1年目の理学療法士が入職して半年が経過したころに,ぎっくり腰で仕事を休む.
こんなケースって少なくないと思います.理学療法士・作業療法士というのは解剖学や運動学を学び,腰部に負担を少なくするためにはどういった体の使い方をすればよいのかを知っているはずですが,にも関わらず理学療法士・作業療法士をはじめとするリハビリテーション専門職の腰痛の有訴症率は非常に高いことが明らかにされております.
今回はリハビリテーション専門職における腰痛について考えてみたいと思います.
目次
理学療法士・作業療法士の腰痛
理学療法士や作業療法士に限らず,勤労者を対象とした痛みに関する調査では,腰痛の有訴症率は非常に高く社会問題化されてきました.
われわれ理学療法士や作業療法士も,クライアントの移乗介助や長時間にわたる中腰姿勢など腰部にストレスのかかる動作を行う機会も頻繁にあり,腰痛有訴症率も非常に高い集団です.
ある調査によると理学療法士の8割以上が腰痛を経験しており,その多くは就職後1年以内で発症し,その7割以上が理学療法業務との関連性を感じていたと報告されております.
理学療法士や作業療法士に限らず,保健衛生業における腰痛有訴症率は非常に高く,看護師・介護福祉士等の他職種においても腰痛を有しながら仕事をされている方は少なくありません.
理学療法士・作業療法士の腰痛対策
腰痛対策としては様々な方策が考えられると思いますが,作業管理・作業環境管理・健康管理・労働衛生教育が腰痛予防には重要だとされております.
作業管理
作業管理というのは実際の仕事の際の姿勢や動作を分析して,腰痛を発症するような姿勢・動作の改善を図るといったものです.
理学療法士・作業療法士というのは解剖学や運動学を学び,腰部に負担を少なくするためにはどういった体の使い方をすればよいのかを知っているはずですが,実際にはそういった姿勢・動作ができていないことが多いわけです.
作業管理においては,腰痛発症の原因となりやすい移乗動作やベッド上での体位変換動作の際に腰部に負担のかかる動作が起こっていないかどうかを,第3者に評価してもらうことが重要です.自身では気付かない姿勢・動作の特性を客観的に分析し,改善を図ることが重要です.
私の施設では新人教育の過程でプリセプターがプリセプティの理学療法・作業療法を見学する時間が設けられておりますが,こういった際に新人の姿勢・動作に関して腰部に負担がかからない姿勢・動作指導を行っております.
腰痛発生の原因となる動作としてはこれまで移乗動作やベッド上での体位変換動作が挙げられておりましたが,ここ最近では脳卒中症例に行うことの多い長下肢装具歩行の介助動作も腰痛発症の原因になりやすい動作だと思います.
長下肢装具歩行の介助においても,腰椎を伸展位で保持して介助支援ができているかどうかを第3者に評価してもらうことが重要です.
作業環境管理
作業環境管理の一環として,福祉用具の充実が挙げられます.
電動ベッド,リフトや移乗用のスライディングボードなど動作介助を支援するような福祉用具が備わっているかどうかも重要な点です.
一方で福祉用具が備わっているにもかかわらず,実際には福祉用具の使用頻度が低かったりもしますので,腰痛を予防するためにはこういった福祉機器を積極的に活用していくことが重要となります.
健康管理
最近の研究では,仕事に対する満足度やストレスが腰痛発生と関連しているといった報告も多く,こういった視点から職場環境を整備していくことも非常に重要です.
働く身としてはストレスを発散できる趣味を持つなど,自己にてストレスマネジメントを行うことも長く仕事を続けていく上では重要だと思います.また健康管理という面から考えると始業前に体操を行う等の取り組みも有効のようです.
労働衛生教育
組織としては教育の部分が非常に重要です.
施設における新人教育課程の中には,必ず腰痛予防に着目した姿勢や動作の指導が含まれるべきです.また入職前より椎間板ヘルニアの既往があったり,腰痛が出現しやすいような場合には,予防的にコルセットを使用することも勧められます.
コルセットをしてしまうと体幹筋群の筋力低下が起こるといった誤った考え方がありますが,新人のうちにコルセットを使用して腰椎を伸展した状況で股関節や膝関節を使って身体を動かす方法を学習できれば,その後の腰痛発生を予防することができると思います.
今回は理学療法士・作業療法士をはじめとするリハビリテーション専門職における腰痛について考えてみました.
せっかく3~4年間養成校で勉強して,高い学費を支払って理学療法士・作業療法士資格を取得したのに,腰痛で1年しか勤務できませんでしたということでは何のために資格を取得したのかといった話になってしまいます.
私がいつも学生指導を行う際には,「自分の身は自分で守る」といった意識が重要であるといった話をします.30年以上健康で楽に仕事をしていくには腰痛を起こさない体の使い方を若いうちに習得することが必要だと思います.
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