前回は人工股関節全置換術例における跛行に対する理学療法アプローチに関して紹介させていただきました.前回はTrendelenburg徴候・Duchenne徴候といった前額面上の異常歩行に関して主にご紹介いたしましたが,今回は人工股関節全置換術例における矢状面上の歩行に対するアプローチについて考えてみたいと思います.
目次
人工股関節全置換術後に起こりやすい矢状面上の異常歩行の特徴
矢状面における歩行の中で特徴的なのは立脚終期における異常歩行です.なかでも①立脚終期における腰椎の前彎と②立脚終期における足関節の過度な底屈が特徴的です.共通するのはいずれも立脚終期における異常歩行であるといった点と,術側股関節伸展範囲の減少に起因するものであるといった点です.
立脚終期における腰椎の前彎
なぜ立脚終期に腰椎が前彎するかという話ですが,立脚終期における腰椎前彎の原因には2つのパターンが考えられます.
1つは股関節伸展可動域制限によって身体に対して下肢を後方へ位置させ推進力を得ることができないために,代償的に腰椎を前彎することで身体に対して下肢を後方へ位置させ,推進力を得るといったものです.したがってこういった場合には,術側股関節伸展可動域を拡大することが重要となります.
もう1つは術前からの骨盤を前傾し矢状面上における臼蓋被覆を増加させる歩容が残存しているパターンです.こういった症例は術側股関節伸展可動域が拡大しても,歩行中に伸展可動域を十分に使えない場合が多いです.こういった症例に関しては荷重下で股関節を伸展させ,腰椎の前彎を減じるようなアプローチが必要となります.
具体的には非術側の下肢を台の上の挙上し,腰椎が前彎しないように術側の下肢を伸展させながら,術側下肢の股関節伸展運動を促す方法が有効です.伸展させたい下肢を伸展し踵で床面を押した際に得られる床反力と前方の壁を両上肢で押すようにして壁から得られる反力とを対抗させるようにすると効果的な運動が行えます.
立脚終期における足関節の底屈
以前にもご紹介いたしましたが,変形性股関節症例においては矢状面上の臼蓋被覆を減少させるため,立脚終期に股関節伸展運動を回避するような歩行パターンを呈します.
矢状面上では股関節の伸展運動を代償すべく,足関節を底屈していることが多いのです.変形性股関節症例の患側下肢の筋萎縮を調査した報告でも,下腿三頭筋に関しては他の筋群に比較しても筋委縮が軽度な場合が少なくありません.人工股関節全置換術後には股関節伸展範囲を拡大し,足関節底屈運動を減じることが重要となります.
立脚終期における股関節伸展運動を拡大させる上では,歩容指導における声掛けの方法も重要となります.立脚終期における股関節伸展運動を拡大させたい場合に,「足をしっかりと蹴り出してください」といった声掛けがなされることが少なくありませんが,蹴り出すような指示をすると足関節の底屈運動が主体となり,股関節の伸展運動が十分に出現しないことが少なくありません.したがって立脚終期における股関節伸展範囲を拡大する上では,「できるだけ蹴らずに踵を残して歩きましょう」といった声掛けをすると,股関節伸展範囲を拡大することができます.
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参考文献
1)Tateuchi H, et al: Immediate effects of different ankle pushoff instructions during walking exercise on hip kinematics and kinetics in individuals with total hip arthroplasty. Gait Posture 33: 609-614, 2011
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