前回は尿失禁の疫学・特徴・タイプについてご紹介いたしました.
今回は前回ご紹介いたしました4つの尿失禁のタイプと理学療法における失禁改善へのアプローチについて考えてみたいと思います.
目次
腹圧性尿失禁
咳,くしゃみ,荷物を持った際など腹圧がかかった際に尿が漏れてしまうといったタイプの尿失禁です.
重症になると立つ・歩くといった動作の際に尿漏れが起こってしまうこともあります.
特に女性に多く,加齢と最も関連のある失禁ですので,介護予防のメインターゲットになるのもこの腹圧性尿失禁です.腹圧性尿失禁に関しては,他のどんな介入よりも骨盤底筋トレーニングが有効です.
ガイドラインでも腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋トレーニングの高い運動効果が明らかにされております.
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切迫性尿失禁
排尿したいと感じてから,トイレまで我慢できないといったタイプの尿失禁です.
この尿失禁の場合は,尿道括約筋をはじめとする骨盤底筋の機能は正常に保たれているにもかかわらず,大脳が尿意をコントロールできないために,膀胱が不随意に収縮して尿が漏れてしまいます.
膀胱炎などで膀胱が過敏になっている場合(過活動膀胱)や,脳血管障害,パーキンソン病等に見られる尿失禁です.この尿失禁に関しても骨盤底筋トレーニングの有効性が示されてはおりますが,膀胱トレーニングや薬物療法が著効することが多いです.
溢流性尿失禁
排尿ができないため残尿が膀胱へ蓄積され,少しずつ尿が漏れてしまうといったタイプの尿失禁です.
この尿失禁は女性よりも男性に多いのが特徴で,前立腺肥大・糖尿病・脊髄損傷などに多くみられます.
この溢流性尿失禁に関しては尿路感染や尿閉の原因ともなり,肝・腎機能障害を引き起こす可能性もありますので,必ず専門機関の受診が必要となります.
治療としては導尿や薬物療法が有効であるとされております.
機能性尿失禁
尿道括約筋をはじめとする骨盤底筋の機能は正常に保たれているにもかかわらず,排尿動作そのものが困難なために,尿が漏れてしまいます.
認知症や脳血管障害などによる運動機能の低下が原因の場合が多いのが特徴です.
機能性尿失禁の場合には,規則正しい排尿習慣を確立することが重要となります.特に認知症例においては介護者にも理解・協力を得ることが重要となります.
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尿失禁の種類と運動療法との関連
4つのタイプの尿失禁と理学療法士が行う運動療法との関連について考えてみたいと思います.
腹圧性尿失禁については文句なしで骨盤底筋トレーニングを積極的に行う必要があります.
切迫性尿失禁・機能性尿失禁についても骨盤底筋トレーニングが有効ですが,切迫性尿失禁・機能性尿失禁に関しては排尿機能は正常にもかかわらず,間に合わないといった側面がありますので,下肢筋力を強化したり,バランスを向上させることで歩行速度を向上させ,排尿までの時間を短縮させることも非常に重要だと考えられます.
溢流性尿失禁に関しては運動療法よりも何よりも専門機関の受診が最優先ですので,溢流性尿失禁の症状を有する方は早めに専門機関の受診を勧めましょう.
今回は前4つの尿失禁のタイプと理学療法における失禁改善へのアプローチについてご紹介いたしました.
一口に尿失禁といってもタイプによって対応も全く異なりますので,失禁のタイプを把握しておくことが重要です.
次回は骨盤底筋の解剖学的な特徴について考えてみたいと思います.
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