筋の短縮(伸張性の低下)を評価する場合に,一般的な関節可動域測定(二関節筋を緩めた肢位での測定)だけでなく二関節筋を伸張した肢位での測定を行うことによって,二関節筋の短縮を特定することが可能です.今回は膝関節伸展可動域制限について考えてみたいと思います.
関節可動域制限第2版 病態の理解と治療の考え方 [ 沖田実 ]
目次
膝関節伸展可動域制限の原因
股関節伸展位での膝関節伸展角度と股関節屈曲位での膝関節伸展角度を測定し比較すると膝関節伸展可動域制限の原因を特定しやすくなります.股関節屈曲位で膝関節伸展可動域が小さく,股関節伸展位で膝関節伸展可動域が大きいので,膝関節屈曲と股関節伸展作用を持つ二関節筋であるハムストリングス(大腿二頭筋長頭,半膜様筋・半腱様筋)が短縮している可能性が考えられます.
逆に股関節伸展位で膝関節伸展角度が制限され,股関節屈曲位で膝関節伸展角度が大きく増加すれば,膝関節屈曲と股関節屈曲作用を持つ二関節筋(縫工筋・薄筋)が短縮している可能性が考えられます.人工膝関節全置換術後には縫工筋や薄筋が伸展可動域制限の原因になっている場合も少なくありません.
股関節伸展位でも股関節屈曲位でも膝関節伸展角度が同じ程度制限されている場合には,股関節・膝関節の二関節筋であるハムストリングス・縫工筋・薄筋の短縮はないと考えられます.この場合には膝屈曲の作用を持つ他の筋(大腿二頭筋短頭・膝窩筋・腓腹筋・足底筋)に短縮がある可能性があります.さらにこれらの筋の短縮を調べるために,足関節背屈位と底屈位で膝伸展角度を比較します.足関節背屈位よりも足関節底屈位で膝関節伸展角度が増加する場合には,膝関節屈曲・足関節底屈作用を持つ腓腹筋と足底筋が短縮している可能性があります.股関節屈曲位と伸展位で膝関節伸展可動域が同程度制限されている場合には,筋の短縮だけでなく関節包の短縮,関節内運動の障害,骨の衝突(脛骨大腿関節・膝蓋大腿関節),浮腫や痛み,皮膚の伸張性の低下などの可能性が考えられます.
膝関節伸展可動域制限の原因を特定する
前述したように膝関節伸展可動域を測定する場合には,必ず股関節伸展位と股関節屈曲位の2つの肢位で測定を行う必要があります.
症例①は股関節屈曲位では膝関節伸展可動域制限がありますが,股関節伸展位における膝関節伸展可動域は正常です.end feelは軟部組織伸張性で,大腿後面の伸張痛を患者は訴えたことから,症例①における膝関節伸展可動域制限の原因は,股関節伸展と膝関節屈曲の作用を持つハムストリングの短縮によるものと考えられます.
症例②は股関節の角度に関わらず膝関節伸展可動域制限がみられ,end feelも骨性でありました.患者は軽く膝関節を伸展した場合には疼痛を訴えないものの,強く膝関節を伸展すると膝伸展すると疼痛を訴えました.したがって膝関節屈曲可動域制限の原因は,膝関節(脛骨大腿関節)の変形による骨性の制限因子であると考えられます.
症例③はは股関節伸展位の方が膝関節の伸展可動域が制限され,股関節屈曲位では正常であります.end feelは軟部組織伸張性であり,股関節屈曲と膝関節伸展の作用を持つ薄筋,縫工筋の短縮が考えられます.また上前腸骨鰊から大腿部にかけて伸張痛を訴えたことから,縫工筋の短縮の可能性が高いと考えられます.
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今回は膝関節伸展可動域制限の原因について考えてみました.症例の可動域制限を考える上では,対象者の訴える疼痛部位や,end feel,解剖学や運動学的な特性をふまえて可動域制限の原因を考える必要があります.次回は股関節屈曲可動域制限の原因について考えてみたいと思います.
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