変形性股関節症例における関節可動域運動~ただ動かせばいいってもんじゃない~

変形性股関節症
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変形性股関節症例の関節可動域の特徴については以前の記事でもご紹介いたしました.今回は変形性股関節症例を対象に関節可動域運動を実施する際に注意するポイントについて考えてみたいと思います.

目次

変形性股関節症例における可動域運動 関節牽引

変形性股関節症例の関節可動域運動を行う前に行われるのが,関節牽引です.

関節牽引は関節可動域運動を行う前に関節を離開させる目的で行われます.関節牽引を行う場合には,関節のゆるみの肢位(Loose pack position)で牽引を行うことが重要です.股関節のゆるみの肢位は股関節屈曲30°・外転30°・外旋20°となりますので,この肢位で関節牽引を行うことが重要です.牽引を行う際には,腕で下肢を引っ張るのではなく自身の体重を使って引っ張ることが重要です.牽引で関節が理解するのは健常例でも数mm程度ですので,関節包内の数mmの動きを感じることが重要となります.足関節よりやや近位を把持すると力が伝わりやすいのですが,膝関節に問題がある場合には大腿部を把持して牽引を加えると良いです.

 

変形性股関節症例における可動域運動のポイント

靴や靴下の着脱動作,爪切り動作を行うためには股関節外転可動域が必要となります.また寛骨臼形成不全を有する二次性股関節症例においては,股関節を外転し臼蓋被覆を増加させることで,股関節の不安定性が軽減できますので,外転可動域の獲得が重要となります.

正常の外転運動では運動中心が大きく移動することは無いわけですが,変形性股関節症例における股関節外転運動では股関節外転時に骨頭が臼蓋外側上部に移動し,その衝突部を支点とする外転運動がおこる場合が少なくありません(Hinge abduction).Hinge abductionは過度な力学的ストレスを引き起こすため関節軟骨の摩耗に伴う関節裂隙の狭小化や同部での骨嚢胞の形成など病態の悪化も懸念されます.したがって股関節外転運動時には可能な限り関節裂隙を開大させ,内下方へ骨頭を誘導しながら運動を行うことが重要となります.

前期・初期の股関節症例に対しては積極的に骨運動を行うことができますが,進行期・末期の股関節症例においては疼痛を伴うため,骨運動が行えない場合も少なくありません.そういった場合には,外転運動の制限因子となる股関節内転筋群を直接的に伸張する方法も有効です.

 

複合的可動域獲得の重要性

股関節の可動域を評価したり,股関節の可動域運動を実施する場合には,可動域測定方法における単一方向の運動の評価や可動域運動に終始してしまうことが多いのですが,屈曲・外転・外旋といった複合運動がどの程度可能かを評価することも重要となります.

股関節外転に屈曲を加えると腸骨大腿靱帯が弛緩するので外転可動域が拡大します.また股関節外転に外旋を加えると坐骨大腿靱帯が弛緩するので外転可動域はさらに拡大します.

日常生活では,屈伸・内外転・内外旋の3つの運動面の可動域を組み合わせて使用していることが多いので,複合的な可動域評価・治療することが重要です.純粋な股関節屈曲運動が困難であっても,外転・外旋運動を組み合わせると深屈曲可能な症例も多く,複合的な可動域が獲得できれば日常生活動作においても可能な動作が増えていきます.

特に寛骨臼形成不全を基盤とする二次性股関節症例においては,伸展・内転運動は臼蓋被覆を減少させる運動方向となるため,積極的には実施しないことが多いです.屈曲・外転・外旋方向の可動域については日常生活動作のとの関連も大きく,臼蓋被覆の面からも可動域拡大が股関節症を進行させる可能性が低いので,積極的に行われることが多いです.

 

股関節の適合曲面

変形性股関節症例における関節可動域制限を考える場合には,寛骨臼と大腿骨頭の位置関係を考えることも重要です.寛骨臼に対して大腿骨頭が軸回旋のみを生じると,関節に負担をかけることなく可動域運動を行うことができます.

股関節が軸回旋した時に描く軌跡は適合曲面と呼ばれますが,股関節屈曲位では外転・外旋位伸展位では外転・内旋位となります.したがって股関節屈曲運動時には外転・外旋運動を,伸展運動時には外転・内旋運動を組み合わせて関節運動を行うと,股関節に負担をかけることなく可動域運動を実施できます.

今回は変形性股関節症例に対する関節可動域運動のポイントについて紹介させていただきました.変形性股関節症例を対象に関節可動域運動を実施する際には,ただ関節を動かせがよいというものではありません.関節に負担の無い動かし方を十分に知っておくことが重要です.

 

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