変形性膝関節症例の疼痛の特徴として歩き始めの疼痛が挙げられます.
この歩行開始時の疼痛というのは国家試験の問題としても出題されるほど,既に当たり前になっている話ですが,それではなぜ変形性膝関節症例は歩行開始時に疼痛を訴えるのでしょうか?
今回は変形性膝関節症例における歩き始めの疼痛について考えてみたいと思います.
臨床実践変形性膝関節症の理学療法 (教科書にはない敏腕PTのテクニック) [ 橋本雅至 ]
目次
Starting pain
変形性膝関節症の病期については以前ご紹介いたしましたが,末期になると歩き始めに限らず荷重時に乗じ疼痛を訴えられる方も少なくないのですが,初期の変形性膝関節症例においては,動作開始時だけに疼痛を訴える症例も少なくありません.
この動作開始時の疼痛はStarting painと呼ばれます.
起床後すぐに歩こうとしたら膝が痛いとか,椅子に座って1時間くらいテレビを見ていて,いざ立ち上がろうとしたときに膝に痛みが出現するような場合にはStarting painが疑われます.
なぜ歩き始めに疼痛が出現するのか?
Starting painを考える上では滑液の役割を考えることが重要です.
膝関節に限ったことではありませんが,われわれの関節は滑液で満たされており,滑液には緩衝作用がありますので,この緩衝作用によってわれわれの関節は守られているわけです.
変形性膝関節症を発症すると滑液の循環が不良となり,浮動状態が続くと重力で滑液が関節内の下方へ貯留してしまいます.
このような滑液が下方へ貯留した状態で関節を動かしたり,荷重を加えると,関節の緩衝作用が低下しているので,荷重に伴う疼痛が出現してしまうのです.
初期の変形性膝関節症例の多くは歩行開始時には膝関節痛を訴えるものの,何歩か歩行すれば膝関節痛が消失するケースも少なくないのですが,安静時に下方に貯留した滑液が歩行による関節運動によって関節内に充満し,それに伴って緩衝機能が改善し,結果的に疼痛が消失するというわけです.
滑液は荷重刺激や関節運動に伴って産生されるわけですが,長期の臥床が続くと滑液が枯渇したような状態になってしまいますので,関節内へ滑液が充満しにくくなり,より歩行開始時に膝痛が生じやすくなります.
歩き始めの疼痛に対してどう対応したらいいの?
歩き始めの疼痛に関しては滑液の偏りが原因ですので,歩き始めに疼痛がある場合には歩行する前に膝関節運動を繰り返したり,手すりを持った状態で足踏みをしてから歩行を開始する等,滑液を関節内に拡げるような方策が有用です.
非常に簡単な方法ですので,患者様ご自身で行っていただくことが可能だと思います.特に歩行開始時には膝関節痛に伴う転倒等の事故も多いので,歩行開始時の疼痛を軽減させたうえで転倒を予防することも重要です.
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今回は変形性膝関節症例における歩行開始時の疼痛について考えてみました.
非常によくある症状の1つですので専門職としてしっかりと説明・介入できるようにしたいところですね.
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