます.これらの歩容のうちDuchenne跛行は膝関節内反モーメントを減じるための代償的な戦略でもありますので,歩容を修正することが変形性膝関節症による症状の増悪につながる危険性もあります.歩容の修正に当たっては異常歩行の原因を考えた上で対処する必要があります.今回は変形性膝関節症例における歩容の特徴について考えてみたいと思います.
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目次
Foot flat contact
変形性膝関節症例の歩行の特徴として初期接地期にHeel contactが出現せず,足底面全面で接地する症例が少なくありません(foot flat contact).
多くは膝関節伸展可動域制限に起因することが多いのですが,Knee spine syndromeに代表されるような脊椎の屈曲し性が原因で膝関節が屈曲し,初期接地時にもHeel contactが出現しないといった症例も少なくありません.Foot flat contactは遊脚期におけるfoot clearanceを低下させるためつまづきによる転倒を引き起こす可能性もあります.膝関節伸展可動域制限がfoot flat contactの原因になっている場合には,膝関節伸展可動域を拡大させることが肝要です.膝関節伸展可動域運動に当たっては以前の記事でご紹介したように,膝関節伸展可動域制限の原因を考えた上で,可動域改善を図ることが重要となります.また膝関節伸展可動域制限が無いにもかかわらず立位・歩行時に膝関節が屈曲してしまう症例に関しては,脊椎の屈曲姿勢を改善することが,Foot flat contactにつながります.
Stiff knee gait
Stiff knee gaitについては以前の記事でもご紹介いたしました.
正常歩行では膝関節は初期接地で完全伸展し,荷重応答期~立脚中期にかけて20°屈曲し,立脚終期~遊脚初期にかけて最大屈曲(60°)します.これをdouble knee actionと呼びますが,このdouble knee actionによってfoot clearanceが確保されるとともに,膝関節に加わる衝撃を吸収することが可能となります.Stiff knee gaitを呈した変形性膝関節症例では歩行周期を通じて,膝関節が軽度屈曲位となっている,すなわちstiff knee gaitを呈していしている症例が少なくありません.Stiff knee gaitは,荷重位での膝関節屈伸運動に伴う疼痛を回避するための代償的パターンとして出現することが多く,また広筋群の機能低下に伴う大腿直筋の過活動もまたstiff knee gaitの一因となります.Stiff knee gaitを改善させる方法については以前の記事でもご紹介いたしましたが,大腿直筋の過活動を改善させるとともに,前足部での荷重機能を向上させfore foot rockerの機能を向上させることが重要となります.さらに変形性膝関節症例は膝関節の不安定性を膝関節周囲筋の共同収縮を用いて代償している場合も少なくありません.こういった膝関節周囲筋の共同収縮は当然ながら歩行中の膝関節屈曲角度を狭小化し,stiff knee gaitを引き起こしてしまうことになります.
Lateral thrust
Lateral Thrustというのは初期接地期~荷重応答期において膝関節が外側へ動揺(脛骨が内反・外旋)する現象を呼びます.
Lateral thrustは変形性膝関節症発症の原因・結果ともに関与が認められることから,lateral thrustの改善は変形性膝関節症の進行予防に重要であると考えられております..また立脚期にlateral thrustが出現している状況というのは,立脚期における支持性を大腿筋膜張筋・腸脛靭帯の受動的支持組織に依存した状態となりますので,大腿外側軟部組織のtightnessの原因にもなります.Lateral thrustを制御するためには隣接関節である股関節および足部の使い方が重要となります.膝関節周囲には膝関節の内外反方向の力を制御する筋は存在しませんので,股関節・足部周囲筋の筋活動を変化させることで,lateral thrustの軽減を図る方法が有効です.
Duchenne兆候
Duchenne徴候というのは立脚期に立脚側へ頭部・体幹を傾斜させながら歩行するパターンを指します.
通常は股関節外転筋力低下に対する代償的な動作戦略としてこのDuchenne兆候が出現することが多いのですが,このDuchenne兆候は膝関節疾患にも頻繁に見られる歩行パターンとなります.変形性膝関節症例の歩行では初期接地期~立脚中期にかけて,体幹を罹患側へ傾斜させることで膝関節内反モーメントを軽減させている場合が少なくありません(Duchenne兆候).つまり変形性膝関節症例におけるDuchenne兆候は股関節外転筋力低下による跛行ではなく,膝関節内反モーメントを軽減するための代償的戦略であることを認識しておく必要があります.したがってDuchenne兆候を安易に修正すると膝関節内反モーメントが増大し,変形性膝関節症を増悪させてしまう可能性があることを知っておく必要があります.
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今回は変形性膝関節症例における歩行の特徴についてご紹介いたしました.変形性膝関節症に限ったことではありませんが,異常歩行が起こる機序を考えた上で対処することが重要ですので,異常歩行が起こる機序を知っておくことが重要です.
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