人工股関節全置換術後の脱臼肢位に留意した日常生活指導

投稿者: | 2018年8月16日

以前の記事で人工股関節全置換術例における脱臼に関してご紹介いたしました.脱臼に関連する要因としては,術中要因(アプローチ・骨頭径・オフセット長・前方開角・外方開角)が重要であるわけですが,易脱臼性を有する人工股関節全置換術例においては丁寧に脱臼回避に向けて日常生活動作指導を行っていく必要があります.今回は易脱臼性を有する症例を想定して,後方アプローチの症例を例に,脱臼肢位に留意した日常生活指導に関してご紹介いたします.

 

寝返り

左図の寝返りでは股関節が過度に内転・内旋しているのがわかります.右図の寝返りのように,反対側の下肢を屈曲することで過度の内転・内旋を防止することができます.軟部組織の筋長が十分ではない術後2週程度は,両下肢に枕を挟んだ状態で寝返りを行うことを指導すると脱臼予防につながります.

 

ベッドからの起き上がり

ベッドからの起き上がり動作では,左図のように術側下肢がベッドの上に残り,左股関節の内旋が強制されてしまうことがあります.右図は坐位からベッドへ戻る動作であるが,左下肢がベッド端にひっかかり左股関節の内旋が大きくなっているのがわかります.起き上がり動作では術側の下肢がひっかからないように注意が必要です.

 

立ち上がり

左図の立ち上がりでは過度に股関節が内転・内旋した状態となっています.立ち上がり時に骨盤が前傾することで股関節が屈曲し,屈曲・内転・内旋の複合動作となっております.右図のように,立ち上がり動作の際には両股関節を外旋した状態で骨盤を前傾(股関節屈曲)するように指導すると,脱臼の危険性は低くなります.寝返り・起き上がり動作は非荷重位での動作ですので,脱臼危険は低くなりますが,荷重位の動作ではバランスを崩した際に股関節が急に内転・内旋してしまうこともありますので注意が必要です.

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入浴動作(浴槽内からの立ち上がり)

左図の立ち上がり動作では術側である左股関節が過度に屈曲してしまっています.右図のように術側下肢を伸展位にして反対側下肢を屈曲して立ち上がる方法を指導すると脱臼の危険性は低くなります.反対側に変形性股関節症・変形性膝関節症を合併しており,反対側下肢を深屈曲することが難しい場合や,関節リウマチなどで手指の変形があり上肢の筋力低下が著しい場合には,浴槽台の使用を勧めるとよいでしょう.

 

床の上のものを拾う

左図の動作では股関節が過度に屈曲してしまっています.右図のように術側下肢を後方へ引いてから実施すると脱臼肢位を回避できます.また胸腰椎の屈曲可動域を向上させることができれば,前屈動作時の股関節の屈曲角度を減じることが可能となりますので,脱臼予防にもつながります.

 

床からの立ち上がり

床からの立ち上がり動作では長坐位⇒四つ這い⇒両膝立ち⇒片膝立ちを経由して立ち上がる方法が勧められます.

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この方法で立ち上がり動作が困難な場合には前方の台を両上肢で支持する等の方法で行うとよいでしょう.この立ち上がり動作の方法は獲得するまでに時間を要しますので,繰り返して練習を行うことが重要です.人工股関節全置換術例では膝関節の屈曲運動に関しては特に制限を設ける必要はありませんので,両膝立ち姿勢から正座姿勢をとることも可能です.

 

今回は易脱臼性を有する症例を想定して,後方アプローチの症例を例に,脱臼肢位に留意した日常生活指導に関してご紹介いたしました.人工股関節全置換術例に限ったことではありませんが,「あれもダメ,これもダメ」といった指導の方法ではなく,「こうすればできます」といった前向きな指導を行いたいものです.

 

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