今回は大腿骨近位部骨折例を担当した時に確認すべき血液検査マーカーについて考えてみたいと思います.
一昔前は血液検査データを確認するにも紙カルテから検査データを探して,術前の値と比べてと非常に大変でしたが,電子カルテが導入されてからは理学療法士でも簡単に血液検査データを把握できる時代になったと思います.
学会報告等を見ても以前に比べて血液検査マーカーをアウトカムとした研究が増えておりますが,これも電子化の恩恵を受けた一つの結果だと思います.
今回は特に着目すべき5つの血液検査マーカーを挙げて説明をさせていただきます.
目次
Hb(ヘモグロビン)
大腿骨近位部骨折を受傷すると,骨折に伴って出血いたしますので一般的にはHb値が低くなります.
特に大腿骨転子部骨折では大腿骨頸部骨折に比較して出血量が多いので,貧血を合併する症例も多く,Hbが低値を示しやすいので注意が必要です.
当然ながら貧血を合併していれば,積極的な運動療法は難しくなりますので,Hb値を確認した上で運動負荷を決定する必要があります.
TP・Alb
大腿骨近位部骨折例が機能回復を果たす上では栄養状態が非常に重要となります.
既に術前後の栄養状態が術後のアウトカムに影響することも明らかにされております.
また術後の栄養療法は低栄養状態にある大腿骨近位部骨折例の機能回復・歩行獲得を促進することも明らかにされております.
ですので術前後の栄養状態を把握することは理学療法を行う上でも非常に重要となります.
大腿骨近位部骨折例の多くが術後に低栄養状態に陥るのですが,これはなぜでしょうか?
痛みで食事が摂取できないとかそんな風に考える方が多いかもしれませんが,それだけではありません.
一番の理由は蛋白異化作用によるものです.
骨折や手術により組織が損傷を受けると組織を修復しようという反応が起こります.
組織修復のためには蛋白質が必要となり,組織修復に多くの蛋白源を費やす必要がありますので,結果的に術後は低栄養状態に陥りやすいわけです.
術前から十分な栄養状態にあれば基準値を下回ることは少ないのですが,術前に基準値のギリギリの栄養状態であると,骨折や手術によって容易に基準値を下回ってしまうのです.
D-dimmer
D-dimmerは1.0μg/ml以下が正常ですが,この値より高値となった場合には深部静脈血栓症が疑われます.
D-dimmerの特徴として陰性的中率が高くD-dimmerが正常であれば深部静脈血栓症を否定できるのですが,陽性的中率は高くないので,D-dimmerが高くても深部静脈血栓症でない場合もある.
なぜこんなことが起こるのかと言いますと,D-dimmerというのは体中の血液凝固に反応するマーカーですので血管内のみならず骨折後に起こる骨折部周囲の血腫にも反応してしまいます.
ですのでD-dimmerが高値の場合には体のどこかの血液凝固が亢進していると解釈できますが,血管内の反応なのかどうかはD-dimmerのみではわからないということになります.ですので最終的には下肢エコーを撮影して確定診断を行います.
CRP
CRP(C-reactive protein:C-反応性蛋白)とは,炎症性刺激や細胞破壊が起きた時に増える蛋白質のことを言います.正常値(基準値)は0.3(mg/dl)であり,これよりも上昇していると炎症があるということになります.
ただCRPは骨折部位に限らず全身の炎症に反応しますので,その点にも注意が必要です.
例えばX線上で骨癒合が良好であり,しかも炎症の5兆候の所見がないにも関わらずCRPが高い場合には,骨折部以外の炎症の可能性が疑われます.例としては肺炎や尿路感染症です.
こういった合併症がある場合にもCRPは高くなることに注意が必要です.
今回は大腿骨近位部骨折例を担当した時に確認すべき血液検査マーカーについて紹介させていただきました.われわれ理学療法士も血液検査マーカーをきちんと確認した上で,適切な運動療法を提供したいものですね!
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