今回は理学療法士が実施することの多いMMTについて筋力評価における問題点を考えてみたいと思います.
臨床実習でもMMTを使って筋力評価を行う場面は少なくないと思いますが,筋力評価におけるMMTの限界を十分に理解した上で筋力評価を行うことが重要です.
目次
MMT3以下とMMT4以上では評価結果の信頼性が異なる
本邦では古くから,筋力評価にいわゆるダニエルズらのMMT(Manual Muscle test)が用いられてきました.
しかしながら筋力評価におけるMMTには多くの問題があります.
MMTによる筋力評価の一番の問題は,徒手で量的に筋力を評価するといった点です.これって現実的には不可能なわけです.
例えば握力を測定する場合に,検者の手を握ってもらってMMTの段階で3・4・5と評価しても量的評価として信頼性が高いと考える理学療法士は一人もいないと思います.
握力計を使って” 何kg”といった値を測定することが量的評価なのです.
握力な場合は量的に客観的な評価が行えるうえに,簡易的に測定が可能であることから,筋力の代表値として使われることが多いわけです.
同様に膝関節伸展筋力や肩関節屈曲筋力を4や5と示されても量的評価としては使用することができません.
MMTは筋力評価の絶対的なスタンダードとしてではなく,スクリーニングとしての誰もが使える簡易的なものと位置づけるべきです.MMTが量的評価として意味があるのは,MMT3以下の筋力が弱い場合です.この場合には+-の表記が重要となります.
+-の表記は,初期のダニエルのMMTには記載されていたわけですが,現版ではあまり使用されておりません.
上の図は初期(第5版まで)のダニエルズらのMMTの本に記載のあったMMT3以下の段階づけの表記です.
重力に抗して全可動域動かすことができるものを3とするというのは,基準としては非常にわかりやすいと思います.
また重力を除いた水平面の動きでは全可動域動かすことができる場合が2というのもとてもわかりやすいです.
ここで重要なのはMMT3以下の基準は,どんな検者が評価を行っても同じであり,2といわれれば誰もがどの程度の筋力かが想像がつくといった点です.
現在もこの3や2の表記が使われていますが,MMTの現版においては,+や-の表記は3+と2-を除いて削除されました.3以下の段階づけでは,重力に抗して全可動域は動かせないが可動域の50%以上動かすことが可能なのが3-,可動域の50%未満しか動かせないのが2+,重力を除いた水平面で全可動域は動かせないものの50%以上動かすことが可能なのが2-,全可動域の50%未満なのが1+,筋収縮はあるが動きがみられないのが1,筋収縮もみられないのが0なっております.
この3以下の評価は徒手筋力テストといいながら徒手を使うことなく,誰にでも共通な重力を使って評価を行うので,誰が行っても同じ基準で正確な評価が可能なわけです.
一方で4以上の基準は徒手で抵抗をかけて評価を行いますので,評価基準が検者の主観的なものになってしまい,正確な筋力測定を行うことができません.
したがってMMTが4以上の場合に量的評価をしたい場合には,Hand Held Dynamometer等の筋力測定機器を使用して量的評価を行うことが勧められます.
新・徒手筋力検査法原著第9版 [ ヘレン・J.ヒスロップ ]
筋力評価を行う関節角度が限定されている
筋力評価を行う場合には,特にどの関節角度における筋力が弱いのかを評価することが重要となります.
MMTでは基本的に最終域で最大抵抗をかけて保持させるようなブレイクテストによって筋力評価が行われますので,最終可動域以外(測定した関節角度)における筋力は明らかになりません.
例えば膝関節を屈曲する場合には,ある角度でのブレイクテストをするのではなく,150°~0°までの動きに抵抗をかけ,どの角度での筋力が特に低下しているのかを評価することも重要です.
膝関節伸展位における筋力が低下している症例もいれば,膝関節深屈曲域における筋力が低下している症例もいるわけですので,筋力評価を行う際には筋力評価を行う関節角度を考慮することが重要です.
今回は理学療法士が実施することの多いMMTについて筋力評価における問題点をご紹介いたしました.
臨床実習でもMMTを使って筋力評価を行う場面は少なくないと思いますので,筋力評価におけるMMTの限界を十分に理解した上で筋力評価を行うことが重要です.
次回は機器を用いた筋力測定の方法についてご紹介いたします.
コメント