変形性股関節症例における筋バランスの変化と関節負荷
以前の記事では変形性股関節症例における筋力低下について,主に中殿筋と股関節のインナーマッスルである腸腰筋・小殿筋・深層外旋六筋の筋力低下に関してご紹介させていただきました.今回はまた異なる視点で変形性股関節症例における筋バランスの変化と関節負荷について考えてみたいと思います.
変形性股関節症に限った話ではありませんが,筋の中には過活動になりやすい筋と,活動しにくくなる筋があります.一般的には表層に位置する二関節筋は過活動になりやすく,深層に位置する単関節筋は活動しにくくなることが多いです.
ここでは股関節屈曲筋群を例に筋バランスについて考えてみたいと思います.股関節屈曲作用のある筋には腸腰筋・大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋などがありますが,主動作筋,つまり発揮トルクが大きいのは腸腰筋です.単関節筋である腸腰筋の機能不全が生じると,大腿直筋・縫工筋・大腿筋膜張筋の筋張力が代償的に増加します.腸腰筋は強力な股関節屈曲作用を有し, かつ前額面や水平面での作用がきわめて小さいわけですが,大腿筋膜張筋・ 縫工筋は股関節屈曲以外の股関節内転・外転の作用も強く,内転・外転方向への張力の均衡を取りながら股関節を内外転中間位で股関節を屈曲することとなります.一見,代償的に屈曲運動を遂行できているので,問題ないようにも思えますが,腸腰筋単独で股関節を屈曲する場合に比較すると,関節周囲筋の発揮する総張力が増加してしまいます.結果として関節負荷が増大してしまうわけです.
このような関係性というのは股関節屈曲筋群に限ったことではありません.深層筋・単関節筋による効率的な運動が困難になると,代償的に二関節筋の活動が高まるため,結果的に関節モーメントが大きくなり,関節負荷が増大してしまうのです.変形性股関節症例の筋力トレーニングを考える上では,闇雲に筋出力を向上させるのではなくて,筋バランスを考えた上で,筋出力発揮が困難となっている単関節筋・深層筋にターゲットを絞って,トレーニングを行う必要があります.またトレーニングを行う上ではどのような運動でどの筋群が活動しやすいかを把握しておくことも重要です.
どの肢位でどの筋が活動しやすいかについても様々な筋電図学的な研究で検討がなされておりますので,そういったものを一つ一つ確認していく努力が必要でしょう.例えば腸腰筋は股関節深屈曲位で活動量が増え,大腿直筋は股関節深屈曲位で活動量が減少することから,深屈曲位で腸腰筋を活動させ,腸腰筋の発揮張力を向上させることができれば大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋の筋張力を減少させることに繋がり,結果的に関節負荷を軽減させることが可能となります.つまり腸腰筋のトレーニングが股関節症の予防につながるとも考えられます.
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参考文献
1)Lewis CL et al :Effect of position and alteration in synergist muscle fibers contribution on hip fibers when performing hip strengthening exercises,Clin Biomech,2009
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